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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

ムートゥ(赤尾)朋子 ムートゥ(赤尾)朋子

GraSPP人脈で自己奮起

ムートゥ(赤尾)朋子
3期生(2008年3月修了)
公共管理コース

2016年3月。私は34年間生活した東京を離れ、スイス第3の都市バーゼルに移り住んだ。その10か月前に出会ったスイス人男性と結婚するためだ。大切な家族や友達と離れるのはつらかったが、新しい家庭を築く道を選んだ。

学歴や職歴もいったん清算する形となった。東大法学部卒業後、GraSPPに進学し、大手新聞社で8年間記者を務めた経歴を考えれば、随分思い切った行動だったかもしれない。GraSPPの同期は霞が関で国家国民のために奔走したり、国際機関に勤めて海外を飛び回ったり、独立して自力でビジネスチャンスを切り拓いたりしている。教授陣も役所の審議会で重責を担ったりメディアでコメントが報じられたりするような顔ぶれだ。同窓会や同期会でも政治や経済の話題で盛り上がり、GraSPPで築いた人脈は公私ともに人生の糧。会社の名刺を失い家庭に入れば、彼らに胸を張って会えなくなってしまうのではないか。そんな不安は強かった。

一方でこうした人脈があるからこそ、どんな状況でも自分を見失うことはないとの自負もあった。実際、Facebookでリアルタイムに友人知人の活躍ぶりが見えるし、自分も自堕落な投稿ばかりするわけにはいかない。ジャーナリストの端くれだったからには、スイスの生活で気づいた異文化の良し悪しを報じたい気持ちもある。そうして繋がりを保つことで、一時帰国の際には会ってくれる同期がいる。仕事へのモチベーション維持にもなっている。

SNSの功績には感謝するばかりだが、GraSPP同期と繋がっていられるのは他に理由があると思う。私はGraSPP生としては3期目に当たる2006年に進学。進学が決まった時点では修了生がゼロだったため、修了後にどんな就職環境があるのか定かでなかった。第2本部棟と法学政治学系総合教育棟や経済学部を行き来したり、当時の森田朗院長が学習環境改善を目的に学生を呼んでヒアリングランチを開催していたりと、いわばGraSPPの「黎明期」にあたる時期だった。皆口にこそ出さないが、「我々がGraSPPを完成形に育て上げ、世にGraSPPありと知らしめるのだ」という気概を持っていたような気がする。1階上のロースクール生への対抗心と劣等感の中間のような感情も薄々あった。そういった特殊な空気を共有した仲間は他になかなかいない。

授業は当初国家公務員を目指していた私にとって魅力的なものが揃っていた。霞が関で働いている・働いていた官僚が、自らの経験やホットトピックへの視点を交えながら講義を進める。社会保障制度の改革案を考え、実際に法律の条文を書いてみる。識者にアポを取ってインタビューし、記事にまとめる。「実務家養成」の名にふさわしい実践的な授業で期待以上だった。

ただ記者になって現実に目の当たりにした政策決定過程はさらに複雑・躍動的で生々しく、もう一度GraSPPでの授業を取り直して教授を質問攻めにしたいと何度思ったかしれない。修了したら終わり、ではなく、就職後も教授や同輩と交流を続けてこそGraSPPの真価が発揮されると言える。

あと数年も記者を続けていれば、官僚になった同期たちが課長クラスにあがり、30年後には次官級や大物政治家も現れて特ダネを仕入れ放題になったかもしれない。惜しい気もするが、今は今なりの活躍のしかたがある。幸運にも、スイスのニュースを日本語で配信するWebサイトの記者・編集者の職を得ることができた。高齢化や脱原発などスイスと日本に共通する政治・経済の諸課題を、スイスに暮らす日本人として報じたい。センセーショナルではないがそれなりに価値のある仕事だし、何より家族との時間を十分確保しながらマスメディアに関われるのは贅沢な身分だと思う。

最後に後輩へのメッセージを、とのことだが、私よりはるかに優秀で将来有望な人材に向かって偉そうに述べる言葉など見つからない。代わりにお願いとして、同窓会(龍岡会)の活動に可能な限り関わって盛り上げていただきたい。スタッフとしてはもちろん、イベントに参加する、名簿の更新案内にいち早く返信するだけでもいい。そしてもし、同窓会などで私の姿をみかけることがあれば、今何を勉強しているのか、どんな仕事をしているのかについて熱く語っていただければ幸いである。

 

Swissinfo.ch(スイスインフォ) https://www.swissinfo.ch/jpn

 

2017年10月3日投稿

バーゼルの大聖堂から見下ろすライン川(2016年7月)