研究プロジェクト

2015年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医療費の自己負担率が高齢者の医療需要に及ぼす影響

研究者
飯塚敏晃
研究期間
2015年4月~2016年3月
研究目的
高齢化は、日本のみならず、世界各国で加速度的に進展している。高齢者の医療費は、先進国のみならず、途上国においても医療費の大半を占め、それをどのように効率化するかは、各国共通の課題となっている。患者による医療費の自己負担は、医療保険がもたらすモラルハザードを抑制する重要な役割を果たすが、高齢者の医療に関しては、自己負担が医療需要に及ぼす影響に関する知見は極めて限定的である。例えば、RAND Health Insurance Experimentは、自己負担率が医療需要に及ぼす影響を分析した代表的研究であるが、既に40年以上前の分析であると同時に、高齢者をそのサンプルに含んでいない。本研究では、そのギャップを埋めるべく、自己負担率が高齢者の医療需要に及ぼす影響を実証的に分析する。我が国においても、近年、高齢者の自己負担率を上げる動きが出てきており、研究結果は政策的にも重要と考えられる。
研究計画
我が国においては、高齢者の医療費の自己負担率が70歳前後で3割から1割へと大きく変化する。本研究では、この非連続性を利用し、自己負担率の変化が医療需要に及ぼす影響を推計する。また、医療全体の価格弾力性を推計すると同時に、使用するデータ(レセプトデータ)のメリットを生かし、患者のHealth Status別や、医療サービス別の推計を行う。更に、健康診断のデータも用い、自己負担率の低下に伴う医療需要の増加が短期的な健康状態へ及ぼす影響についても分析する。
研究成果
まず、70 歳で自己負担率が低下することで、医療支出が11%増加することがわかった(価格弾力性は-0.16)。この推定値から、仮に自己負担率の 30%から 10%への低下が 70 歳から 71 歳に一年遅れたとすると、医療費支出は毎年約 5.8 億ドル減少することになる。また、自己負担率低下の影響はサービスのタイプによって異なり、特に、高齢化社会において今後ますます増加すると思われる、整形外科や眼科の医療需要が自己負担に敏感に反応することが分かった。また、患者の健康状態によっても反応が異なり、外来サービスにおいて、比較的健康な患者の医療需要がより増加することがわかった。最後に、自己負担率の低下による医療需要の増加が健康状態を改善するか、健康診断のデータを用いて分析を行ったが、少なくとも短期的には健康状態が改善するという結果は得られなかった。従って、自己負担率の低下に伴うベネフィット(健康状態の改善)が追加的なコスト(医療費支出)を上回るという証左は得られなかった。 これらの結果を下記の論文として出版した。

"Patient Cost Sharing and Medical Expenditures for the Elderly," Journal of Health Economics, 2016. 45: 115–130 (with K. Fukushima, S. Mizuoka, and S. Yamamoto).

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2015年4月~2016年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
医療・介護保険財政モデルにおける研究では,モデルの改良課題として残されていた金利の内生化をおこなう。積立金を保有する財政方式の場合には,積立金をどこに投資できるのか,金利が低下するのではないか,という問題が指摘されている。金利が内生的に変化することをモデルで考慮することによって,積立金規模の増加にともなう運用困難をとらえ,その政策的含意を検討する。また,これまでの世代間負担平準化政策の実務上の問題の考察を加え,医療・介護保険の財政方式の制度設計をおこなう。
研究成果
要素価格を内生化することで,積立金規模の増加にともなう運用困難を把握できるようにした。このような困難があっても,積立金をもつ財政方式が負担の平準化を通して,将来世代の負担軽減と世代間の負担格差の縮小につながることが示された。保険料を平準化させる財政方式のなかでは,長期の平準化期間をスライドさせる保険料平準化方式が負担平準化を図る政策に近い帰結をもつ結果を用いて,期間スライド方式の制度設計の考察を深めた。

