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公共経済政策ワークショップ

2004年11月12日

民間企業から見た環境政策

笹之内雅幸(トヨタ自動車)

 

sasanouchi1環境問題の対する産業界の対応は、ある種の長期的なリスクマネジメントである。社会が崩壊し、市場がなくなれば事業が持続可能で無くなるからである。持続可能性というのは、環境に配慮さえすればよいというものではなく、経済発展・環境保全・社会正義(トリプルボトムライン)にバランス良く配慮することである。我々世界の主要自動車会社でモビリティの持続可能性を評価するため、経済性や移動時間だけでなく、環境や気候への影響を含めた12の指標を自主的に作成している。環境問題の一方で我々は、モビリティデバイドの解消も目指している。国別比較では一人一日当たりの移動時間や可処分所得に占める移動費用には差は見られないものの、一人一日当たりの移動距離ではまだ差がある(モビリティデバイド)。そもそも自動車の開発の歴史は、当時公害の原因だった馬車に代わって自動車が登場したように、環境問題やモビリティデバイドの解消を目指してきたものである。自動車は生産・使用・廃棄というあらゆる段階で環境負荷が大きい。自動車保有の増加はこの負荷を増大させ自動車社会の発展を妨げる。我々はこのような負のサークルを正のサークルに持っていかなければならない。

「持続可能な発展」については、1972年のローマクラブ報告書(「成長の限界」)や1992年の国連環境・開発会議(リオサミット)などにより、国際的に注目を浴び続けてきた。そのなかで「持続可能な発展」に関連する情報開示や投資などは、法的に強制されるものでなくても、実質的に拘束力のある「合意事項」もしくは社会的なプレッシャーとして多くの企業が実施するようになってきている。

sasanouchi2日本の環境への対応は、

  • 60〜70年代:「公害」・・・被害者v.s.加害者
  • 90年代以降:「環境」・・・被害者≒加害者

という変遷が見られた。60〜70年代は被害者と加害者の区別が比較的わかっていて、何か問題が出てきたら政府が対応するというのもだったが、90年代以降その明確な区別は見えにくくなっている。そこで重要なのは事後的な対処よりも未然防止である。

 未然防止をするためには「規制」と「自主的取り組み」のどちらがいいのか、という議論がある。どちらも一長一短あるが、データを見ると「自主的取り組み」の方がはるかに目標達成率が高い。「規制」を擁護する説として「ポーター仮説」があるが、これは偶然性に依存する部分が多く、あまり信頼できない。規制をかけるにしても、民間企業がよくやる「QC的アプローチ」や「PDCA(Plan→Do→Check→Action)」を採用するべきだろう。

いずれにせよ、社会の状態と照らし合わせて、どちらを(比較的)重視するかについて議論することが大切である。私見だが、より成熟した社会ではより「自主的取り組み」が有効であると考えている。

 今後社会がどの方向に進むべきなのか、について一企業が提案するのは望ましいことではない。それよりは、100年後に社会がどのように変化したとしても、それに対応できる準備をすることが重要である。

 環境問題には3つの観点から取り組むことが必要である。「技術開発」、「経済との整合性」、「幅広い合意」の三点のキーファクターに重点的に取り組んでいく。技術は総合的な視点で追求していくべきである。すなわち自動車の走行時のみでの環境への影響や経済性を見るのではなく、製造から廃棄までの自動車のライフサイクル全体で考えていくことが望ましいと考える。また社会との連帯協力を強化し、社会と幅広い合意の上で事業を進めていくべきであると考えている。

 

質疑応答

sasanouchi3Q1.自主規制に必要な条件は?

A1.企業が長期的な利益を選択できるかにかかる。環境対策等は短期的には損失を招くが、長期的な市場の信頼には必要。また大企業が見本となり、長期的な視点で戦略をとる体力のない中小企業に、姿勢を示し、規範を創造していくことが重要である。

Q2.政府は自主規制をどのような場合に選択すべきか

A2.経済界が自主規制を行えるポテンシャルがあるかどうかを見極めることが重要。的確にポテンシャルを見極められれば自主規制は有効である。