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公共経済政策ワークショップ

2004年7月16日

「政策評価制度の成立と概要」

田辺 国昭 (東京大学公共政策大学院)

1.政策評価制度の成立過程と概要

tanabe1 行政改革会議最終報告(平成9年12月)において、評価機能の充実強化が盛り込まれ、中央省庁等改革の推進に関する方針(平成11年4月)において、各府省と総務省との2本立ての制度にすること、各府省に課レベルの評価担当組織を置くこと、評価対象、が定められた。その後、政策評価の手法等に関する研究会の報告を受け、平成13年6月に、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が国会において可決・成立した。

2.日本の政策評価制度の特徴

日本の政策評価制度の特徴として、(1)法律による義務付け、(2)包括的な評価制度であること、(3)既存の評価方式の組み合わせによる構築、(4)柔軟性(各省ごとの設計)、(5)予算とのリンクが弱いこと、が考えられる。これらの特徴に起因して、(1)(2)からは、アカウンタビリティーの儀礼化、組織内部の管理と結び付かない、個々の評価目的が不分明になる、負担の過重化傾向がある、といった問題が生じ、(3)(4)(5)からは、新しい方式の開発が不十分である、能力の不足、統一性・比較可能性の不在、評価活動のインセンティブが弱い、といった問題が生じる。また、現在の制度で未解決な課題として、府省を超えた政策課題への対応がない、府省の目標設定および評価結果に対する政治的なコミットが不在である、コスト情報の不在、資源配分とのリンクが弱い、レビュー機能が不十分である、組織の評価能力が不十分である、利用者の意見の吸収が不十分である、といった点が挙げられる。

tanabe23.政策評価制度への期待と失望

政策評価制度については、単一の客観的基準、整合的な組織目標、包括的な管理手法、業績指標の完全性、の4つのドグマが存在し、そのために、政策評価制度によってはできないことを可能なものと誤認させる。その結果、過度な期待が生じ、それが裏切られることにより、過度の失望と不信が生じてしまうことになる。従って、政策評価において何が可能なのかについての認識と政策評価に対する適切な支持とが適切なレベルで確保されていることが、政策評価の健全な展開には不可欠である。

4.政策評価制度にできること、できないこと

政策評価制度では、できないこと

  • 異なる政策領域でのプライオリティーの設定
  • 異なる政策領域での資源配分に役立つ情報の提供
  • 政策に関わる強い合意形成

政策評価で、できること

  • 特定の政策領域における便益と費用構造の把握
  • 政策執行における問題点の把握
  • 予算要求に関わる情報の提供

条件がそろえば、できるかもしれないこと

  • 人事評価とのリンク
  • 組織別の資源管理

政策評価制度の向上へむけて

  

アカウンタビリティーの確保、行政の効率化、成果主義への移行、といった制度本来の目的に立ち返って、政策評価制度を再考していくことが今後の課題である。

 

 

以下は後半で行われた質疑応答の一部である。

 

Q外部主体による政策評価を活性化するためには何が必要か。

Aメディア、国、団体、研究者が積極的に政策評価を監視し、フィードバックすることが必要である。とりわけ、公共政策大学院などで専門的なトレーニングを受けた人間が各省庁を批評するとともに、国会や一般国民を含んだ幅広い外部機関による積極的な評価が必要である。tanabe3

 

Q地方自治体における政策評価の実態はどの様なものか。

A地方自治体における政策評価は実績をベースに行われている。特に、事業の廃止・存続に関してプライオリティーをつけて政策評価を行うことで一定の成果があげられている。しかし、評価システムを事業間の比較や、議会のために使われている場合は政策評価の意味がない。政策評価の利用に関する適切な理解を促すと同時に、評価情報を生かすことのできる組織的な経路を確立することも望まれる。

 

Q政策評価自体は評価の対象になっているのか。

A総務省、財務省は政策評価の評価を行っているが、負担が大きい一方で、利用者が不明確であることが問題となっている。一方で環境問題を始めとする府庁横断的政策に関しては総合的評価が行われておらず、厳格な客観性を保つためにも新たな制度設計が望まれる。