研究課題わが国におけるプライマリ・ケアの質の評価と医療制度に対する国民満足度の調査

研究者
井伊雅子・関本美穂
研究期間
2013年11月~2015年10月
研究目的
プライマリ・ケアとは、「重症外傷以外の疾患を抱える患者に最初に提供される医療サービス」と定義され、医療ニーズの8~9割に対応する。多くの国々ではプライマリ・ケアの専門医(家庭医)が地域に配置され、医療サービスへの「玄関口」としての役割を担うのが一般的である。家庭医は幅広い知識を持ち、日常的な健康問題に対応するほか、必要に応じて専門医に紹介する。また健康管理や疾患の予防なども行う。
フリーアクセスを許している日本では、「かかりつけ医」と呼ばれる診療所の医師と病院の医師の双方がプライマリ・ケアを提供する。また診療所の医師も何らかの専門領域を持っており、日本のプライマリ・ケアは専門医が担っている。しかしこの制度は、受診先を自由に選択できるという利点がある反面、検査や治療が重複したり過剰になりやすい、予防や健康管理が疎かになるなどの弱点があると云われる。また複数の疾患を持つ患者は多くの医療機関を受診せざるを得ず、診療の効率が悪い。
日本は、低い医療費で高い健康水準を維持していると言われる。しかしながら診療の待ち時間は長く、入院期間も長い。さらに、病院に軽傷の救急患者が殺到したり救急搬送困難事例が多発したりと、医療提供体制の質は必ずしも高くない。ロイター社の調査に対して「家族が重篤な病気になったときに、良質で手ごろな医療を受けることができる」と答えた日本人は15%にとどまり、22か国中最低レベルであった。海外では、強固なプライマリ・ケア制度を構築すると、安価で良質な医療が提供できることを示す研究が多数存在する。それでは、家庭医が主としてプライマリ・ケアに関わる欧米のシステムと、診療所と病院の医師双方がプライマリ・ケアに関わるわが国のシステムは、医療の質や患者満足度、コストの面でどのように異なるのか。また最近、病院へのフリーアクセスを制限しようという動きがある。しかしわが国では病院もプライマリ・ケアの重要な担い手である。特に複数の疾患を持つ患者にとって、一か所で様々な疾患に対応してくれる病院は利用価値が高いが、日本のかかりつけ医は家庭医と同じ役割を果たすことができるのか。
上記の疑問に答えるため、本研究は様々なプライマリ・ケアの評価指標を利用して、わが国のプライマリ・ケアを国際比較する。また医療システムに対する国民の満足度調査を行い、わが国の医療提供体制に対する満足度が低い原因を検討する。
研究方法
医療制度満足度に関するアンケート調査を行い、日本のプライマリ・ケア制度、特に地域医療の特徴と問題点を分析した。18歳以上の男女を対象とし、地域(都会/へき地)・年齢・性別で層別化し、各層から同数ずつサンプリングしてインターネット調査を行った。依頼数は6804人、有効回答数は2229人 (都会1112人、へき地1117人)で、回収率は32.8%であった。都会とへき地に分けてサンプリングした理由は、わが国の医療計画は医療資源や診療機能を医療圏間で均一にすることを目的とした医療資源の均てん化を進めてきたが、果たして都会とへき地で医療満足度に違いがあるかを検討するためである。調査期間は、2014年4月1日〜4月7日で、調査の内容は、年齢・性別・学歴・年収・健康状態の他、1) 医療制度全般に対する意見、2)医療へのアクセス、3)医療費の自己負担、4)かかりつけ医に対する意見、5)入院や救急受診の経験、6)医療の質に対する認識のほか、現在受けている医療ついての満足度、待ち時間、医療費が払えなくて受診をあきらめた経験や医師-患者関係などの患者経験を尋ねた。
研究成果
日本の医療制度では病気や気になる症状が出て初めて医療機関にかかる仕組みになっており、健康時から継続的に地域住民の健康状況を把握している医療者がほとんどいない。そのため、地域の医療機関を選ぶ時の情報(特に夜間、週末、休日での受診)が不十分であること、「かかりつけ医」がいても、夜間や休日の救急時に必要な医療を受けられないと思っている人が多いことが、日本で医療制度に関する不満が多い理由の一つとして、今回の調査で明らかになった。詳細は、井伊雅子・関本美穂 (2015) 「日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点」 『フィナンシャル・レビュー』 123号 財務省財務総合政策研究所に掲載。

