トップページ > Events & Forums > 公共経済政策ワークショップ > 2004年度夏学期

公共経済政策ワークショップ

2004年7月2日

地方分権と「三位一体改革」

森田 朗 (東京大学公共政策大学院院長)

morita1 第10回目の公共経済ワークショップでは、『地方分権と「三位一体改革」』というテーマで、森田朗教授(東京大学公共政策大学院院長)が講演を行った。

<はじめに>

 「三位一体改革」に地方分権改革推進会議(以下「分権会議」)の委員として関わってきた一人として、地方分権改革、とりわけ地方財政の改革について説明したい。地方財政の改革については、財政学の専門家の間でも意見は分かれており、また、政治過程においては関係者がそれぞれ異なった観点・利益関心を持って参加してくる。本来、このような場合には、調整の中から「政策」が生まれてくることが期待されるが、三位一体改革の場合は、(一義的な)答えの出る問題ではなく、どのような答えがありうるのかを考えることが重要である。

<分権の哲学>

morita2 1990年代以降、地方分権はわが国の政治の大きな争点となってきた。ただ「中央から地方へ」と言っても、何のために地方分権をするのか、その目的は人によって異なる。大きく二つ考えることができる。

一つは、原理論的な地方分権論で、住民自らが住んでいる地域を良くするために、地方分権が必要であるという考え方、もう一つは、行革論的な地方分権論で、低成長時代に非効率となった中央集権を廃し、小さな中央政府と地方分権が望ましいという考え方である。後者は効率化に必要な範囲で地方分権を目指す立場にたつ。

<これまでの地方分権>

 日本においては、国民生活に密着する行政サービスの多くが地方自治体によって担われているが、資金面では、ほとんどの分野で国と地方が共同で出資している。また、歳入については国:地方が6:4なのに対して、歳出においては国:地方が4:6となっている。そして、国は地方の仕事に対してさまざまなコントロールをしている。

 事務権限における集権的システムを象徴していた機関委任事務制度を廃止したように、財政制度においても、地方の自立性を高めることが分権改革の目的であった。

morita3

<三位一体改革をめぐる対立とトリレンマ>

当初、財務省は税源移譲に消極的であり、総務省は交付税の見直しに反対、その他各省庁は補助金の縮減に反対している。三つのうち、一部だけの改革が先行するのではないかという不安が、総務省・財務省・各省庁の対立を激しいものにしている。

 論点は、次のように整理できる。

(1)歳出総額の削減を前提にして、税源移譲を一定の規模で行うと、財政力の格差は拡大する。

(2)歳出総額の削減を前提として、格差を是正し財政調整と財源保障を行おうとすると、税源移譲は難しくなる。

(3)税源移譲を行ったうえで、格差の是正を図ろうとすると、歳出は膨張し、増税もしくは財政の破綻となる。

 90年代以降の財政状況の悪化は、このようなトリレンマを生み出しており、それが地方分権改革を難しくしている。

<これからの分権改革>

 「三位一体改革」をめぐる問題の解決は、関係者がそれぞれの利益関心を持っているために容易ではない。

しかし、より望ましい解決を探るためには、問題意識を共有し、共通の土俵に立って議論していくことが必要である。

 また、税源移譲によって自治体間の格差が広がるならば自治体間に対立が生まれてしまう。自治体間の格差を是正する何らかの仕組みが必要であるが、財源保障をするにあたっては、保障水準をどのように決めるのか、その方法・手続きが明らかにされる必要がある。

 地方財政制度改革は、その全体像を提示して、同床異夢のような状態を脱して、建設的に議論されていくべきであろう。

 

以下は質疑応答の一部である。

morita4

Q:三位一体の改革をすすめる上で何が問題か?

A:地方の財政力の格差が問題になる。日本国民が地方ごとに格差が出ることを許容できるかは疑問がある。均等な行政サービスが必要な分野もある。

現在の議論は、地方が課税自主権を持ち、歳入の自治を確立するというよりは、税収の配分をどれだけ地方に回すかという議論になっている。

Q:税源移譲の対象を消費税にすることの問題点は何か?

A:消費税は地方税にはなじみにくい。現在の地方消費税1%も地方が徴収を行っているわけではなく、配分も一定の方式に従って行われており、地方が課税し徴収するというのはフィクションに近い。たとえば、スウェーデンでは所得税は地方税で、消費税は国税となっている。それはそれで分かりやすいと思う。

Q:税源を地方に移譲した場合、地方自治体によっては、その財源に群がる輩が出てくるのではないか?それを防ぐために住民が地方政治に参加する仕組みが必要ではないか?

A:たしかに、民主主義のあり方・それを実現する仕組みというのは重要。一部のエリートが政治を仕切って、国民は最終的な拒否権だけを持っていればいいという考え方もあるだろうし、それとは反対の考え方もあるだろう。

 大切なのは、人々が学習していくこと。そして、容易に答えの見いだせない問題であっても、政治のあり方について考えていくことが重要である。