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公共経済政策ワークショップ

2004年6月4日

「 永田町の経済学 」

山本 幸三 (元衆議院議員)

yamamoto1 1. 原始ケインジアン

永田町で経済理論をきちんと理解している政治家は少ない。政治家の間で経済理論として認識されているのは、景気対策は財政拡大により公共投資をふやせばよい、という原始ケインジアン理論程度であろう。これからは政治家も官僚もしっかり経済理論を身につけることが求められる。特にマンデル・フレミング理論は理解しておけば有用だろう。マンデル・フレミング理論とは簡単に言えば、変動相場制の下では、財政政策は無効だが、金融政策は有効であるという理論である。このマンデル・フレミング理論に従えば、金融緩和を行ってマネタリーベースを大幅に増やすことが景気対策として有効である。

 

2. 日本市場の閉鎖性と貿易黒字

yamamoto2 日本の貿易黒字は日本の市場の閉鎖性によるものであり、したがって貿易黒字解消のためには市場を開放せよ、という主張が一時期、アメリカの議員などからなされた。しかしこの主張は誤りである。なぜなら市場の閉鎖性と貿易黒字は無関係だからだ。貿易黒字は貯蓄・投資バランス(ISバランス)によるものである。貯蓄・投資バランスとは、S(貯蓄)−I(投資)=X(輸出)−M(輸入)という恒等式で説明される。このISバランスが多くのアメリカや日本の議員に理解されていない。

3. インフレ・ターゲティング

 yamamoto5デフレは金融現象である、という事実が多くの人に受け入れられていない。さらに名目金利と実質金利を混同した議論も多い。そのため、デフレは中国から安価な製品が輸入されているからだという輸入デフレ説や、物価の下落は生産性の向上によるという生産性向上説などの誤った議論がなされている。デフレは需要不足が原因である。そこでデフレ克服のためには日本銀行が物価安定の数値目標を定め、その目標を達成するように金融政策を行うと宣言するインフレ・ターゲティングを行い、期待インフレ率を安定化させるべきだろう。

4. 結論

 経済理論的発想を持つ永田町の政治家は極めて少ない。これは由々しき事態である。これからの政治家(官僚も)はきちんと経済理論を身に付け、それを現実の政策課題に応用できるようになることが求められるだろう。

 

(質疑応答)

yamamoto4Q. どうすれば政治の場で経済理論を身につけた理論家を増やすことができるか。

A. 選挙はお金がかかる。選挙に強い人がしっかり理論を身につけてくれるのが望ましいが、大学できちんと理論を学んだ人のなかで資金に余裕のある人が選挙に出てくれたらよいだろう。

Q. 日々政治活動で忙しいなかで、どのようにして経済理論にキャッチアップしているのか。

A. 手っ取り早い方法は、大学教授などの専門家と友人になり、その人達から直接教わったり、著作などを読んだりすることだろう。また理論を身につけるためには、きちんとした問題意識を持って勉強することが大切だ。