研究課題日本の慢性疾患ケアにおける医師誘発需要-マルチレベル分析を使った地域の医師密度と受診頻度の関連性

研究者
井伊雅子・関本美穂
研究期間
2013年10月~2015年3月
研究目的
現在日本では、生活習慣病の受診頻度に大きな地域差がみられる。この地域差は、医師間の競争により生じている可能性がある、医師誘発需要 (Supplier-induced demand, 以下SID) は、医師が患者の医療需要を操作して医療サービスの利用を増加させることから生じる。本研究ではレセプト・データを分析して、地域レベルでの慢性疾患のケアにおけるSIDの存在を検討した。
研究方法
競争が激しい(高医師密度)地域での診療所と病院の医師は、競争が激しくない地域(低医師密度)の医師と比較して、診療間隔を短くするという仮説を検証した。ランダム効果マルチレベルモデルを使用して、受診頻度や医療費に医師密度が及ぼす影響を推定するために、患者調査データとレセプト・データを分析した。請求データの分析では、我々は、医師が開始する出会いの頻度のためのプロキシとして平均薬物投与期間を使用していました。
研究成果
分析の結果、診療所の医師密度は受診頻度と強く関連していることが示されたが、病院の医師密度とは一貫した関連を認めなかった。診療所や病院の医師密度の増加は、受診頻度から独立して医療費の増加と有意に関連した、本研究は、疾患レベルでSIDの存在を実証した最初の研究である。今後の研究の方向性としては、頻繁な受診が患者に臨床的な便益をもたらすどうか検討する必要がある。詳細は、Sekimoto, M., & Ii, M. (2015). Supplier-Induced Demand for Chronic Disease Care in Japan: Multilevel Analysis of the Association between Physician Density and Physician-Patient Encounter Frequency. Value in Health Regional Issues, 6, 103-110. および井伊雅子・関本美穂 (2015)「日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点」『フィナンシャル・レビュー』123号財務省財務総合研究所に掲載

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2014年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医療費の自己負担率が高齢者の医療需要に及ぼす影響

研究者
飯塚敏晃
研究期間
2014年4月~2015年3月
研究目的
高齢化は、日本のみならず、世界各国で加速度的に進展している。高齢者の医療費は、先進国のみならず、途上国においても医療費の大半を占め、それをどのように効率化するかは、各国共通の課題となっている。患者による医療費の自己負担は、医療保険がもたらすモラルハザードを抑制する重要な役割を果たすが、高齢者の医療に関しては、自己負担が医療需要に及ぼす影響に関する知見は極めて限定的である。例えば、RAND Health Insurance Experimentは、自己負担率が医療需要に及ぼす影響を分析した代表的研究であるが、既に40年以上前の分析であると同時に、高齢者をそのサンプルに含んでいない。本研究では、そのギャップを埋めるべく、自己負担率が高齢者の医療需要に及ぼす影響を実証的に分析する。我が国においても、近年、高齢者の自己負担率を上げる動きが出てきており、研究結果は政策的にも重要と考えられる。
研究計画
我が国においては、高齢者の医療費の自己負担率が70歳前後で3割から1割へと大きく変化する。本研究では、この非連続性を利用し、自己負担率の変化が医療需要に及ぼす影響を推計する。また、医療全体の価格弾力性を推計すると同時に、使用するデータ(レセプトデータ)のメリットを生かし、患者のHealth Status別や、医療サービス別の推計を行う。更に、健康診断のデータも用い、自己負担率の低下に伴う医療需要の増加が短期的な健康状態へ及ぼす影響についても分析する。
研究成果
ontinuityの手法を用い、日本医療データセンターのレセプトデータ(2005年~2012年)を用い推計を行った。暫定的な推計結果によると、高齢者の医療需要全体の価格弾力性は、RAND Health Insurance Experiment 等の非高齢者の値と整合的であった。また、医療サービス別の推計を行った結果、サービスの種別によって価格弾力性が異なることがわかった。健康状態別に価格弾力性がどの程度異なるか、また、自己負担率の低下が健康状態に及ぼす影響についても検討した。
研究発表:”Patient Cost Sharing and Medial Expenditures for the Elderly,” The 6th Tri-Country Health Economics Conference, 東京大学 (2014.9.7)

