トップページ > Events & Forums > 公共経済政策ワークショップ > 2004年度夏学期

公共経済政策ワークショップ

2004年6月11日

「 政策評価と経済分析:公共政策大学院の役割 」

金本 良嗣 (東京大学教授)

kanemoto1 第8回目の公共経済政策ワークショップでは、『政策評価と経済分析:公共政策大学院の役割』というテーマで金本良嗣教授(東京大学公共政策大学院)が講演を行った。

海外における政策評価と公共政策プロフェッショナル

アメリカではレーガン政権における規制インパクト分析の義務化を受け、Ph.D.を取得したエコノミストが、FTC等の経済官庁だけでなく、労働省、環境省、司法省などの非経済官庁にも数多く入ってきており、ミクロ経済学や計量経済学などのツールが環境、安全、健康分野等での政策分析に寄与している。一方で、ケネディスクールの卒業生があまり公務員にならず、NPOやコンサルティング会社に就職する人が多いという現状もある。

政策評価の歴史

19世紀半ばに消費者余剰分析をフランスの土木技術者達が生み出し、その後、欧米諸国では、広く費用便益分析が政策評価に使われている。ただし、費用便益分析はkanemoto2政治的な意思決定の際に用いられる一つのツールであり、費用便益分析によって自動的・機械的に決定がなされるものではない。政府機関内部の査定の仕組みに機械的・客観的なルールを導入するというPPBSのアプローチは失敗に終わった。

日本における政策評価

97年の橋本総理(当時)の指示により、公共事業については費用便益分析が広く行われるようになった。しかし、経済学や統計学などの専門的能力を持つ人材がまだ少なく、チェックシステムや情報公開が不十分である。また、欧米では広く普及している規制インパクト分析は日本ではまだ導入されていない。さらに、日本で最も広範に採用されている「実績評価方式」は危険性をはらんでいる。

公共政策大学院の役割

公共政策大学院では政策分析(評価)の能力を培うことが柱となる。OJTでは養うことが困難な経済学、統計学などの専門的能力、10年後・20年後を見据えた上で必要とされる能力の形成が公共政策大学院の役割である。

 

以下は後半で行われた質疑応答の一部である。

 

Q:有効な政策評価の手法を導入するにはどうしたらよいか。特に、数値化できないものはどうするのか。

kanemoto4A: 手法は基本的に、既にどこかで開発されているものを用いる。その際問題となるのは、その分析手法やデータが扱っている問題に対して適切かどうか、ということである。データがないこともあるし、あっても使える形になっていないこともあり、実際には使えるデータがないことも多い。結局、あるものでどれだけやるか、ということになる。きちんとしたデータがないときはとりあえずの数値例を出すということが行われている。新規に規制を導入する際の政策評価に関しては、被規制者が規制に反対の立場であることが多いため、政府とは別にデータを集めて評価分析をすることが多い。その結果、コンサルテーションのプロセスで分析の質が向上するといったことがある。しかし、公共事業ではなかなかこういうことは起きない。数値化できないことに関しては、定性的な議論以上のことはできない。利用可能な情報をベースに意思決定をせざるをえない。

Q:国の全公共事業を評価している日本のやり方は、無駄が多いのではないか? また、実績評価であること、事後評価であることも疑問である。

A:日本の場合、国の直轄の公共事業で小規模なものは少ない。小規模なものの事例としては、海に浮かぶ灯台が挙げられるが、これについても、数をまとめて評価できるので、実体としてはあまり問題ではない。

公共事業については日本とアメリカでかなり違う。 アメリカでは連邦政府は公共事業をほとんど行っていない。ただ、連邦政府は州政府に補助金を支出するため、補助金を出す際に、費用便益分析を行うことを条件としている。規制の評価については、国民負担を含めて1億ドル以上のインパクトがあるものについては評価しなければならないということになっている。

kanemoto3公共事業の費用対効果分析の主体は事前評価であり、また実績評価ではない。実績評価については、使い方があまり明らかではなく、個々の意思決定にリンクされていない。実績評価の目標はアバウトで、例えば道路の整備率を上げるといってもどこに整備するかはまた別の話であり、直接リンクするわけではない。事前に評価すべき、ということについてはその通りである。公共事業に関しては費用対効果の分析が行われるようになったが、他のことに関してはまだ未整備である。

Q:情報公開について。必要な情報を構築するシステムはどうあるべきか。

A:実際の計算に使用されるデータの公開に関してはまだ不十分である。企業情報や個人情報に関わる部分があるデータもあるが、ほとんどの政策分析ではそのようなデータを用いる必要はない。ただ、データには高価なものが多く、数百万というものもある。これはまた違うタイプの問題である。磁気媒体のデータに関しては、データを売っている公益法人の人件費をまかなうために高くなっているという事情もあり、これも解決するべき問題の一つとして挙げられる。