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公共経済政策ワークショップ

2004年5月14日

「 住宅金融公庫改革について 」

石井 喜三郎 (国土交通省都市計画課長 (前住宅政策課長) )

ishii1 第5回目の公共経済政策ワークショップでは、「住宅金融公庫改革について」というテーマで石井喜三郎氏(国土交通省都市計画課長(前住宅政策課長))が講演を行った。

1. 住宅ローン市場

住宅ローンとは、家を買うためにお金を借りるということ。事業資金と違うところは、融資資金を使って事業をして返すのではなく、別のサラリーを返却すること、住宅という担保が存在すること、超長期にわたるローンとなることである。住宅ローンの貸し出しリスクを考えると、信用リスクは小さいが、金利リスクと期限前償還リスクが大きい(長期にわたるため)。現在、住宅ローン市場において、住宅金融公庫廃止の流れで公庫融資のシェアは急速に低下している。民間は変動金利または10年未満の固定金利が中心である。諸外国の制度を見ると、直接金融としての公的機関を持っているか、税制上の優遇をしているかなど、国によって大きく異なる。証券化はアメリカでは非常にシェアが大きいが、他国では緒についたばかりである。

2. 行政改革と住宅ローンの証券化

住宅金融公庫については、逆ザヤ解消のために4000億円のishii1補給金を毎年投入してきており、先般の特殊法人等改革において、融資業務を段階的に縮小し、利子補給を前提としない証券化業務を行う新たな独立行政法人を設置することになっている。一方、バブル崩壊後の金融市場では、法人向け資金需要が低下し、BIS規制への対応が求められたことなどもあり、民間が個人向け住宅ローンの販売に相次いで乗り出している。

そもそも、公的セクターが存在するのは、民間セクターだけで十分なサービスを供給できるか、が問題だからである。過去、民間における住宅ローン新規貸出額は大きなブレがあり、預金による長期固定住宅ローンの大量・安定供給の実現可能性には懸念が残る。しかし巨額の財政赤字を抱える現状では、もはや公的直接金融には限界があるといわざるを得ない。そのため、住宅ローンの証券化に乗り出すことにしたのである。同時に、日本の債券市場は国債ばかりであり、直接金融の市場を作っていく必要があるという事情も、証券化を後押しした。

すでに住宅ローンの証券化が進んでいるアメリカでは、民間金融機関が顧客に融資を行い、その住宅ローン債権を証券化機関に移転し、証券化機関が投資家にMBSを発行し、元利払いを保証する。証券化はデュレーションギャップを解消するために行い、長期の債権を市場全体で回すことでリスクを解消する。間に証券化機関を入れるのは、民間金融機関が直接に投資家に証券を売るのでは、地域ごとのリスクや金融機関ブランドによる差異が生じてしまうからである。

日本では、まず証券化に慣れるために住宅金融公庫が自分の持っている債権を証券化して発行している。格付けはAAAを維持しているので、10年物国債とのスプレッドは0.3%まで低下している。ishii3次のステップとして、民間金融機関から債権を買う予定である。証券化がなされると、信用リスクと流動性リスクは民間金融機関から公庫に移転し、金利リスクと期限前償還リスクは民間金融機関から投資家に移転する。具体的には、貸金業規制法等を改正して取り組んでいるが、民間金融機関は超低金利の現在では住宅ローン債権をホールドしていた方が有利であり、あまり証券化を行っていない。一方、預金業務を行わず、証券化を前提として住宅ローンを専門に取り扱う日本版モーゲージ・バンカーは、現在2社設立されている。

3. 課題と今後の展望

1万戸の目標に対して、現在1250戸しか買取申請が来ていない。超低金利が続いているから、民間金融機関は債権をホールドし続けているのである。競争相手としてモーゲージ・バンカーが必要である。また、住宅金融公庫審査合格という資格が、中小の工務店のサービスを保証し、受注を支えてきた。今後、これをどのような形で代替して、中小工務店への発注をもたらすかも課題である。

 

以下は後半で行われた質疑応答の一部である。

Q:住宅金融公庫改革後、安定した超長期固定ローンがどのくらい提供されると見通しているか。

A:アメリカでは、証券化の仕組みで20年くらいのローンは極めて容易に手に入る。日本でも、紆余曲折はあると思うが、消費者が短期固定や変動金利だけで満足するということがなければ、長期固定金利は出てくると思う。

Q:日本の債券市場の規模は大きくないのではないかと思われるが、ishii4どのくらいの規模なのか。米国のように浸透化していくには、どのくらいの期間・条件が必要となると考えられるか。

A:国債市場は、日本は299兆円、米国は372兆円。日本ではこれはほとんど銀行や生保が保有しているだろう。MBS市場は、日本は0.99兆円、米国は455兆円。日本の銀行は、米国のMBSを買っている。現在、早いときは3時間くらいで、公庫の資産担保証券1000億円が市場で掃けてしまう。これを買う会社の数も、100社のオーダーであり、増えている。

Q:日本の証券化はアメリカをモデルケースとする傾向にあるようだが、今は(アメリカの証券化機関である)ファニーメイなどは金融市場の中で肥大化して、経営問題が発生している。今後、日本が公的金融のあり方について考えるとき、何か学ぶ視座があるのではないか。

A:議会やグリーンスパンがファニーメイなどの肥大化については警鐘を鳴らしている。アメリカは景気がよくなってきている。不況時には住宅の証券市場が景気を下支えしたが、もはやそれほど必要ない。また、情報開示(リスクがきちんとヘッジされているのかどうか)について、フレディーマックでは問題があった。ほんのちょっと情報開示に問題があっても、額が巨大なだけにリスクが大きい。日本においては、第三者(委員会などできちんと事情が分かっている専門家)による監視などによって、情報開示・財務監督についてきちんとやっていくということが大切だろう。

ishii5Q:中小工務店への信用強化について、官庁として格付けなどの方策を採っていくのか。

A:中小工務店の信用力を評価する仕組みをなくすのは惜しい。何らかの政策をとる必要があると思っている。日本のように、1兆円のハウスメーカーがある国は他にない。普通は、地域に根ざした工務店がメンテナンスまで含めてやる。

Q:住宅ローンの証券化ができたとき、国土交通省の利益と役割は何か。

A:品質の保持をきちっとしていくということと、ローンが経済情勢などに応じて適切かをチェックしていくということ。自己資金がどれくらいないとだめか、返済額と給与との関係がどこまでならOKか、という基準を変えることで、証券化の金額が変わるし、これはそのまま、住宅の供給を絞るということになる。これを、住宅政策の観点から見て時代状況に応じて適切かチェックする必要があるだろう。