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2014年4月~2015年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
医療・介護保険財政モデルでは,世代間での生涯負担の格差を縮小する政策として,約100年後に完全積立方式に移行する政策,一部を積み立てる部分積立方式,修正賦課方式等の比較を進めてきた。今年度の研究では,世代間の負担の平準化を図る財政方式の特定化をおこない,部分積立方式との比較をおこなう。
研究成果
持続可能な医療・介護保険財政に関する研究として,長期の医療・介護費用と国民所得を予測する医療・介護保険財政モデルの改良を進めた。
この研究では,世代間での生涯負担の格差をなくすように長期にわたり保険料を平準化(一定に)する財政方式の設計を進めた。このような財政方式は複雑なアルゴリズムを必要とするが,それに近い状態を修正賦課方式の一種(計画期間を一定とし,計画見直しの際に終期が将来にスライドしていく)ことによって作り出せることが示された。このことは,世代間の負担格差をなくそうとする政策のなかで終期スライド方式の修正賦課方式が実務的に実装しやすい利点をもつものと考えられる。
「医療・介護保険の平準保険料方式への移行」,『季刊社会保障研究』第50巻第3号,2014年12月,324-338頁(福井唯嗣と共著)

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2013年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2013年4月~2014年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
医療・介護保険財政モデルではこれまで約100年後に完全積立方式に移行する政策を研究対象としてきたが,当初の保険料引き上げ幅が大きく,導入への政治的抵抗の強さが課題とされている。政治的実現可能性が高く,より穏やかな改革として,一部を積み立てる修正賦課方式(あるいは部分積立方式)にモデルを拡張する作業を進めている。昨年度の研究で,この方法での世代間の負担格差の平準化効果が分析以前に予想していた以上に大きいことが判明したため,今年度はその理由の解明に取り組む。
研究成果
持続可能な医療・介護保険財政に関する研究として,長期の医療・介護費用と国民所得を予測する医療・介護保険財政モデルの改良を進めた。 この研究では,将来の医療・介護給付費の不確実性を考慮に入れた確率シミュレーション分析により,これら費用の将来の増加に備え,保険料の平準化を図る政策の実行可能性を評価した。部分積立方式あるいは修正賦課方式のように遠い将来では積立金をもたない財政方式のもとでも,長期にわたって保険料の平準化を図ると世代間の負担格差の縮小に重要な役割を果たすことが示された。この研究成果は2013年度の日本経済学会で報告された。

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2012年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2012年4月~2013年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
今年度は医療・介護費用,金利と成長率を確率的に生成する確率シミュレーションにおいて,政策の選択肢を拡張し,完全積立方式への移行だけでなく,部分的な積立金をもつ,あるいは積立金をゼロ(修正賦課方式)とするが,将来の医療・介護給付費の増加に備え,保険料の平準化を図る政策の分析をおこなう。
研究成果
今年度は医療・介護費用,金利と成長率を確率的に生成する確率シミュレーションにおいて,政策の選択肢を拡張し,完全積立方式への移行だけでなく,部分的な積立金をもつ,あるいは積立金をゼロ(修正賦課方式)とするが,将来の医療・介護給付費の増加に備え,保険料の平準化を図る政策の分析をおこなった。部分積立方式あるいは修正賦課方式のもとでも,将来世代の負担が低下することで,長期にわたって保険料の平準化を図ることが,世代間の負担格差の縮小に重要な役割を果たすという結果が得られた。この研究成果は2013年度の学会で報告予定である。

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2011年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医療過誤責任の変化が医療事故に及ぼす影響

