イベント

国際シンポジウム2011年度

シンポジウム名:「グリーンイノベーションと日本の将来」

日時:2011年11月8日(火) 13:00-17:00

会場:小柴ホール(東京大学本郷キャンパス)

主催:東京大学公共政策大学院/国際石油開発帝石(株)/(財)日本エネルギー経済研究所

Media Sponsor:Wall Street Journal Japan

開催報告

2011年11月8日(火)、東京大学の小柴ホールで、東京大学公共政策大学院、国際石油開発帝石(株)、(財)日本エネルギー経済研究所の主催により、国際シンポジウム「グリーンイノベーションと日本の将来」が開催されました。本シンポジウムは東京大学公共政策大学院において2010年4月から始まった、国際石油開発帝石(株)の寄付講座「エネルギーセキュリティと環境」の一環として行われたものです。

最初に、寄付講座開設者の国際石油開発帝石(株)の黒田会長より、本シンポジウムで温暖化対策を踏まえた上での企業のビジネス拡大と政策面での今後のオプションについて活発な議論がなされること、持続可能な社会の構築に向けて本日の議論が一つの助けになることを期待している、との開会の挨拶があり、シンポジウムが始まりました。

前IEA事務局長の田中伸男氏の基調講演では、US$100超を推移する現在の原油高は世界経済、特に途上国の経済に重い負担を与えるという問題提起に始まり、消費国側の対策として省エネが最も効果的であること、IEAは2011年6月にリビアでの石油供給途絶を踏まえ、史上3回目の石油備蓄の協調放出を実施したこと、中国やインドと言った大エネルギー消費国のIEA加盟なしに石油市場の安定は難しいことが述べられました。福島第一原子力発電所での事故を受け、世界的に低原子力が進んだ場合にはIEAが発表する新政策シナリオ(現在の各国のエネルギー政策ベースのシナリオ)よりもCO2が約3割増加すること、日本が脱原発とCO2削減を進めるにはガス、特にシェールガスや炭層メタンといった非在来型ガスが大きな役割を果たすこと、非在来型ガスは地域的に分散しており、今後のガスの地政学を変える可能性があり、エネルギーセキュリティ上も好材料であること、ただし、IEAの新政策シナリオとガスシナリオ(原発事故を踏まえガスの消費が大きく伸びるシナリオ)を比較した場合、ガスは石炭を代替するものの、再生可能エネルギーや原子力も代替するためCO2排出量はほとんど変わらないこと、原子力の停滞によりガス価格が高騰する可能性があることが指摘され、東日本大震災以降、今後の原子力発電のあり方についてはさまざまな議論があるが、エネルギー自給率が低い国においては、原子力発電は依然重要なオプションである、との意見がありました。また日本はOECD諸国の中でも一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合が最低レベルであり、欧米諸国並みに近づけるには、東日本と西日本のグリッドをつなぐこと、国際連携、蓄電池の活用が鍵になる点について言及がありました。

その後、最初のセッションでは、モデレーターである東京大学公共政策大学院の馬奈木准教授の進行の元、国際連合大学名誉副学長の安井至氏から、プラグインハイブリッドは日本で生まれたイノベーションの一つであり電気自動車よりも実用的であること、電池は消耗するものであり、その最大容量から電気自動車の走行距離は100km程度が実用上の限界であること、カーシェアリングの普及は電気自動車の利用拡大につながるものの、基本的にはタウンコミュータ型の利用が中心になること、充電時間という拘束を逃れない限り電気自動車の普及には限界がある、ということが指摘されました。また、日本だけが提案可能な技術として、省エネ・省資源技術があり、日本人ほど自然に省エネ・省資源を受け入れることができる国民性は世界にはないと言った点や、2020年以降に実現すべきスマートグリッドのアイディアとして、水力、地熱、CCSを用いた化石燃料による発電、燃料電池を用いた安定的な電力供給網と、都市ガスなどによる熱供給網の組み合わせをベースとし、それとは別に電気自動車の電源は不安定な自然エネルギーからの電力を中心とするといった新たなアイディアについての紹介がありました。

