NPO論

担当教員

田中 弥生

配当学期・曜日・時限

夏学期 金曜 5限

内容・進め方・主要文献等

【目的】わが国においては少子高齢化、財政破綻などの危機が指摘される中、政策的にパラダイムの転換が求められ種々の改革政策が進められてきた。小さな政府政策の中、政府とは別のメカニズムで公共領域を担う主体が求められている。NPOはその重要な主体として期待が寄せられている。また、国際社会においては貧富の格差は環境破壊を伴って拡大の一途を辿っているが国際NGOは独自のアプローチとネットワークによって開発の現場と国際政治や政策決定プロセスの双方で影響を及ぼすようになっている。だが、他方でNPOは本質的かつ深遠な課題を抱えている。資本を有さないNPOにとって財源の確保と持続的な運営は国籍を問わず共通の課題である。特にわが国においては行政の下請け化問題が顕著になり自立経営の重要性が指摘されるところである。
本講義ではNPOの理論的根拠を学び、財務DB分析などからNPOの現状と課題を明らかにしてゆく。そして課題解決の方向を探るべく非営利経営論、評価論をレビューし、さらに市民市場構築のための制度設計のあり方を探ってゆく。
【進め方】講議と討論形式。
【内容】以下のような内容をカバーする予定である。
・ 社会的背景:システム転換期における民の役割「新たな公の担い手」
・ NPOの定義とNPO論、NGO論
・ NPOの財務状況と課題:1.3万NPOの財務DBにみる持続性課題
・ 完成市場と市民市場:行政の下請け化の現状と構造
・ 官製市場と市民市場:下請け化を引き起こした政策的課題
・自立のための経営:イノベーションと経営(ドラッカー)
・非営利組織の評価: 評価手法と基礎技術
・ アカウンタビリティ問題:グローバリゼーションとNGOの答責性
・ 市民市場構築のための制度設計:公益性の評価と税制優遇の意味
・ 市民市場構築のための制度設計:資源提供者とNPOのインターメディアリ
【文献案内】
田中弥生著「NPOが自立する日 ?行政の下請け化に未来はない?」日本評論社2006年
田中弥生著「NPOと社会をつなぐ 〜NPOを変える評価とインターメディアリ〜」東大出版会2005年
Peter F. Drucker “Managing the Non-Profit Organization” Harper Business 1992
重冨真一監修『アジアの国家とNGO?15ヶ国の比較研究』明石書店2001年
ピーター・ドラッカー、G.Jスターン著 田中弥生監訳「非営利組織の成果重視マネジメント?NPO、行政、公益法人のための『自己評価手法』」ダイヤモンド社2000年

授業計画

以下は詳細ですが、開講の様子をみながら変更することがありますのでご了承ください。


NPO論
田中弥生
本講義の目的
わが国においては少子高齢化、財政破綻などの危機が指摘される中、政策的にパラダイムの転換が求められ種々の改革政策が進められてきた。財政民主主義のもと議会が租税の使途を決定することによってのみ公共領域を維持することが困難になっている現在、本システムとは別のメカニズムで公共領域を担う主体が求められている。NPOはその重要な主体のひとつとして期待が寄せられている。また、国際社会においては貧富の格差は環境破壊を伴って拡大の一途を辿っているが国際NGOは独自のアプローチとネットワークによって開発の現場と国際政治や政策決定プロセスの双方で影響を及ぼすようになっている。
 だが、他方でNPOは本質的かつ深遠な課題を抱えている。特に資本を有さないNPOにとって財源の確保と持続的な運営は国籍を問わず共通の課題である。わが国についてみれば、財政難を背景に過度な公的資金への依存傾向が見られ、その結果、NPOの真骨頂であるイノベーション力や活力を失う結果となっている。では、自らの社会的使命とガバナンスを維持しながらいかに自立した経営を営むことができるのか。そして、NPOは租税をベースにしたシステムとは別のメカニズムで公共領域を担うことができるのか。
 本論はこの問題意識を機軸に現状と課題を分析しながら課題解決の方向性を探ることを目的とする。
 講義では、まずNPOを求める社会的背景として日本および国際社会の情勢に着目する。次に本講義で学ぶ対象、すなわちNPOを非営利組織論など理論面と国際比較による規模的な側面から把握する。そして問題の所在を明らかにする段階にコマを移してゆくが、先に掲げた持続性や経営の問題をデータと事例分析から明らかにする。特にわが国でおこっている官製市場とNPOの下請け化の問題を政策および制度的な背景を交えて分析してゆく。そして問題解決の方向性を探るが、NPOのよって立つ場は市民市場であるというドラッカーのNPO論の原点に戻り、その組織論、経営論を学ぶ。また市民市場構築のためにはNPOの信頼性の担保のための仕組みや資金仲介などの社会装置など制度設計が必要になってゆくが、解決策を事例と理論分析によって考察する。なお、問題解決策を考察する上で、米国、英国、東南アジアのNPOの先進事例を織り交ぜてゆく予定である。

