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公共経済政策ワークショップ

2004年4月23日

「経済理論と金融政策 〜最近の金融政策動向について〜」

植田和男(日本銀行審議委員)

ueda0公共経済ワークショップ第2回目は、植田和男氏(日本銀行政策委員会審議委員)にご講演頂き、近年の金融政策の動向を、理論と実例を交えながらわかりやすくご説明された。

  はじめに、中央銀行の独立性について、Time Consistencyの観点や金融の専門性、また資源再配分機能の希薄さ等から独立性は支持されるのではないかと述べられ、続いて金融政策の基本的な仕組みについてご説明された。

  続いて実際の金融緩和策の例(1998年9月9日)をとりあげられ、景況感の悪化に加え、ロシア危機の影響もあって、日本の金融資本市場が不安定化したこと等からコールレートを引き下げたこと、9日のレート引き下げ発表直後には中長期金利が低下し(期待による金利形成)株高・円安の動きが発生したこと、しかしその後の一段の景況感の悪化の中で、影響は短期間にとどまったことを述べられた。

ueda2 さらに金融政策の難しさについてまとめられ政策効果の発現にはラグや不確実性があることを織り込んで適切な処理を打つ必要があり、また、中長期金利は市場の将来予想次第なので、市場の理解を欠いた政策変更は逆効果もあることを述べられた。

1990年代の金融政策については、通常の金融緩和策は95年にはほぼ使い切り“流動性の罠”の状態に陥ったこと、非伝統的金融政策「マネーを増やせ、インフレターゲットを設定せよ、株等を買え」等の声の中で、日銀は慎重に出来うることを実施してきたと述べられた。ここでKrugmanの政策提言に触れ、将来プラスのショックが起こり流動性の罠を脱出する可能性がゼロでなければ、『デフレ懸念が払拭されるまで潤沢な通貨供給をする』とのアナウンスで、期待インフレ率上昇→実質金利低下→現在の支出増大→現在時点で流動性の罠からの脱却の可能性もあるという考え方であること、またこれが現在の日銀の政策運営と本質的に同じであることを示唆された。

より具体的に最近の金融政策を見ると、99年2〜3月にコールレートをゼロに誘導し、同年4月に「デフレ懸念払拭までゼロ金利継続」を約束、2000年8月に一旦ゼロ金利解除したが、ITバブル崩壊後の2001年3月には再び「CPIインフレ率が安定的に0を上回るまで量的緩和を継続」を約束しており、Krugman流のアナウンスメント効果を重視してきたことを述べられた。

最後に、こうした政策の効果について説明され、中長期金利を低位で安定させ、デフレに伴う借り手のB/Sの悪化は若干緩和したこと、また、大量の資金供給により金融システム不安の高まりに伴う流動性需要に応えたことを述べられた。

<質疑応答>

ueda4 Q. ヘリコプターマネーについてどう思うか?

A. 大々的にやればデフレは早く収束するかもしれないが、財政政策的な側面が強い。資源配分・インセンティヴへの影響も考えるべきだろう。

Q. 為替市場への介入で得た外貨で、米国債を大量に買っていると言われるが、リスクは考えているか?

A. 為替市場への介入は財務省が主体となっており日銀は基本的に執行役である。たただ、リスク分散のための様々なポートフォリオが考えられるだろう。

Q. ゼロ金利政策一時解除時、日銀内でどのような議論があったか?

ueda3 A. 金融政策決定会合の議事録は10年後に全て開示される。議事要旨は1ヶ月後に公表されるので、そちらを参照してもらいたい。

Q. 新日銀法で独立性は本当に保たれているか?

A. 日銀は政府の政策としかるべき整合性を保つ必要はある。また、政策委員の選出は、内閣が提案し、国会承認後内閣が任命する形である。

Q. 金融機関に資金供給しても、結局国債を大量に買っている。効果はあるのか?

A. 金融機関自身の傷みにより民間企業への貸出増になかなかつながっていない点は残念である。

Q. 量的緩和の終了基準はCPI平均でいいのか?

A. 本来全ての指数を適切にウェイト付けすればいいのだろうが、複雑すぎて期待形成にマイナスの影響もある。流動性の罠後にとるべき指針についても意識している。