セミナー

第5回 ITPU 国際セミナー

『国際航空運送と気候変動—COP15の結果と今後の展望』

“International Air Transport and Climate Change”
—Results of Copenhagen and Prospects Beyond

日 時2010年2月19日(金) 13時30分〜17時30分
場 所東京大学本郷キャンパス 山上会館2階大会議室
主 催東京大学公共政策大学院 国際交通政策研究ユニット(ITPU)
共 催東京大学政策ビジョン研究センター
東京大学航空イノベーション総括寄附講座
東京大学海洋アライアンス
後 援国土交通省航空局

開催趣旨

国際航空運送と気候変動は、世界各国において喫緊の政策課題となっている。 ICAOを通じた現在の政策の枠組みは、長年の議論を経て2009年にようやく最終形が固まったばかりである。 コペンハーゲンで実施された第15回締約国会議(COP15)では、 先進国同士だけでなく発展途上国同士でも深い溝があること等により、交渉が難航し、 主要排出国が参加したコペンハーゲン合意にこぎつけたものの、 その位置づけは曖昧な形に終わった。2010年のメキシコにおけるCOP16に向け、 引き続き調整が続くこととなるが、大幅な前進については、不透明であり、 世界同時不況のほか、 最近のドバイショックにより、 先を見通すことが難しい現状ではいっそう困難な状況である。

COP15の結果如何にかかわらず、温暖化防止は長期的な問題であり、 取り組むべき課題が減少するわけではない。COP15の結果について率直な意見を交換し、 2009年以降の政策形成のために考慮すべき要因と見通しを、 COP15終了後2ヶ月の時期にその結果について議論することが、 次のステップに進むためには非常に重要である。

このセミナーの参加者は各国の公式代表団ではなく、 それぞれの国の国際航空運送と気候変動問題における有識者であり、 各国の「公式見解」に縛られることなく、学識者として、実務家として、 この問題に対し自由に意見を交換することができる。 成長著しく温暖化ガス排出が多い地域であるアジア(含む中国)と、 環境問題に積極的なヨーロッパからの参加が見込まれる。

ITPU第5回国際セミナーは、アジアとヨーロッパと北米から著名な学識者や政策立案者等を招き、 COP15直後の国際航空運送と気候変動の諸問題について、 専門的な見地から率直な意見交換を行う。 またパネルディスカッションでは国際海運の動きにも触れる。 セミナーの議論を通じて、この長期的な問題に対し、 次の段階の政策形成に貢献すること、 及び国際航空運送とサステナビリティ(持続可能性)の問題を解決することが期待される。

プログラム

開会の辞

13:30-13:40 金本良嗣(東京大学・公共政策大学院院長/経済学研究科・教授)

講演

13:40-14:10 Mr. Tetsuya TANAKA(ICAO事務局)
(PDF, 1.51MB)
14:10-14:40 Prof. Yimin Zhang(中国・中欧国際工商学院教授)
(PDF, 553KB) この発表資料は、筆者の個人的な見解を示したものであり、中国政府の公式見解を示したものではありません。
14:40-15:10 Mr. Frank Wetzel(ドイツ連邦環境庁 運輸における大気汚染緩和及び省エネルギー部門上席研究員)
15:10-15:40 Dr. Annela Anger-Kraavi(イギリス・ケンブリッジ大学気候変動緩和研究センター(4CMR)上席研究員)
(PDF, 773KB)

休憩

16:00-17:30 パネルディスカッション(上記の者に加え)
金本良嗣(東京大学公共政策大学院・院長、モデレーター)
佐々木徹(全日本空輸株式会社CSR推進室環境・社会貢献部 担当部長)
城山英明(東京大学公共政策大学院教授)
日原勝也(東京大学公共政策大学院特任教授)

閉会の辞

17:30-17:35 森田朗(政策ビジョン研究センター・センター長、東京大学公共政策大学院教授)

講演者らのプロフィール

概要報告

パネルディスカッションの様子

2010年2月19日、東京大学山上会館大会議室にて約90人の聴衆を集めて、第5回ITPUセミナーが開催されました。

講演では、最初にICAO(国際民間航空機関)の田中鉄也氏から、 国際航空と地球環境の問題に関し、昨年合意された航空セクターのグローバル目標 (2050年までに全世界の実運航上の燃料効率性を毎年2%改善) など最近の全般的な状況の説明がありました。 中国・中欧国際工商学院のYimin Zhang教授からは、 中国にとって気候変動は環境問題であると同時に開発の問題であり、 CBDR(共通だが差異ある責任の原則)を強く支持するとの指摘がありました。 ドイツ環境庁のFrank Wetzel氏からは、排出総量にキャップをかける方式は、 効率性指標による方式より、効果が包括的で優れており、 前者を優先するという見方などが紹介されました。 イギリス・ケンブリッジ大学上席研究員のAnnela Anger-Kraavi博士からは、 排出量取引の理論、EU-ETS(EU域内排出量取引制度)導入の影響についての試算と今後のEU-ETSの基礎となるキャップの見通しなどについて説明がなされました。

後半は講演者4人に加え、全日本空輸(株)の佐々木徹氏、 ITPUの城山英明教授と日原勝也特任教授が加わり、 公共政策大学院院長の金本良嗣教授がモデレーターとなって パネル・ディスカッションが行われました。 この問題に関する合意形成のための論点として目標、手段、途上国への支援、 原則、交渉のフレームワークの5点が示され、 最初の3点は同時に合意することが必要である可能性があること、そのため、 CBDRと無差別原則(Chicago条約)の対立を克服することが重要であり、 関係者の対立を調整するプラクティカルな解法を探ることが不可欠であることが挙げられました。

また、削減の限界費用を世界中で一定とすることが望ましいこと、 ICAOの削減目標はそれに近づく工夫がなされていること、 EU-ETSは効率的な削減の可能性がある一方で、地域的な枠組みであり、 グローバルな枠組みが必要との見方があることなどについて熱心な意見交換がなされました。

関連項目