講義の構成

第1回:イントロダクション
    講義全体に流れる問題意識とテーマを述べた上で、講義の進め方(方針)、講義の構成について説明する。
第2回:NPOが求められる社会的背景
    転換期の日本の社会とNPO:
少子高齢化、財政破綻の中で、政策的なパラダイムが大きく転換されようとして
いる。このような社会においてシビルミニマムをどう再定義するのか、
受益と負担に対する国民意識をどう醸成するのか、そしてNPOは何を
期待されているのか議論する。
    グローバリゼーションとNPOの台頭:
また、国際社会においては、貧富の格差や環境破壊にNPOは独自のアプローチで取組みその効果を発揮しはじめている。1970年代の世界的な環境問題以来、NPOがどのように発展、台頭してきたのか概観する。

第3回:対象の設定:NPOとは何か1
    NPOの定義や非営利組織論の代表例を経済学、ドラッカーなど複数分野から選び概観しながら各理論の特徴や不足点について議論、考察する。

第4回:対象の設定:NPOとは何か2
    国際協力に従事するNPO、国際協力系のNGOに焦点をあて、コーテンな
    どの理論をベースにNGOの存在意義と成長論を学びながら、NPOの可能
性について議論する。

第5回:対象の設定:NPOとは何か3 
    市民社会セクターの経済規模など量的な規模について、レスター・サラモンの研
究をベースに学ぶが、1990年にサラモンが開始した非営利セクター国際比較
調査の問題意識、実行プロセスでのエピソードなども織り交ぜて説明する。

第6回:課題の発見:NPOの財政状況と課題
NPO法人1.4万団体の財務データ分析から日本のNPOの財政状況と課題を明ら
かにしてゆく。

第7回:課題の発見:市民社会の自立と下請け化問題1
    財政難、人材不足など苦しい経営の中、公的資金への依存度が高くなっているNPO
法人の実態をアンケート調査(2千件)と事例分析から明らかにしてゆく。
さらに過度な公的依存が招いた下請け化の実態とその特徴を考察してゆく。

第8回:課題の発見:NPOの自立と下請け化問題2
    下請け化の問題の原因を、下請け側すなわちNPOと元請け側すなわち
行政府機関に分けて分析をする。また、NPO法や税制など制度設計上の問題につ
いても触れる。

第9回:課題解決の方向を探る:官製市場から市民市場へ
    下請け化の問題は前述の元請け側の政策や制度の運営のあり方留まらず、構造的
な問題を孕んでいると考える。すなわち、行政の発注の下に作られる官製市場の
構造的な問題である。NPOが自立し、その真骨頂である社会的なイノベ
ーション力をもって発展してゆくためには、その主たる行動原理を市民市場
に求めるべきであろう。市民市場とNPOの自立の意味をドラッカーの非
営利組織論を機軸に明らかにしてゆく。

