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イベント

国際シンポジウム2012

シンポジウム名: 「エネルギー安全保障とエネルギービジネスの新展開」

日時:2012年11月27日(火) 13:00-17:00

会場:伊藤謝恩ホール(東京大学本郷キャンパス伊藤国際学術研究センター地下2階)

主催:東京大学公共政策大学院/国際石油開発帝石(株)/(一財)日本エネルギー経済研究所

開催報告

2012年11月27日(火)、東京大学の伊藤謝恩ホールで、東京大学公共政策大学院、国際石油開発帝石(株)、(一財)日本エネルギー経済研究所の主催により、国際シンポジウム「エネルギー安全保障とエネルギービジネスの新展開」が開催されました。本シンポジウムは東京大学公共政策大学院において2010年4月から始まった、国際石油開発帝石(株)の寄付講座「エネルギーセキュリティと環境」の一環として行われたものです。

最初に、寄付講座開設者の国際石油開発帝石(株)の黒田会長より、国内外でエネルギーを巡る様々な課題・問題がある中で、本シンポジウムにおいてエネルギー安全保障について活発な議論がなされること、そしてその議論がシンポジウムの参加者にとって示唆に富むものになることを期待している、との開会の挨拶があり、シンポジウムが始まりました。

第一部の元米国エネルギー省副長官のウィリアム・F・マーティン氏による基調講演I“Energy policy of Japan viewed from an international perspective”では、日本のエネルギー政策が米国との間のものを含めグローバルな視点から検討、立案、実施されてきたこと、また、エネルギー安全保障や省エネ、エネルギー技術革新等の点で国際的な観点からも素晴らし成果を挙げてきたことが述べられました。現在世界のエネルギー情勢は、大きな不確実性に包まれ、需給構造の変化にも直面しているが、日本において進んでいるエネルギー政策の見直しにより、このようグローバルな変化にも対応する新しい時代のエネルギー政策が再構築されることへの期待が表明されました。この一環で、米国が「シェール革命」によって将来的にエネルギー自給を達成するとも見通され、このことが米国の外交政策にも影響を与えることも否定できない中、誰が中東の安定やシーレーンの安全確保に対するコストを支払うのかといった点にも注意を要するとのコメントもありました。

このような中、日本は逆にエネルギーの対外依存度が100%になる可能性を踏まえ、特に、原子力比率の選択については将来の日本の社会や経済を決定づけるものであり、しっかりと検討する必要があるとの指摘がなされました。なぜならば、現下の不透明な世界のエネルギー環境の下で原子力ゼロを選択すると、エネルギー安全保障上、大きな危険に身を置くことになりかねないからです。また、日本が原子力から撤退した場合、日本の国際社会における地位や米国の原子力プログラムにも甚大な影響があるだけでなく、世界の原子力政策、核不拡散政策等にも大きな影響を与えることになりうると述べられました。最後に、米国産化石燃料輸出、クリーンコール技術、日米原子力協定、再生可能エネルギー開発、ハイブリッド車の効率性向上、石油備蓄への努力等の面で日米の戦略的エネルギー協力が双方にとって不可欠との認識が示されました。

続いて日本エネルギー経済研究所の十市勉顧問による講演1「エネルギー潮流の変化とビジネスへのインプリケーション」では、グローバルなエネルギートレンドの変化について、①新興国での石油需要増加と中東での地政学リスクの高まりを受けたCheap Oilの終焉、②シェールガス革命によるガス開発・価格競争の高まり、③中国のエネルギー安全保障及び気候変動緩和への影響、④新たなチャレンジに直面する原子力・再生可能エネルギーの4点を挙げて具体的に述べられました。その後、日本の産業界へのインプリケーションとして、①石油ガス消費国の立場として地政学的リスクに対処するためには供給ソースの多様化が最も有効な方法であり、また、グローバルな石油ガス市場において日本はより競争力のあるナショナルフラッグ企業を作っていかなければならない、②シェールガス革命はグローバルなエネルギー市場の“game changer”となっており、アジアのLNG価格を改定していくためには、日本買主が北米LNGやロシアパイプラインガスを含めたガス輸入によって新たなビジネスモデル導入にチャレンジすべき、 ③中国のエネルギー動向のダイナミックな変化は、資源アクセス、原子力の安全性、グリーンエネルギー技術、気候変動緩和の観点から、日本企業にとって機会とリスクの増加をもたらす、④福島の原子力事故以降、日本のエネルギー政策は国民の認識(Public Perception)によって影響を受けており、そのため、エネルギー企業はそれぞれの事業活動の透明性を高めて説明責任を果たすべく、国民の同意を得るためのさらなる努力を求められる、⑤日本の電力システム改革はイノベーションの創出と同時に新規参入者の事業機会を生み出す、という5点が挙げられました。

