事例研究(医療事故のリスク・マネジメント)

担当教員

林 良造齊藤 誠

単位数・配当学期・曜日・時限

2単位 冬学期 木曜3限

内容・進め方・主要文献等

本事例研究は、医療事故のリスク・マネジメントをテーマとしていく。事例研究の最終的なゴールとしては、医療事故リスクについて、保険制度をはじめとしたリスク・シェアリングの制度設計を提案することを目指していく。なお、医療事故とは、診療行為、病院施設、医薬品、医療機器に起因する事故を指している。

日本の医療システムにおいて医療事故リスクが広く薄く配分されず、患者、医師、病院などの当事者間だけで負担される傾向が強い。さらには、当事者である患者、医師、病院だけが過度の損失を被らざるをえない結果、医療事故リスクの高い医療行為自体が提供されない状況さえ生まれている。昨今、社会問題となっている産婦人科医や小児科医の深刻な不足も、社会全体で医療事故リスクのシェアリングが不十分なことが主要な理由のひとつである。

また、医薬・医療機器の審査承認、健康保険適用についても、それらの効用とリスクを含むコストを最適化するような制度設計ができていないことから、ドラッグラグやデバイスギャップといわれるように、日本においては最新の医療技術の恩恵を受けられない状況も生じるところとなっている。

本事例研究では、医療事故リスクのシェアリングが不十分な背景について、縦糸として講座担当教授による系統的な理論的な整理と、横糸として現場を周知している専門家を講師として招聘して周到な制度的な整理を行っていく。

医療事故リスクのマネジメントに関する理論的な観点としては、規制(regulation)、訴訟(litigation)、保険(insurance)の相互依存関係がきわめて複雑なところに、急速に進む国際化(globalization)と技術革新(technological innovation)がこうした三者関係をいっそう複雑なものにしていることを明らかにしていく。

医療事故リスクのマネジメントは、行政による明確な規制やガイドラインの設定と裁判所による判例の確立という社会的なインフラストラクチャーを大前提として、私的な、あるいは公的な保険制度によって支えられている。また、保険制度に不可欠なリスクの定量化には、個々の医師や病院について治療行為の範囲や水準を客観的に評価する枠組みも必要となってくる(risk assessments)。上述のような医療事故リスク・マネジメントの特徴は、複雑で今日的なリスクのマネジメントに共通している。

事例研究参加者に医療事故リスク・マネジメントの現状を正確に理解してもらうために、大学研究者、行政担当者、民間保険関係者、医療関係者、法律関係者などを講師として招き、課題解決に向けた具体的な方策を講義してもらう。

事例研究参加者は、上述の理論的な整理と制度的な整理を踏まえて、医療事故リスク・シェアリングの制度設計を考案していくことが求められる。具体的には、事例研究の最終日に、単独、あるいは、グループで考案した制度設計を報告する。このような事例研究を通じて、「医療事故リスクを社会全体で分担する」制度の設計を実体験してほしいと考えている。

授業計画

(以下は暫定版。変更がありうる。)

1.イントロダクション
2.医師から見た医療事故リスク・マネジメント
3.医療リスク・マネジメントと病院経営
4.医療事故の刑事責任、民事責任
5.医療サービスの評価枠組み
6.医薬品と医療機器の許認可について
7.医療事故保険の国際比較
8.医療サービスの費用便益分析
9.リスクマネジメント理論
10.レポート発表会

教材等

成績評価の方法

平常点、レポート等による。

関連項目