トップページ > Events & Forums > 公共経済政策ワークショップ > 2004年度夏学期

公共経済政策ワークショップ

2004年4月30日

「電力市場改革:現場での体験」

川本 明 (経済産業省)

電力市場改革とは 戦後日本の電力事業は料金規制をかけられた地域独占私企業が担い、この体制は大規模投資を可能にした。 しかしインフラ整備が概ね完了した現在、(1)効率的な投資やコスト削減のインセンティブが働きにくい (2)季節・時刻で需要の変化が激しい電力市場では需要のピークとそれ以外で限界費用が大きく異なるが、現在のシステムでは限界費用を反映した価格形成ができない、という非効率性が顕在化した。電力市場改革は、この非効率性を解消するため発電と小売部門への競争導入を行う規制改革である。その背景にはマイクロ・ガスタービン等の登場によって発電における規模の経済性が低減し地域独占体制の根拠が崩れたこともある。

kawamoto1 一方で送電ネットワーク部門は自然独占であり今後も規制下に置かれる。(将来分散型電源が確立すればこの規制理由も消滅することになるが。) 電力システムでは、ネットワーク部門は瞬時の需給バランスを達成するための系統運用という重要な役割を担う。

電力市場改革の進展 わが国の改革は1995年、卸売りへの競争導入により開始された。これは電力会社の発電所建設の入札を促進するものであった。 しかしこれだけではコスト削減メリットが需要家まで波及しない恐れがあるため、2000年と2003年に相次いで大口・中規模需要家向け小売自由化を行い、電力料金を自由化して需要家が一番安い電気を選べるようにした。

電力市場改革が成功する鍵は、既存電力会社とその競争者の間で、送電ネットワークへの公平なアクセスと市場における対等な競争条件とを確保することである。海外には公営企業の民営化に当たり発送電事業を分離した事例もあったが、日本の2003年の改革ではネットワーク利用ルールの中立化を行い、会計区分や差別的取扱禁止などの行為規制を定めた。また、既存の地域独占企業の間で、日本全国を一つの市場とする競争が起こることを期待し、電力取引市場(主に一日前)の整備や、遠隔地間の送電で送電料金が何重にもかかってしまう問題を改革した。

kawamoto3今後の課題としてネットワーク料金規制の実際、分散型電源の選択肢拡大、小売自由化範囲のさらなる拡大(全面自由化)の検討、規制機関の技術的専門性の強化などがあげられる。

政策形成プロセス 経済産業大臣は総合資源調査会・電気事業分科会に今後の電気事業制度のあり方を諮問した。同分科会では電力業界や関係業界の他、需要者、学識経験者などが参加し議論が交わされた。この分科会は単なる話し合いではなく改革パッケージの合意を目的としており、資源エネルギー庁は、会議の事務局として合意形成の原案を作成する役割を担った。

改革に携わり以下のようなことを実感した。

  • 巨大企業ゆえにほっといてもなかなか改革は進みにくい。
  • 社会には系統運用の知識を持った人間が少なく、かつそのほとんどが既存の電力会社に所属しているということが一つのネック。
  • 電力の安定供給には10年20年先を見すえた投資が必要であり、市場改革でそれが損なわれてはならない。しかし両立は十分可能と思う。
  • これからは規制機関の機能、実績が問われることになる。

質疑応答

Q) 現在までの自由化の成果は、当初想定した通りになっているか。

A) 価格の推移を見ると、これまでの部分自由化の段階でも成果は出ている。自由化範囲の拡大により更なる成果が出るものと期待される。

 

Q) 発電と送電の完全分離を行う予定はあるか。あるとすればその交渉戦略はどのようなものか。また、交渉の過程で苦労した点は?

A) 分離せずとも、行為規制などによってネットワークの公平な利用が可能になると思っている。ただ現行制度がうまく働くかどうか、チェック・アンド・レビューは必要。

 

Q) 自由化によって初期投資がかさむ原発が不採算となり、原発推進に影響がでるのではないか。また、二酸化炭素の排出量が増えてしまうのではないか。

A) 電源の選択は民間が決定することである。ただ、原発の建設コストは低くなる可能性もあり、ただちに原発が不利になるとはいえない。原発はエネルギー起源の二酸化炭素を削減する有力策。いずれにせよ環境・安全対策は他の措置で行う必要がある。

 

Q) 規制緩和の代表例として通信事業があるが、この分野は携帯電話やkawamoto2関連サービスの爆発的な進歩から分かるようにイノベーションが非常に速い。それに対して電力自由化を行っても市場の拡大する余地は少ないのではないか。

A) 価格がコストを反映して変動するのがはっきり見えるようになることは非常に大きなメリットだと考えている。これはより細かな計測・管理をして最も効率的に電気を利用するインセンティブを与える。今後そういったことをコンサルティングするビジネスも出現するだろう。

 

Q) 供給過剰になったとき、どこかの事業者の発電をストップさせることになるが、不公平は生じないのか。

A) 事前の予想にもとづいて需給マッチングの計画を立てている。計画どおりに行かない場合の非常手順も設定されており、その内容について合意の上でネットワークを利用する託送契約が交わされている。