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公共経済政策ワークショップ

2005年05月09日

電力自由化の技術的側面

田村和豊(関西電力株式会社企画室支配人)

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(1)電力系統に関する基礎的側面 
  欧米の電力系統のモデルとの比較により、日本の電力系統モデルの特長を説明した。電力システムは地理的・経済的背景を元に成り立つので、国によって特長が大きく異なる。まず、アメリカの電力モデルだが、電力事業者は全土で3000以上、各地のコントロールエリアも140を超えている。また、平成15年度8月に起きた米国北東部を襲った大停電はNEWSWEEKの表紙になるなど大騒ぎとなったが、その原因は送電線下の森林伐採が遅れ、送電線と樹木との接触によるものでした
  次に、ヨ―ロッパの電力の高圧送電線は国境を越えて網の目のように多く張り巡らされている。これは、典型的メッシュ系統です。需要が国内に適度に分散して存在し、発電用資源がどこでも容易に得られるという状況で構成されますが、現状ではあまりにも多いこの送電ラインを整理縮小する方向に進んでいる。
  一方で、日本のモデルは、都市が沿岸部に並ぶため電力系統が直線的な串型モデルである。このモデルでは、事故時の状態を把握しやすく、大きな事故が起きた場合電力系統を分離する事ができるという大きな長所がある。
(2)パンケーキ廃止問題
  パンケーキ廃止とは、従来の振替供給制度を見直し、供給区域内外の取引を問わず各供給区域の系統利用料金に一本化しようという内容だ。安価な電気の存在を前提に、全国で広く電力流通を活性化しようという政策である。欧米ではパンケーキ廃止問題は切実に議論されるべき背景がある。例えば、ループフロー問題である。ベルギーからイタリアに電力を送るケースでは、最短距離の送電線を電気が流れるのが一番ありそうに思われるが、実際は色々な場所を経由して電力は送電されている。つまり送電コストを特定することが困難だ。そこで、ヨーロッパではパンケーキを廃止した方が分かり易いのでパンケーキ廃止に踏みきった。日本では将来どのような議論がなされるか興味があるが、私は日本の場合、パンケーキ廃止は非合理だと思う。
wstamura02(3)連系線事情
  平成16年のデータによると連系線利用上、三ヶ所大きな問題がある。北海道―東北を結ぶ北本連系線、東京―中部を連結するFC、中国―九州をつなぐ関門連系線の三つで、共に電力送電に関して余裕が全くない。実際は周波数維持や電圧安定等の電気の特性を考慮して考えるため、利用者が使える容量というものは単なる物理的容量より小さな値になる。そこで、新規参入の電力会社がどこどこにまで電力を送りたいとすると、その送りたい量を託送可能量と呼ばれる利用枠とチェックする必要がある。託送可能量とは、運用容量からマージンと計画潮流を差し引いた値である(託送可能量=運用容量―マージン―計画潮流)。なお、マージンとはリスク対応分とのことで、系統の大きさの3%は必要だと計算されており、計画潮流とは既契約分の振替供給のことである。そこで、現在議論されているのがマージンの量が少し多いのではないかということだ。
(4)送電線建設問題
送電能力が足りない場合もう1本送電線を作って、設備を増やせばいいという考えが出てくる。しかし、送電線1本作るのにどれくらいの労力とコストがかかるか知らない人は多いと思う。具体例がわかりやすい。東清水FCの場合15年経つがまだ出来ていない。本州と四国をつなぐ本四連系線を作るのに20年ほどかかった。また、コストとしては4000億円ほどかかった。1本の送電線を作るのに10〜20年の年月が必要だという事、1km当り10億円の費用がかかるという事である。また、NIMBYという権利意識や環境問題が送電線建設を困難にする。
wstamura03(5)原子力と自由化
  最後に、原子力の実情について。現在、関西電力は全電力のうち60%近くを原子力に頼っている。他にも、東京、四国、九州地方でも原子力に依存する度合いはかなり高い。原子力での電力供給は年間通して一定出力でと決められており、軽負荷期のボトムでは原子力ウェイトが90%を越すところもある。このように、我が国の電力供給の基軸は原子力によってまかなわれている。
  今後十年程各地で原子力発電所を新増設する計画があるが、これからはスクラップ&ビルドの問題も考えていかなければならない。設備は老朽化するのでそれに対応した開発計画をする必要がある。また、平成15年にエネルギー基本計画によってエネルギー政策の政策目標が決定された。安定供給の確保と環境への適合、この2点を十分に考慮した上、今後とも原子力は基幹電力として位置付け、引き続き推進ということである。今後の方向性としては、「原子力か新エネルギーか」ではなくて「原子力も新エネルギーも」である。また2030年以降も、原子力発電に全発電量の4割程度、もしくはそれ以上の役割を期待していこうということだ。しかし、これらを「自由化」という枠組みの中で実施していかなければならないという難題がある。

以下は後半に行われた質疑応答です。

wstamura04Q1 原子力は危険で、もっとクリーンな資源を使った発電をしようという議論がありますが、どう考えますか?
 
A1 日本でも積極的に新エネルギーは使うべきだと思います。新エネルギーとして二つ考えています。一つは風です。風のリソースとして絶対的な量が各国異なり、場所によって向き不向きがあります。現在、主に北海道と東北で風力による発電はおこなわれています。そして、もう一つは太陽光です。しかし、両リソースとも大変不安定です。太陽光であれば曇りだと、風力であればなぎだとダメだということです。現状では日本の総発電量のうち4割は原子力に頼らないと無理でしょう。二酸化炭素排出量削減の観点からもそういえるでしょう。

Q2 送電線の増設や原子力発電所の開発の話をお聞きしましたが、電力を増やしていく必要はあるのですか?また電力供給は増えていく見通しなのですか?

A2 エネルギーの利用総量は低下していかざるをえないとは思いますが、電力利用総量はフラットになる可能性があります。家庭用エネルギーも安全性の面から電力化されていく傾向でありますが、IT環境の整備・発達から爆発的に電力使用量が増すという見方もあります。一方で、エコロジーの意識によりエネルギー量を減らそうとする動きも見られます。色々な考え方が出来ますが、確実なのは東京のようなビジネス中心では増え、少子高齢化の下、地方では電気利用が減るというような、地域的な差が大きくなると思います。

Q3 JR福知山線の脱線事故にあげられるように安全性が企業に求められています。安全性について意見をお聞かせください。

A3 公益事業では安全・安心は大前提でしょう。安全性の改善には、第三者のチェックを導入することが効果的であると思います。第3者の目で監視できる仕組をつくらないといけないでしょう。自由競争に勝つため、価格をさげることばかりに着目してしまい、安全面にかけるべきコストがカットされてしまうと危険です。