コメンテーターの東京大学公共政策大学院の谷先生からは、特に省エネについて消費者が環境を大切に思う価値観と需要をつくるための適切な情報共有が必要であり、有識者からのエネルギー消費に関する情報発信や消費者への呼びかけが重要な取り組みになること、エネルギー消費の増加は付加価値の創造にはつながらず、エネルギー消費を他の財で代替することが経済への貢献になること、クールビズ、ウォームビズの他、複層ガラス、公共交通機関の利用といった日常生活での消費者の省エネ意識向上の重要性について、コメントがありました。

続いてのセッションでは、元内閣官房参与の日下一正氏より、日本の技術を途上国で導入することでCO2削減の余地が大いにあること、日本のエネルギー・環境分野は様々な分野で制約課題を解決してきたこと、本分野は世界全体で市場が拡大しており、日本の成長の源泉になり得ること、日本が強みを発揮してきた本分野でコスト競争力のある中国・韓国が猛烈に追い上げていること、更なる技術開発・国際標準化戦略等に官民合わせて取り組むことが必要な点について触れられました。グリーン製品の普及にあたっては、市場が未成熟と言う需要サイドの課題と、環境製品の初期コストの高さといった供給サイドの課題を同時に克服する必要があること、グリーン技術・製品の普及拡大を図るにあたり約5割の企業は市場ごとのニーズを把握できておらず技術の活用が十分にできていない状況であること、特に新興国市場において日本の技術はスペックが高すぎる場合があり今後は製品の低価格化が鍵になること、グリーン技術の実用化にあたっては既存の技術領域にとどまらない複合的な技術が必要とされることから、分野をまたがる知財の活用を促進する仕組みが必要ではないか、と論及されました。

次に(財)日本エネルギー経済研究所、日本IBM(株)、トヨタ自動車(株)、伊藤忠商事(株)によるプレゼンテーション、その後モデレーターを交えたパネルディスカッションが行われました。まず、(財)日本エネルギー経済研究所の末広茂氏から、同財団の発表するエネルギーアウトルックに基づいた今後エネルギー需要の予測と、その中で3E+S(経済、エネルギー安全保障、環境問題、+安全性)の課題解決が必要となること、省エネルギーの推進、化石燃料の有効利用、再生可能エネルギー利用の拡大と言った課題の解決には技術の果たす役割が大きいこと、今後の日本には3E+Sの同時達成による低炭素社会の実現、後進国への技術支援、国際競争力の維持といった点が期待される旨の発表がありました。

続いて 日本IBM(株)の川井秀之氏からは、同社の取り組み事例として、マルタでの電力・水道メーターとITアプリケーションの統合による効率的な電力・水使用、スウェーデンでの道路課金システム導入による渋滞緩和・CO2削減、北九州でのスマートコミュニティプロジェクトといった、世界各都市でのITを用いたスマートビジネスについて紹介がありました。

トヨタ自動車(株)の星博彦氏からは、自動車に関連する技術面のCO2低減、石油消費低減策として、ハイブリッド技術のような個々の自動車の高効率化、バイオ燃料、合成燃料といった代替燃料の活用、電気・水素の自動車用エネルギーとしての活用、石油から代替エネルギーへの移行のためのエネルギー供給インフラの再構築、コンパクトシティ、モーダルシフトといった交通システムの変革に加え、政策面における既存の石油系燃料供給インフラから電気・水素など多様化する自動車用エネルギーシステムへの総合的な改革推進、高齢化社会への対応として一人乗りの移動機器への社会的コストからの適切な評価、と言った点についての言及がありました。

伊藤忠商事(株)の高坂正彦氏からは、同社の米国でのバイオマス発電、風力発電、ブラジルでバイオエタノール、といった各国での再生可能エネルギービジネスの他、太陽光発電やリチウムイオン電池ビジネスでの原料の調達から製品の利用と言った川上から川下までのバリューチェーンの構築、他企業の持つ技術の連携と導入、ビジネスの仕組み作り、技術と仕組みのパッケージ化、新産業の創造と言った同社のグリーン戦略についての説明がありました。

