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国際シンポジウム2010年度(開催報告)

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2010年11月29日(月)、東京大学の鉄門記念講堂で、東京大学公共政策大学院、国際石油開発帝石(株)、(財)日本エネルギー経済研究所の主催により、国際シンポジウム「国際エネルギー市場の展望と課題」が開催されました。本シンポジウムは東京大学公共政策大学院において2010年4月から始まった、国際石油開発帝石(株)の寄付講座「エネルギーセキュリティと環境」の一環として行われたものです。

最初に、寄付講座の開設者の国際石油開発帝石(株)の黒田会長から、本シンポジウムではInternational Energy Agency (国際エネルギー機関:IEA)のWorld Energy Outlook 2010(WEO2010)および日本エネルギー経済研究所のエネルギーアウトルックといった最新の研究、予測を踏まえて今日の国際エネルギー情勢の様々な不確実性について活発な議論がされることを期待しているとの開会の挨拶がおこなわれ、シンポジウムが始まりました。

前経済産業事務次官の望月晴文氏の基調講演では、途上国を中心としたエネルギー需要の増大が見込まれる中で、エネルギーセキュリティは、供給の安定性、価格の安定性、環境制約の克服、という3つの視点で考えるべきではないか、との問題提起に始まり、その実現には、資源国と消費国という対立的な構図や消費国のエネルギー獲得競争ではなく、消費側のエネルギー確保と資源国側の適正な経済発展を同時に達成することが重要であること、政策としてはエネルギー種別に考えていく必要があること、特に資源国、消費国のWIN-WINの関係構築が重要であること、消費国からは技術・資金両面での協力が必要で、資源国、消費国にかかわらず、省エネルギー、再生可能エネルギーに関する国際協力の枠組み(International Partnership for Energy Efficiency Cooperation:国際省エネ協力パートナーシップ、International Renewable Energy Agency:国際再生可能エネルギー機関)をより一層活用する必要があることなどの指摘がされました。

その後、最初のセッションでは、IEAのSenior Energy Analystである Amos Bromhead氏から、IEAより公表されたWorld Energy Outlook 2010に基づき国際エネルギーの展望の紹介がありました。そのなかで、近年各国で打ち出されたエネルギー・気候変動に関する政策は、従来政策からは踏み出したものであるがエネルギー安全保障、気候変動の観点から持続可能な未来につなげるには不十分であること、コペンハーゲンでの失敗により将来の気温上昇を2度以内に抑えるためのコストは増大したこと、基本的にはCheap Oilの時代は終わったと考えるべきであること、再生可能エネルギーはエネルギーの主流になりつつあるが、他エネルギーに対する競争力を確保するには長期的な支援が不可欠であること、化石燃料への補助金の段階的削減はエネルギー需要を減らすのに最も有効な手段の一つであることなどが強調されました。

コメンテーターの東京大学公共政策大学院の谷先生からは、WEO2010のシナリオやメッセージ性、化石燃料、自動車のエネルギー需要、再生可能エネルギーについての分析は優れたものであること、エネルギー原単位は特に途上国での政策設計にとって重要なものであるという指摘がありました。今後、WEOではあまり触れられていない発電・送電効率、電気製品の効率の分析や、エネルギー政策以外(公共交通、都市計画、流通産業、消費行動、産業構造)のエネルギー需要に対する影響も考慮して、エネルギーをあまり使わない豊かさを目指すべきである、との意見が表明されました。

同じくコメンテーターの東京大学大学院の小宮山先生からは、大規模なGreenhouse Gas削減には技術のポートフォリオが必要であること、太陽光発電の大量導入による系統不安定化への対応が必要であること、バックアップ電源、蓄電池、スマートグリッドの活用による電力需給の安全保障確保が必要であること、温暖化対策、革新技術の普及、化石燃料需要といった不確実性への対応が必要であることなどのコメントが行われました。