研究者
飯塚敏晃
研究期間
2011年4月~2012年3月
研究目的
本研究においては、医療過誤責任に関する法律の変化が回避可能な医療事故の発生にどの様な影響をもたらすか、米国のデータを用いた実証分析を行う。医療過誤責任法の重要な目的の一つは、過失による医療事故にペナルティーを科すことで、回避可能な医療事故の発生を抑止することにあると考えられる。しかしながら、医療過誤責任の変化が医療事故の発生に影響するかどうかはほとんど知られておらず、本研究ではこの因果関係を明らかにしたい。
研究計画
米国各州における医療過誤責任法の変化が、回避可能な医療事故の発生頻度にどの様な影響を及ぼしたかを分析する。回避可能な医療事故を特定するのは通常困難であるが、Agency for Healthcare Research are Quality(AHQR)がこの目的のために開発したPatient Safety Indicatorという指標を用いる。これらの指標の作成には患者レベルの入院データが必要なため、全米の20%の病院をカバーするNationwide Impatient Sample(NIS)のデータを用いる。一方、米国各州の医療過誤責任法の変化についてはRonen Avrahamが作成したデータセットを用いる。分析期間は1994年~2007年。
研究成果
医療過誤責任法(medical liability law)の変更が回避可能な医療事故の発生に影響を及ぼすか、米国の1994年~2007年のデータを用いて分析した。病院及び患者をそれぞれ分析単位とする分析を行った結果、いずれにおいても医療過誤責任の強化が医療事故を抑止する効果が認められた。また、医療過誤責任法の変更(reform)の影響は法律ごとに異なることが確認された。例えば懲罰的損害賠償金額(punitive damages)に上限(caps)を設ける法律は医療事故を増加させるが、連帯責任ルール(joint and several liability rule)の緩和は医療事故を減少させることが示された。
研究発表:"Does Higher Malpractice Pressure Deter Medical Errors?", CIRJE-Seoul National University Joint Conference, 東京大学(2011年11月11日)。
好評論文:"Does Higher Malpractice Pressure Deter Medical Errors?" Journal of Law and Economics, 2013, 56(1): 161-188

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2011年4月~2012年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
将来の経済前提と医療・介護費用が確率的に変動するシミュレーションの手法を開発し,積立方式への移行過程が環境の変化に適切に対応できるか否かを検討する。また,財源構成については社会保障と税の一体改革での議論の際の推計よりも精緻化を図り,将来の保険料と公費負担の需要をより正確に測定する。2025年以降の財政需要も推計することで,一体改革よりも長期的視野をもった財政運営と税制改革の戦略を考察する。
研究成果
医療・介護費用,金利と成長率を確率的に生成する確率シミュレーションが実施できるようにモデルを拡張した。積立方式へ移行するためには,環境の変化によって保険料を逐次変更していくことを必要とするが,保険料変動に激変緩和措置を設けると積立方式への移行に失敗してしまうケースが多く発生する。積立方式への移行には,環境変化への柔軟な対応が必要である。「医療・介護保険財政をどう安定させるか」,鈴木亘・八代尚宏編『成長産業としての医療と介護』,日本経済新聞出版社,2011年11月,45-71頁(福井唯嗣と共著)「医療・介護保険の積立方式への移行に関する確率シミュレーション分析」,『会計検査研究』,第46号,2012年9月,11-32頁(福井唯嗣と共著)

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2010年度 医療政策教育・研究ユニット助成 研究プロジェクト