第10回:課題解決の方向を探る:アカウンタビリティと評価
     NPOが市民から支援を受けるためには信頼性を獲得する必要がある。
     だが、選挙や市場のようなユニバーサルな評価メカニズムを持たない市民社会
組織は信頼性を担保するための仕組みを自ら組織内に築かねばならない。
ここではアカウンタビリティと評価の問題の基本的について学ぶ。

第11回:課題解決の方向を探る:市民市場の開拓のための社会装置1
     市民市場が構築されるためにはNPOの自助努力と国民の市民意識の醸成が必要である。個別の組織および個人の努力は前提条件であるものの、より効果的、効率的な市民市場を構築してゆくためには社会装置が必要である。本このコマでは、社会装置が必要とされる背景として、個々のNPOと市民(支援者)の間のミスマッチ問題を事例と理論(取引コスト論)によって
     明らかにしてゆく。

第12回:課題解決策の方向を探る:市民市場開拓のための社会装置2     
     第11回講義で分析を行なったミスマッチ問題の解決策としてインターメディアリを提案する。前回講義したミスマッチ問題の理論分析から仮説としてのインターメディアリを導き、その実例を東南アジア、英国、米国に見出し、インターメディアリの機能分析を行う。
  まとめ:質疑応答と議論

参考文献
「教材」
○田中弥生著「NPOが自立する日 〜行政の下請け化に未来はない〜」日本評論社2006年
○田中弥生著「NPOと社会をつなぐ 〜NPOを変える評価とインターメディアリ〜」東大出版会2005年
田中弥生著「談合問題は新たな公共の担い手に何を教えているのか」ハーバート・ビジネス・レビュー2007年5月号、ダイヤモンド社
田中弥生著「NPO 幻想と現実?それは本当に人々を幸福にしているのか」同友館 1999年
・ピーター・ドラッカー、G.Jスターン著 田中弥生監訳「非営利組織の成果重視マネジメント?NPO、行政、公益法人のための『自己評価手法』」ダイヤモンド社2000年
・レスター・サラモン著 入山映訳「米国の非営利セクター入門」ダイヤモンド社 1994年
・ ロナルド・コース著 宮沢健一他訳「企業・市場・法」東洋経済 1992年
・ デビット・コーテン著、渡辺龍也翻訳『NGOとボランティアの21世紀』学陽書房1995年
・重冨真一監修『アジアの国家とNGO?15ヶ国の比較研究』明石書店2001年

「関連参考文献」
・井上達夫『新哲学講議7 自由・権力・ユートピア』岩波書店1998年
・林知己夫・入山映著「非営利組織の実像」ダイヤモンド社 1997年
・ピーター・ドラッカー著 田代正美他訳「非営利組織の経営」ダイヤモンド社 1992年
・レスター・サラモン著 今田忠監訳「台頭する非営利セクター」ダイヤモンド社 1995年
・星野英一著「民法のすすめ」岩波新書 1998年
・佐伯啓思著「市民とは誰か」PHP新書 1997年
・坂本義和著「相対化の時代」岩波新書 1997年
・オックスファム・インターナショナル著渡辺龍也訳「貧困・公正貿易・NGO」新評論2006年
・Burton Weisbrod " The Nonprofit Economy" Harvard, 1988
・Walter W. Powell "The Nonprofit Sector" Yale University ,2006
・Edit By Dennis Young "Financing Nonprofit" Altamira 2007

教材等

田中弥生著「NPOが自立する日 ?行政の下請け化に未来はない?」日本評論社2006年
田中弥生著「NPOと社会をつなぐ 〜NPOを変える評価とインターメディアリ〜」東大出版会2005年、およびPeter F. Drucker “Managing the Non-Profit Organization” Harper Business 1992を教材とする。

成績評価の方法

クラスでの報告および提出されたレポートにより評価する。

関連項目