ヨーロッパ統合と法3

担当教員

伊藤 洋一

単位数 / 使用言語 / 配当学期

2単位 / 日本語 / 夏学期

授業の目標・概要

ヨーロッパ統合の大きな特色は,「法による統合」であることである.その結果,ヨーロッパ各国では,国内法の「ヨーロッパ法化」が近年顕著な現象となっており,EU法の影響を無視して加盟国の国内法を研究することは,次第に困難となってきている.
しかしながら,そのような影響関係は,ヨーロッパレベルからの一方的な関係ではなく,実は双方向的なものである点に注意する必要がある.EU裁判所は,しばしば反ヨーロッパ統合論者の槍玉にあげられるが,ヨーロッパ法における判例法形成には,さまざまなアクターが関わっていることを無視してはならない.裁判所は,提訴されない事件について判決を下すことはできない.ヨーロッパ法の判例法形成は,決してEU裁判所のみによってなされてきたのではなく,訴訟当事者(加盟国政府,弁護士,多国籍企業からNGOまで),国内裁判所の働きかけも大きな役割を果たしているのである.
EU法の国内法における重要性が高まるにつれて,国内法の拘束を打破するために,ヨーロッパ法を利用しようとする戦略的訴訟利用の動因も高まるのは,経済の「グローバル化」が喧伝される現在の政治・社会状況を考えれば当然であろう.立法・政策決定過程に対するロビーイング,アメリカ法に見られる「制度改革訴訟」類似の現象は,ヨーロッパ法にも存在する.しかし,純粋な実定法解釈学の枠内では,そのようなヨーロッパ法形成の背景に対する問題関心は低く,またその実態に関する分析も極めて稀である.
そこで,今年度は,このようなヨーロッパ法における戦略的訴訟利用を扱うフランス語論文を講読する.著者は,EU裁判所の調査官であり,ヨーロッパ法と国内法(特にフランス,ベルギー法)に明るく,特定の法領域に止まらない分野横断的な分析を試みる点で,興味深いと思われるからである.

授業のキーワード

ヨーロッパ法,制度改革訴訟,ヨーロッパ人権裁判所,EU裁判所,ロビーイング

授業計画

本演習では,上記フランス語文献を,特に参加者の分担を事前に決めることなく,講読する予定.

授業の方法

演習.

成績評価方法

平常点による.

教科書

本演習では,下記の文献を講読する予定(但し,開講までに更に新しい適当な文献が現れた場合には変更の可能性あり).

Masson, Antoine, Théorie et pratique des procès orchestrés à des fins de modification de l’état du droit, in Beaufort, Viviane de & Antoine Masson(éd.), Lobbying et procès orchestrés, Bruxelles, Larcier, 2011, p. 151-174.

履修上の注意

上記文献は,その内容上,フランス法およびヨーロッパ法に関する一応の知識(法源,政策決定過程等)を前提して書かれているので,できればヨーロッパ法の授業に出席するか,適当な概説書を予め読んだ上で,本演習に出席することが望ましい.
なお,フランス語文献読解の訓練も,本演習の重要な目的の一つである.本格的なヨーロッパ法研究には,英語だけでは到底十分とは言えない.フランス語を読む意欲のある者の参加を希望する.

関連項目

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