研究課題医師の事務作業にまつわるコストと、事務作業が医療の質と患者満足度に及ぼす影響

研究者
井伊雅子・関本美穂
研究期間
2009年4月~2010年9月
研究目的
近年医療者の労務環境の悪化と、それに伴う離職が問題となっている。診療以外の業務(文書の作成や会議、管理業務)の著しい増加が、労務環境の悪化の一因であるとの指摘がある。とりわけ診断書や手術の説明同意書、さまざまな診療計画書などの書類作成作業は、最近10年間に著増している。これらの文書は、医療の質の担保と向上を目的として作成されるが、書類作成にかかる多くの時間と労力が、これらの文書がもたらす便益に見合うものかどうかということを慎重に考える必要がある。医療の現場がマンパワーの不足に悩む現在、書類作成が診療時間を制限したり、その結果医療の質が損なわれることがあれば、書類作成の意義が失われる。本研究の目的は、医療者の書類作成のコストと便益を評価することである。
研究方法
さまざまな規模の病院の勤務医10人にインタビューを行い、1)書類作成業務を負担に感じているか、2)書類作成業務は年々増加しているか、3)書類作成の義務とそれに付随する診療報酬制度は、どのような社会的背景や医療情勢に基づいて生まれたと思うか、4)書類を作成することは患者満足度にどのような影響を与えるのか、5)書類の作成時間はどれくらいか、等について意見を収集した。
研究成果
医師が書類作成にかける時間は、平均して1日1時間であった。作成する書類は、入院計画書、退院計画書、手術や処置の説明書および同意書、診断書、主治医意見書など多岐に渡り、ほとんどの医師が書類作成業務は最近10年間に著明に増加したと話した。このような書類は患者権利の確保や医療の質の保障に貢献していると回答する医師が多い一方で、書類の内容が画一的・形式的で実質的な医療の質と関係ないという医師もいた。ただしこのような書類作成の義務は、今後も患者の権利を確保する手段として医療現場に課せられるだろうという意見が大半であった。いっぽう患者がこのような書類をどのように受け取るかについては、医療内容に対する理解を深めることにより患者満足度を向上させるという意見から、患者は書類に書かれている情報をほとんど理解できず、したがって書類を渡すことは表面的な満足にしかつながらないという意見まで、さまざまであった。医療クラークは書類作成業務の軽減に役に立つという医師が多かったが、医療クラークの業務内容は病院や医師によりさまざまであった。医師の書類作成業務は患者の「知る権利」や「医療を選択する権利」を保証する手段として利用されているが、このような質の保障には大きなコストがかかっており、医療の高度化と共に今後も増えるだろう。

研究課題医療過誤責任の変化が医療事故に及ぼす影響

研究者
飯塚敏晃
研究期間
2010年4月~2011年3月
研究目的
本研究においては、医療過誤責任に関する法律の変化が回避可能な医療事故の発生にどの様な影響をもたらすか、米国のデータを用いた実証分析を行う。医療過誤責任法の重要な目的の一つは、過失による医療事故にペナルティーを科すことで、回避可能な医療事故の発生を抑止することにあると考えられる。しかしながら、医療過誤責任の変化が医療事故の発生に影響するかどうかはほとんど知られておらず、本研究ではこの因果関係を明らかにしたい。
研究方法
米国各州における医療過誤責任法の変化が、回避可能な医療事故の発生頻度にどの様な影響を及ぼしたかを分析する。回避可能な医療事故を特定するのは通常困難であるが、Agency for Healthcare Research are Quality(AHQR)がこの目的のために開発したPatient Safety Indicatorという指標を用いる。これらの指標の作成には患者レベルの入院データが必要なため、全米の20%の病院をカバーするNationwide Impatient Sample(NIS)のデータを用いる。一方、米国各州の医療過誤責任法の変化についてはRonen Avrahamが作成したデータセットを用いる。分析期間は1994年~2007年を想定している。
研究成果
医療過誤責任法(medical liability law)の変更が回避可能な医療事故の発生に影響を及ぼすか、米国の1994年~2007年のデータを用いて分析した。病院及び患者をそれぞれ分析単位とする分析を行った結果、いずれにおいても医療過誤責任の強化が医療事故を抑止する効果が認められた。また、医療過誤責任法の変更(reform)の影響は法律ごとに異なることが確認された。例えば懲罰的損害賠償金額(punitive damages)に上限(caps)を設ける法律は医療事故を増加させるが、連帯責任ルール(joint and several liability rule)の緩和は医療事故を減少させることが示された。
研究発表:東北大学経済学部(2010年7月1日)。