その後の長岡技術科学大学の李志東教授による講演2「低炭素社会に向けた中国の総合エネルギー政策の動向と国際協力への示唆」では、まず低炭素社会の構築を目指し始めた中国の基本戦略として、①エネルギー安定供給の確保、②二酸化炭素排出抑制、③低炭素の技術開発と産業育成が3本柱に据えられていると述べられました。次に、第12次5カ年計画において2020年までに2005年比でGDPあたりのCO2排出量を40~45%削減することが目標になっており、その達成に向けて再生可能エネルギー比率を11.4%まで拡大すること、GDPあたりのCO2排出量を17%削減すること等が掲げられていると述べられました。最後に、エネルギー分野での日中協力に関連して、例えば、中国は太陽光発電パネル製造に強いが、系統連携や運営管理ノウハウが欠けており、日本は省エネ分野に強いことから、相互補完的なビジネスができる可能性、さらには、エネルギー安全保障分野での協力などにも言及がありました。

第二部の新エネルギー・産業技術総合開発機構の古川一夫理事長による基調講演II「スマートコミュニティ実現に向けた課題と取り組み」では、世界のエネルギー需要の増加、アジアの都市化、環境問題の解決を両立した都市作りをこれまで以上に目指す必要があること、そのために期待が寄せられているスマートコミュニティの制度設計について、技術の確立のみならず制度作りや社会の変革も必要であること、スマートコミュニティ確立に関する日本の優れた技術をそれぞれの国や地域のニーズに合わせて展開していくことの重要性について触れられました。特に日本企業の海外展開にあたっては、個別の技術力のみならず、それを統合してシステム化することが重要であり、そのために海外企業とのパートナーリングやビジネスモデルの構築が急務であること、その中にあってNEDOの果たす役割として、日本のみならず世界各地で展開している実証事業によって、日本企業が国際競争力の向上につながる経験を踏むことができ、結果的に海外政府や海外企業との有効なパートナーリングを形成できるのではないか、と論究されました。

次に日本政府が選定している「次世代エネルギー・社会システム実証地域」に参加されている企業であるトヨタ自動車(株)、三菱重工業(株)、三菱商事(株)、日揮(株)によるプレゼンテーション、その後モデレーターを交えたパネルディスカッションが行われました。

まず、トヨタ自動車(株)の岡島博司氏から、愛知県豊田市の実証事業について、そこに住む市民の方が我慢せずに快適に暮らすことができる持続可能な社会となることを前提に、自動車のバッテリーに蓄電池としての機能を持たせる取り組みや、EDMSという情報システムを活用して需要と供給のギャップをなくすような価格インセンティブを働かせることでCO2排出量の最適化をする取り組みなどについて紹介がありました。

続いて京都府のけいはんな学研都市の実証事業に参加されている三菱重工業(株)の半谷陽一氏からは、①設備をスマートに省エネ化し、②データの予測をするためのマネジメントモデルを導入し、③再生可能エネルギーを導入するという3つのステップを基本とした具体的な取組状況について紹介があり、今後の海外展開の可能性や課題についても言及がありました。

三菱商事(株)の太田光治氏からは、新興国の台頭やステークホルダーからの新たなビジネス創造への期待、日本のエネルギー需給のあり方への関心といった外部環境認識、及び日本企業の競争力低下、リスクの集中化、短期的成果重視という内部環境認識を踏まえ、企業が望ましい事業を作るために有効と考えられる1つの取り組みとしてのスマートコミュニティの紹介があり、複数組織間での利益相反を克服しながら1つの方向に向かうことが今後の課題であると提起がなされました。

日揮(株)の入谷剛氏からは、エンジニアリング会社としてのスマートコミュニティへの関与のあり方について、これまでエネルギー分野や環境分野で培ってきたプロジェクトマネジメントのノウハウを活かし、複数の要素を地域のニーズやレベルに合わせてインテグレートしていくことの重要性や、実証事業などにおける産官学連携のソリューションの模索が必要である点などについて言及がありました。