続いて第2セッションでは、日米中露の各国の専門家によるプレゼンテーション、その後モデレーターを交えたパネルディスカッションが行われました。まず、東京大学公共政策大学院の小山特任教授から、日本エネルギー経済研究所より公表されたエネルギーアウトルックに基づきプレゼンテーションが行われました。国際エネルギー市場において、エネルギー安全保障のリスク・脅威も多様化、複雑化していること、エネルギー安全保障と温暖化の実現の鍵として原子力発電と再生可能エネルギーへの関心が高まっていること、しかし中長期的にも化石燃料が世界のエネルギー供給の大半を占めざるをえないこと、日本自身の取り組み強化が必要であるとともに、補完する国際エネルギー協力が重要であること、アジア・太平洋地域でのエネルギー協力推進のための国際戦略の重要性が増していることなどが指摘されました。

続いて 日本エネルギー経済研究所Hitachi-CFR FellowのMs. Julia Nesheiwat氏からは、米国について、2008~2035年において一次エネルギー需要は14%増加する一方、エネルギー原単位は年率平均1.9%で低下していく見通しであること、一方で、中国やインド、ブラジルといった新興国におけるエネルギー需要は急速に増加しており、エネルギー原単位も高水準であること、の指摘がありました。次いで同氏からは、エネルギーの需給は地政学、グローバルな安全保障(例.湾岸戦争)に大きな影響を及ぼすこと、世界全体として在来型エネルギー資源へのアクセスを維持することが重要であること、気候変動問題に対応するためには、エネルギー原単位を下げることが特に必要であること、そこでアメリカが果たすべき役割は、中国やインドといった新興国との間で、エネルギー利用効率化等の分野における研究開発協力を進めていくことと考えられていることなどが紹介されました。

長岡技術科学大学経営情報系教授の李志東先生からは、中国は国際的には合理的な排出枠を確保するとともに国内では低炭素社会への取り組みを強化していること、省エネ、原子力と再生可能エネルギー開発、エネルギー安定供給、低炭素技術開発と産業育成において顕著な成果を上げてきたものの、依然、法整備や行政管理体制などの問題はあること、発電については石炭火力の効率向上が急速に進んでおり、今後最新設備である石炭ガス化複合発電が導入される一方、原子力と再生可能エネルギー発電が拡大すること、低炭素社会を持続可能な発展の一環として位置付けており、低炭素化に向けた財政力や技術進歩の速さとシステム整備の柔軟性などを踏まえ、中国が世界に先駆けて低炭素社会を実現する可能性もあることが言及されました。

モスクワ国際関係大学(MGIMO)教授Dmitry Streltsov先生からは、グローバルなエネルギー安全保障には、複雑なエネルギー市場、需要と供給のアンバランス、油価の急激な高騰、供給地と消費地の距離の問題、安全対策、環境問題、エネルギー不足地域の存在といった問題があること、その解決策として、エネルギー市場の透明性・安定性確保、エネルギー業界の投資拡大、エネルギー効率化、多様性、インフラ設備、エネルギー不足地域の解消といったことが考えられることなどの見方が示された後、ロシアは国際エネルギー市場のルールづくり、供給先の多様化、長期契約の締結によるエネルギー価格の安定化を目指していること、2030年という長期スパンでは、ロシアのエネルギー製品を輸出するのに適した環境づくりを目指していることなど現在の政策の方向が紹介されました。

続いてモデレーターの東京大学公共政策大学院の馬奈木特任准教授を交えてパネルディスカッションが行われました。 そこでは、"シェールガスの日本の政策および企業に与える影響"、"今後の中国の石炭依存度の推移および、産業構造の変化"、"国際石油開発帝石や東京電力といった日本のエネルギー関連企業の海外への資源獲得の動きは、今後も続いていくのか"、 "ロシアにおける、近隣諸国とのエネルギー関係について"、 "先進国で行なうにはコストがかかるにもかかわらずオバマ政権がグリーン産業で雇用を創出することを目指している理由は何か"などの点について活発な議論が行なわれました。

最後に、東京大学公共政策大学院の田辺院長による閉会の挨拶があり、シンポジウムは活況のうちに終了しました。

(本シンポジウムにはエネルギー業界、東大関係者を中心に約200名の方にご参加いただきました。本シンポジウムにご参加、ご後援いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。)

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