法医学

担当教員

吉田 謙一

単位数・配当学期・曜日・時限

2単位 冬学期 月曜2限

内容・進め方・主要文献等

異状死は、「臨床医が確実に診断した内因性疾患で死亡した死以外の全ての死」として、殺人・事故死の他に、死因不詳の死、予期できない死、突然死、死亡状況が異常ないし不詳の死を含む。独居者・自殺者・ホームレスの増加、犯罪の多様化、食・生活習慣の変化や職場・社会のストレスの増大に伴う突然死の増加等の要因から、異状死は、全死亡の十数パーセントを占める。異状死は、警察への届出を義務付けられ、死因等は検死・解剖を通じて決定される。

最近、医療事故・過誤事例が社会的に関心を呼ぶ一方、臨床の諸学会は、医療事故の届出には消極的である。ところが、例えば、注射後の急死の場合、注射した薬剤の過誤・過剰、あるいは、本人の内的因子の異常などがあるので、死因究明が必須である。一方、交通事故の場合には、事故・医療行為等の外因と本人の既往歴や加齢性変化等の内因の寄与度を、どう認定するかが重要である。しかし、このような事情の理解が不十分なため、異状死として届出されず、死因決定が不十分な場合が少なくなく、その結果、紛争化することがある。人は社会的存在であり、その死は関係者の責任と保険・賠償等の権利に影響を与えるので、死に関して公正な医学的判断を要する。近年、被害者と被疑者の人権の擁護、自己決定権の尊重、医療に対する不信感や患者の権利意識の高まりより、異状死に関する種々の問題が明らかになってきた。

私は、法医学の使命は、異状死の死因を公正に決定し、死に関する責任関係を明らかにすることによって、関係者の人権を守ることにあると考える。このような状況を踏まえて、異状死の死因決定と死に関わる法医学的・医事法的問題点を理解し、個々の法的トラブルを回避するばかりでなく、よいシステムをつくるための問題提起をしたいと願う。そのために、自験例や判例等をもとにして、身の回りにある、問題となりやすい異状死の状況を類型化し、具体的に問題点を挙げて考えてもらうことを心がける。また、死因調査や医療事故の処理には、法・制度上の問題点が少なくない。諸外国の制度との比較を含めて、よりよい法・制度を考える指針となるような講義をしたい。

教材等

吉田謙一著「事例に学ぶ法医学」有斐閣(必須)
吉田謙一分担執筆、福島弘文編集「法医学」南山堂 (参考文献)

成績評価の方法

筆記試験

関連項目