続いてモデレーターの東大公共政策大学院の小山特任教授を交えたパネルディスカッションでは、今後のグリーン分野への投資額と日本の産業界への影響、中国の政策が自動車産業に与える影響、スマートプロジェクトや再生可能エネルギービジネス展開上の課題等について活発な議論が行なわれました。

最後に、東京大学公共政策大学院の田辺院長による閉会の挨拶があり、シンポジウムは活況のうちに終了しました。本シンポジウムでは、企業関係者、東大関係者を中心に約200名にご参加いただきました。本シンポジウムにご参加、ご後援頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。

以上

シンポジウムの目的と概要

  • 地球環境保護は、政策が関与せず、個人や企業の自主的活動に任せた場合、社会的に過小な水準になるとされている。そのため、何らかの公的な政策の介入が必要となるとの考え方にたって、現在、地球温暖化問題への対策が世界各地で議論されている。
  • 2005年には、京都議定書が発効し、温室効果ガスの削減のための新しい取り組みが始まった。
  • しかしながら、2013年以降については、具体的国際取り組みは未定であり、また国内の政策も未だに不明確な状況にある。地球温暖化への対応策は、世界経済の動向を左右する重要な変数の一つであり、対応策をめぐる動向や変化の要因、将来の展開について、研究を行うことは公共政策にとって重要な課題となっている。
  • その際、地球温暖化への対策には、国際的な枠組みと国内の政策があること、また、それらの政策が各産業界に与える影響が異なること、それらの影響に応じたエネルギー利用の変化が予測されることから、企業としての、あるいは産業としての対応の方向性を理解した上で検討を行う必要がある。
  • 以上の問題認識に基づき、本シンポジウムでは、種々の地球温暖化対策の様々な産業への影響、企業によるビジネス拡大に向けたさまざまな対応の可能性とそれらを踏まえた政策の今後のオプションについて研究を行う。これらを通して、日本のエネルギー・環境ビジネス・政策の在り方に関するインプリケーションを抽出することを目的とする。

プログラム概要

13:00-13:10
Opening remarks 黒田直樹氏 (国際石油開発帝石(株) 会長)
13:10-13:45
基調講演 田中伸男氏(前IEA事務局長、日本エネルギー経済研究所特別顧問)

質疑応答
13:45-14:35
Session 1: グリーンイノベーション
モデレーター:馬奈木俊介氏(東大公共政策大学院特任准教授、東北大学大学院環境科学研究科環境・エネルギー経済学部門准教授)
基調講演(40min.)
安井至氏(国際連合大学名誉副学長、東京大学名誉教授)
Commentator:
谷みどり氏(東京大学公共政策大学院非常勤講師、経済産業省商務情報政策局消費者政策研究官)
14:35-14:50
休憩
14:50-16:50
Session 2: 企業戦略としてのグリーンイノベーション
基調講演(20min.)
日下一正氏(元内閣官房参与、東大公共政策大学院特任教授)
モデレーター:小山堅氏(東大公共政策大学院特任教授、日本エネルギー経済研究所常務理事)

Speech 1(15min.)

末広茂氏 ((財)日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット 需給分析・予測グループマネジャー)
Speech 2(15min.)
川井 秀之氏(日本IBM (株)クラウド&スマーター・シティー事業 社会インフラ事業開発)
Speech 3(15min.)
星博彦氏(トヨタ自動車(株))
Speech 4(15min.)
高坂正彦氏(伊藤忠商事(株) 開発・調査部 執行役員)


Panel Discussionおよび質疑応答(35min.)


まとめ:日下一正氏
16:50-17:00
Closing remarks 田辺国昭氏 (東京大学公共政策大学院院長)


スピーカーについて

本シンポジウムスピーカーのプロフィールは以下をご覧ください。
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