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民事法の基層と現代的課題 シラバス

担当教官

廣瀬 久和 奥脇 直也 樋口 範雄 木庭  顕
西川 洋一 岩村 正彦 荒木 尚志 新田 一郎
藤田 友敬 山本 隆司 三笘  裕

科目番号

11010

学期

曜日・時限

金曜2限(ただし時限を変更する回があるので、下記の講義日程を参照のこと)

単位

2

科目概要

 既存の法制度を評価し、また新たに法制度を構想する際に必要な、民事法の基本的な考え方および概念を講義する。 法学未習者と、学部で民事法を一通り勉強した学生で民事法の全体を広い視野からもう一度理解し直そうとしている者とを、対象にする。

 今年度は「契約」にテーマをしぼり、次の3部構成でオムニバス講義を行う。
  1. 契約法の基本と契約の機能
  2. 各法分野における契約(法)の現代的展開と課題
  3. 契約(法)の歴史的・比較法的考察

 そして講義の全体を通して、次の2つの問題を解明することを目指す。 詳しくは初回の講義で説明する。
  I 契約の自由と規制の関係。
  II 契約の合意、履行、強制に関する法制度と基本的な考え方。

前提履修科目

なし

成績評価

レポートによる。

テキスト

講義全体に共通のテキストは存在しない

参考文献

講義の中で言及する

講義日程

  金曜2限以外の時限に講義する回については特に注記するので、注意すること。

第1部 契約法の基本と契約の機能

4月8日 「契約と法制度」 担当・廣瀬 

 1.「契約」は、法の世界ではどのように受けとめられているのだろう。
  (i)「19歳のCは、東京の水商売の経営者Aに、自分の店で働けば1000万円無利息でCの父Bに融資してあげる、と誘われ、苦境にある一家を経済的に支えるためにこれに応じた。 父BもAとの間で、1000万円の消費貸借契約を締結し(同金額を取得)、またCがAの店で働くことにも同意した。 しかし、CがAの店で働きはじめしばらくすると、AはCに対して客との売春をもしばしば強要し始めたので、Cはここを逃げ出した。 Aは、Bに対し、Cはもういいから1000万円をすぐに返せ、と言ってきた。Bは同金額をもう借金の返済に全てあててしまい、手元には何も残っていない。 どうしたらいいか?」

  (ii) Aが管理売春を行っていた場合、刑事法上の制裁との関係はどうか?

 2.不法行為責任と契約責任の違いはどこにあるか?

  「Yは自分の古い自動車(時価20万円相当)を、友人のXに10万円で売る売買契約を締結していたが、引渡しの当日、自分の運転ミスで木にぶつけ、 この自動車を大破してしまった。XはYに対してどのような請求をすることができるだろうか?」もし彼(X)がその同じ車を持っていたとして、 それに対して第三者Zが過って大きな石を上から落として大破してしまった場合の、Zに対するXの損害賠償請求とはどこが違うだろうか?

4月15日 担当・三笘
法律が定めるデフォルト・ルールと契約条項との関係などを中心に、取引実務において契約の果たす機能について考察する。事前に簡単な設例を配布するので、検討しておくこと。 第2部 各法分野における契約(法)の現代的展開と課題 4月22日 「契約と、「民法」及び「消費者契約法」など」 担当・廣瀬  1.契約の成立、その有効要件 
  2.契約自由の原則と、契約内容への法的規制
  3.契約の解消

5月13日(1限に講義を行う) 「労働法における「契約」:労働法は合意を信じない?」 担当・荒木

5月19日(木曜3限) 担当・岩村
 社会福祉の領域では、介護保険法の施行および支援費制度の施行によって、 高齢者 および障害者の社会福祉については、 利用者たる高齢者・障害者と介護等サービスの提供を行う事業者との間の契約にもとづいて社会福祉サービスが提供される法的枠組み(いわゆる「契約方式」)となった。 この契約方式をめぐる論点と課題について検討を加える。

5月27日 「契約のエンフォースメントの法と経済」 担当・藤田

 契約のエンフォースメントのあり方に関する「法と経済学」の議論を紹介する.

6月 3日 「国際法における合意と拘束力の起源」 担当・奥脇

 国際法の基礎は「合意は拘束する」という基本的な規範にあるといわれる。 国家間の契約的合意がいかにして一般的に適用可能な法を形成することができるか。 またそうした法の執行がいかに確保されると考えられてきたか。 国際法について契約法的な私法概念のアナロジーの有効性とその限界、 法の執行と戦争、一方的約束の拘束力、慣習国際法の概念変化、 国際法の強行法規などの概念を体系的に位置づけながら、 国際法が国際社会を安定化するメカニズムを考察し、 国際社会の契約論的構成(bilateralism)の有効性と限界を考察する。

第3部 契約(法)の歴史的・比較法的考察

6月10日 担当・木庭

 Plautusの喜劇「幽霊屋敷」(紀元前200年頃)の要約と抜粋をできれば予め配布しておいて簡単な討論をする。 これをうけて、現在の民法の諾成契約がローマで生まれる時、 何が前提となっていたか、合意、善意(信義)、意思の本来の概念は何か、 について論ずる。

6月17日 担当・西川

 中世のカトリック教会法は、ヨーロッパの法のあり方の全体に強い刻印を残しているが、それは契約法の発展についても言えることである。この講義では、中世教会法の歴史的意味に関して概観した後、教会法が中世の契約法に対して与えた決定的な影響について、当事者意思の重視と、客観的な秩序の観点からの規制という二つの側面から論ずる。

6月23日(木曜1限) 「アメリカ法における契約と信認」 担当・樋口

 たとえば、弁護士依頼人関係は、法律的には何の関係だろうか?  わが国では委任契約だと考えられているが、アメリカでは単純な契約ではなく、 信認関係だと考えられている。そのことは、2つの疑問を生む。 第1に、日本とアメリカの弁護士依頼人関係の内容が違うから法的構成も違うのか? 第2に、もしもそれが同じだとすれば、それは契約という概念の相違を意味することになるのか? これらの疑問を考察することにしたい。
  参考文献 樋口範雄 「フィデュシャリーの時代」(有斐閣・1999年) 

7月 1日 担当・新田

 私人間相対の「契約」関係に公的な仕組みが介在し保証なり規律なりを供給することは、 歴史的にみればまったく自明でない。 ではそうした仕組みはどのような条件のもとで存立し、どのように作用するのか。 この回は、15世紀の日本社会における(いわば)「契約法の誕生」のしかたを、 「徳政令」を素材として例示する。とくに予習を求めることはしないが、 日本史に関するいちおうの基礎知識はあったほうが、理解はしやすいであろう。

7月 8日 担当・山本

 担当者に可能な限りで、講義全体のまとめをする。あくまで、受講者一人一人が自ら行う頭の整理を助けるものに過ぎない。

その他