(株)国際協力銀行の三宅真也氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、スマートコミュニティにおける事業の融合やパッケージ化にあたっては、個々の会社がそれぞれ取り組むべきか、コーディネーター役としての企業が必要かといった点や、自治体や行政の果たすべき役割などについて活発な議論が行われました。

その後、会場の出席者2名から再生可能エネルギーの絶対的な電力供給不足についての懸念や、スマートコミュニティ内での価格インセンティブによる需給調整について質問がなされた後、最後に東京大学公共政策大学院の伊藤院長による閉会の挨拶があり、シンポジウムは活況のうちに終了しました。本シンポジウムでは、企業関係者、東大関係者を中心に約250名にご参加頂きました。本シンポジウムにご参加、ご後援頂いた皆様に厚く御礼申し上げます。

以上

シンポジウムの目的と概要

  • グローバルなエネルギー需給は、福島第一原子力発電所の事故、地球温暖化交渉の足踏みと同問題のプライオリティの低下、新興国のエネルギー需要の急拡大、シェールガスの出現等といった大きな環境変化に直面し、高原油価格に移行するなど新しいステージに移行している。これらの環境変化に伴って、主要国政府はエネルギー安全保障に一層政策の軸足を移すなどの対応を行っており、エネルギーを巡ってグローバルな制度的枠組みの変化が起こりつつある。
  • エネルギービジネスついても、このような市場環境及び政策の変化を踏まえて、大きく市場が伸びる新興国で事業展開するためには、戦略、ビジネスモデル、組織、制度的枠組み、プロジェクトリーダー等の人的資源、求められるスキル等などについても新しい環境に即応した対応が必要である。また、大きな曲がり角にある我が国エネルギービジネスにとっても、このような移行を円滑・積極的に行うことが求められる。
  • 以上のような問題認識に基づき、本国際シンポジウムでは、変わりつつある国際エネルギー環境と政策的対応をまず議論し、問題意識を共有するとともに、後半では将来の展開が期待される新しいビジネスの一例として、スマートコミュニティ・プロジェクトを題材にしながら、今後とるべきビジネス戦略、組織等について具体的に議論し、同時にエネルギービジネスの今後に関するインプリケーションを抽出することを目的とする。

プログラム

13:00-13:10
開会挨拶 黒田直樹 国際石油開発帝石(株) 会長

第一部:「エネルギー新時代と政策的対応」

13:10-13:50
基調講演 I “Energy policy of Japan viewed from an international perspective”
ウィリアム・F・マーティン 元米国エネルギー省副長官
13:50-14:45
講演 1: 「エネルギー潮流の変化とビジネスへのインプリケーション」 十市勉 (一財)日本エネルギー経済研究所顧問 講演資料(PDF, 714KB)
講演 2: 「低炭素社会に向けた中国の総合エネルギー政策の動向と国際協力への示唆」  李志東 長岡技術科学大学経営情報系教授 中国能源研究所客員研究員 講演資料(PDF, 1.22MB)
14:45-15:00
Coffee Break

第二部:「エネルギービジネスの新展開-スマートコミュニティ・プロジェクトの現状と展望」

15:00-15:40
基調講演 II 古川一夫 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長 講演資料(PDF, 3.82MB)
15:40-16:50
パネル・ディスカッションおよび質疑応答
アジアを中心とする新興市場で将来の展開が期待される新しいビジネスであるスマートコミュニティ・プロジェクトを題材にしながら、現状と今後の課題や展望について、現場での経験を踏まえて、ビジネス戦略、組織、求められる人材像等について具体的に議論する。
モデレータ:
三宅真也 (株)国際協力銀行 企画管理部門 業務企画室審議役
パネリスト:
岡島博司 トヨタ自動車(株) 技術統括部 講演資料(PDF, 3.64MB)
半谷陽一 三菱重工業(株) エネルギー環境事業統括戦略室 講演資料(PDF, 1.93MB)
太田光治 三菱商事(株) 環境・インフラ事業本部 講演資料(PDF, 739KB)
入谷剛 日揮(株) 事業推進プロジェクト本部 講演資料(PDF, 697KB)
16:50-17:00
閉会挨拶 伊藤隆敏 東京大学公共政策大学院院長

(司会)芳川恒志 東京大学公共政策大学院・政策ビジョン研究センター特任教授