研究課題医療・介護保険財政モデルの開発

研究者
岩本康志
研究期間
2010年4月~2011年3月
研究目的
医療・介護保険財政モデルは,福井唯嗣・京都産業大学准教授と共同開発したものである。この研究は,このモデルを用いて医療・介護費用の長期間の推計をおこない,政府の公式推計ではカバーされない,より長期的な視野からの社会保障財政の課題を分析することを目的としている。年齢別の保険料・税負担を推計することで,世代ごとの生涯の負担を計測し,世代間格差を縮小させる積立型の医療・介護保険制度の制度設計を研究する。
研究計画
2008年に社会保障国民会議がおこなった医療・介護費用の将来予測を再現するとともに,財源構成については精緻化を図り,将来の保険料と公費負担の需要をより正確に測定する。さらに2025年以降の財政需要も推計することで,より長期的視野をもった財政運営と税制改革の戦略を考察する。
研究成果
2025年度から2050年度にかけて公費負担は医療がGDPの1.25%,介護が1.05%増加すること,また,2050年度以降も約20年間にわたり公費負担は上昇を続けることが推計された。生活の質に直結する医療・介護サービスを削減することは容易ではなく,効率化の一層の努力が図られるにしても,医療・介護費用に対する継続的な公費負担の増加が発生するものと考える必要があることが示唆された。
「医療・介護保険の費用負担の動向」,『京都産業大学論集 社会科学系列』,第28号(2011年3月)

研究課題画期的新薬の普及における経済分析:メバロチンを例に

研究者
大橋 弘
研究期間
2010年4月~2011年3月
研究目的
高齢化の進展と生活習慣の変化により、血中コレストロール値が基準値よりも常に高い状態にある脂質異常症の患者が増加している。脂質異常症は、動脈硬化進行の主要な危険因子とされ、その進行は冠動脈疾患による死亡リスクを増加させることが疫学的にも立証されている。コレストロール値を適切に管理するための第1の方法は運動や食事を通じた療法だが、生活習慣の改善ではコレストロールの十分な低下が見込まれない患者に対しては脂質異常症治療剤が投与されている。
メバロチンは1989年に三共(現在の第一三共)から発売された脂質異常症治療剤である。メバロチンの大きな特徴は、それ以前に利用されていたフィブラート系やプロブコール系と呼ばれる治療剤と比較して、大幅な総コレストロールの低下を実現した点にある。本研究においては、メバロチンの普及の経済学的なメカニズムを明らかにするとともに、易学的な調査を踏まえたうえで、メバロチンが脂質異常症治療剤市場に与えた影響を定量的に測定することを目的とする。
研究計画
本研究では、1991年から2005年までの市場データを用いて、メバロチンを含む脂質異常症治療剤の普及のプロセスを産業組織論の手法を用いて解明し、その上でメバロチンの普及が与えたインパクトを脂質異常症と密接に関連する冠状動脈疾患に焦点を当てて定量的な分析を行う。具体的には、メバロチン(あるいはスタチン製剤全体)が開発・普及されなかった仮想的な市場を想定した上で、メバロチンが存在したことで、冠状動脈疾患による死亡リスクがどの程度低減したかをシミュレーション解析する。
研究成果
過去のイノベーションによって得られた知見は、新たなイノベーションの創出に利用され、これを異時点間のスピルオーバーという。本研究では、わが国における脂質異常症治療剤市場を対象として、このスピルオーバーを通じて創出されたイノベーションの当該製品市場に及ぼした影響及び経済厚生への貢献を定量的に解析した。1994年から2005年までのデータを用いて分析をした結果、後継スタチン製剤はスタチン系製剤の市場規模を1%程度拡大したものの、先行するスタチン系製剤の売上げを18.2%低下させた。その一方で、後継スタチン系製剤は先行するスタチン系製剤よりもすぐれた薬効を持つことから、冠動脈疾患による死亡者数を7.2%低下させ、経済厚生の向上に一定の役割を果たした。これらの研究成果は、日本経済新聞社「やさしい経済学」(2010年8月2日)で公表され、また日本医科大学長谷川研究室にて発表された。

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