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公共経済政策ワークショップ

2004年10月15日

医療保険制度改革の課題

岩本 康志 (一橋大学経済学研究科教授)

iwamoto1医療保険制度改革の課題

1. 医療保険制度改革に至るまでの流れ

1980年代は財政が安定しており経済成長率と医療費の伸びが均衡していたが、1990年代から経済は低迷する一方医療費は増加の一途をたどり、不均衡が生まれた。そのため1997年には医療費の自己負担増がおこなわれた。現在はこのような医療保険制度が抱える問題の抜本的な改革が課題になっている。

 

2. 医療保険制度改革の概要

iwamoto2医療保険制度改革には、(1)新しい高齢者医療制度の創設と(2)保険者の再編・統合がある。

(1)新しい高齢者医療制度の創設

現在、75歳以上の後期高齢者について新しく独立した保険制度を作ることが考えられており・保険料は新しい制度に直接集められる・患者負担を3〜4割に設定・不足分は若年者保険から「社会連帯的な保険料」として支援される・公費から5割を賄うといった内容になっている。社会保険制度は受益と負担のリンクが薄れていることなどから維持が危ぶまれており、高齢者医療制度においても「社会連帯的な保険料」に支持が得られるかが重要である。 

(2)保険者の再編・統合

保険者の再編については、市町村国保、政管健保、健保組合のそれぞれで都道府県単位での再編が目指されたが、困難が多く意義もあまりない。保険の単位にはそもそも2つの側面がある。一つはリスクのプールであり、数が多いほど有利である。もう一つは消費者主権になりにくい医療について加入者の代理人として働く「保険者機能」であり、少数のほうが有利である。この相反する2つの機能を区分して制度を設計するには「リスク調整」という手段が有効である。

iwamoto33. 「リスク調整」を用いた医療保険制度改革案被用者保険と国保の間には被保険者集団に偏りがあり、国保によりリスクの高い人々が集まっている。年齢や所得から生まれる財政格差は各保険内では制御できないため被保険者集団の再設計が必要とされるが、「リスク調整」を用いれば現行制度を維持したまま実質的に被保険者集団を再設計することができる。具体的には、各保険間の加入者の年齢構成の差によって生まれる医療費の違いや加入者の所得の差によって生まれる保険料負担の違いについて、各制度内で負担するのではなく制度間で財政調整を行うというものである。

「リスク調整」を用いれば加入者の偏りといった保険者の責任ではないリスクは全体でプールし、保険者の責任であるリスクは個別保険の責任とすることが可能である。

 

以下は後半で行われた質疑応答の一部である。

Q1 医療保険制度について、国が社会保険方式で行う意味は何か?自賠責保険のようには出来ないのか?

A1 建前としては公的医療保険で皆保険を実現する意義があるため。完全に民間に任せているアメリカでは未加入者が10〜20%存在しており、完全に税で賄っているイギリスでは加入者に医者の選択権が与えられておらず、過少供給も指摘されている。その点で日本の社会保険方式は優れているといえる。ただし民間に委ねる可能性が無いとはいえない。一方本音の部分では、現在の社会保険方式が厚生労働省の既得権益になっていることも否定できない。

Q2 高齢者の中でも所得・資産が多い者、少ない者がいるのでは?

A2 確かに年齢で分けることへの批判はある。所得に応じて負担額を高くすることは考えられる。