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公共経済政策ワークショップ

2004年10月29日

「三位一体改革」について

神野 直彦 (東京大学経済学研究科教授)

 

jinno11.「三位一体改革」とは

 三位一体改革とは、国税と地方税間の配分、補助金、地方交付税交付金を有機的に関連付けて行う改革のことである。現在の改革は議論の順番が間違っている。税源を地方に委譲したあとに補助金や交付税を議論すべきである。

 

2.財政調整のあるべき姿

 ドイツ財政学には、「補完性の原則」「最低保障の原則」という考え方がある。財政調整では、最初に国と地方との行政任務の配分を考え、その負担する業務に応じて応益原則の下で課税権を配分する垂直的財政調整が前提となる。行政任務における決定と執行の非対応や、行政任務と課税権の非対応は是正されなければならない。地方自治体間の財政力(財政需要+課税力)の格差は、水平的財政調整制度によって是正される。水平的財政調整制度には、地方税を財源として地方自治体間で直接調整するものと、国が国税を財源として調整するものとがある。

 

jinno23.税源移譲の具体案

 現行の制度では、国と地方との間で歳出比と税収比に大幅な乖離が生じている。地方自治体の行政事務に応じた財政負担が手当てされなければならない。また、税収の地方間格差が大きい。例えば、豊かな地方に相当する東京都と貧しい地方に当たる沖縄県を比較すると、人口の全国シェアは東京都が9.6%、沖縄県が1.05%であるのに対して、地方税額の全国シェアは東京都が16.6%、沖縄県が0.6%となっている。

税源移譲によって、地方自治体間の財政負担が拡大することが心配されている。しかし、ここで以下のような提言をしたい。応益原則に応じて、jinno3"所得に課税する地方税を10%比例税率化して課税最低限を引き上げ、3兆円を税源移譲する。消費は地域住民の消費活動を反映するので、消費税3.7兆円を移譲する。交付税財源に繰り入れられていた消費税の1.7兆円を地方財源化し、かわりに地方の法人住民税を一部国税化した上で交付税財源として1.7兆円繰り入れる。景気によって大きく変動する法人税は国税化されることが望ましいからだ。これによって人口シェアに応じた租税体系が実現しうる。シミュレーションによると税の全国シェアは東京都が8.9%、沖縄県が0.9%となり、それぞれ人口シェアに見合う形になる。

 ヨーロッパ自治憲章に見られるように、自己決定権のある地方自治を実現し、地域社会を活性化させていくことは世界の潮流である。地方当局の意思決定を歪めないために、補助金はなるべく縮減すべきだ。

 

以下は後半で行われた質疑応答である。

 

Q1 資産課税は地域間格差が少ないので、これを国から地方に委譲してはどうか。


A1 相続税などは地域間格差がかなり大きい。また、個jinno4別の財産税は地方自治体に既に委譲されている。

Q2 地方自治体は現時点でも多くの負債を抱えており、今後さらに増えていくだろう。このような中で、地方自治体によるサービス水準はどのように変わっていくと考えるか。


A2 地方自治体が財政赤字となっていること自体が本来おかしい。地方自治体に財政責任を持たせれば、借金をつくるはずがない。多くの負債を抱えている現状においてどうすべきかを考えると、サービス提供を伴わない借金を減らすためだけの増税は認められないと考えられるので、負債は別勘定としてコントロールするしかないのではないか。

文責:波多野