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公共経済政策ワークショップ

2005年7月4日

国土学

大石久和(国土技術研究センター理事長、前国土交通省技監、元国土交通省道路局長)

wsoishi01 1、国土学とは
国土の上に平地を整備し、河川を改修し、道路を建設する。長期的な視点で公共政策は考えなければならない。しかし、公共事業は現在フローの部分(国家予算に対する公共事業費の割合、もしくはGDPに対する割合)で評価されることが多い。時間軸、あるいは空間軸の中で考えた場合、公共事業がどのような役割を果たしているか再度考えてみる必要がある。そこで、国土の自然条件・社会条件の差を認識することの重要性を説いたものが大石氏の提案する国土学であった。

2、公共事業のきりつめは本当に進めていいのか?
小泉首相が骨太の財政改革を推し進めるため公共事業を切り詰めているが、欧米諸国と単に比較し評価する前提がおかしい。一つは我が国の固有な国土条件である。欧米とは全く異なり、我が国では地震も起こるし大雨も降る上、軟弱地盤である。また、二つ目に歴史的な背景を全く無視した点である。過去の人々の努力の結果、私たちの世代が整備された社会資本の恩恵を享受している。しかし、その背景は考慮していない。現天皇の家庭教師であった小泉信三氏の言葉を引用すると「前代から受け継いだものよりも良いものとして、次代に引き渡さなければならない」ということだ。

3、公共事業のススメ
公共事業きりつめを主張する人たちは以下にあげる問題点を見過ごしている。
(1)社会基盤整備が適地適産の進展を促した→経済の効率化
生鮮食品流通の広域化・高速化…冬場でも熊本のトマトを食べることが出来る/東京の卵の4割は青森産
wsoishi02(2)日本固有の国土条件が認識されていない
軟弱地盤/地震が多い/狭い平野に人口が集中/細長い国土/河川勾配が急
雨は梅雨と台風の時期に集中/国土の75%が河川の氾濫源
(3)社会条件が正しく認識されていない
地籍が未確定(東京17%、全国平均45%)→道路整備に多大な影響
(4)国際競争力が相対的に低下する
港湾の弱体化…上海・釜山からのフィーダーになってしまう→情報・お金の面で遅れをとってしまう
航空機の滑走路が少ない…北京は3000m級の滑走路を2008年までに建設
道路関係予算が少ない…アメリカは道路関係予算を30%アップ
(5)財政構造が正しく認識されていない
系の取り方によって異なる/一般競争入札は公共事業にあてはめられるか疑問

4、結びに
豊かな暮らしを実現するためには、社会システムの充実が欠かせない。社会システムは法律や習慣といった「制度」と道路・上下水道といった「装置」からなる。時代の変化や暮らしの高度化に応じて、「制度」や「装置」の内容も変化し高度化しなければならない。「装置」の安全で快適な環境を提供する点を理解し、安易に公共事業のきりつめに走ることに注意する必要がある。

以下は、後半に行われた質疑応答の一部である。
wsoishi03Q これ以上道路を整備していく必要はありますか?
A 他国と比較してまだまだスピーディーな輸送というものは成立していません。一つの評価指標として30分で高速道路にアクセス出来るエリアがどれだけあるかがあります。アメリカやドイツ・中国に比べ提供できているネットワークは巨大だというわけではありません。地域の優位性を高めるためにも、競争条件を整備していくことを目標としています。

Q 高速道路を建設することによって農産物等の生産地は新たな市場を得ることができるとおっしゃったが、逆にインターチェンジができずに通過されてしまう都市は衰退する心配はありませんか?
A 少なくとも私はそのような意見を聞いたことはありません。しかし、日本の高速道路はインターチェンジの間が長いということは事実です。これは有料道路であるがゆえにインターチェンジを1つつくるのにかかるコストが高いからです。したがって、インターチェンジをもっと簡易な形状にするというような工夫も必要となってきます。

Q 「どこが何を供給するか」最適化していくことが大事だと思いますが、どのような目的をもって進めていますか?
A 地方が「どのようにしたいか」「どのようなメリットを国全体にもたらすのか」明らかになれば、国はそのインフラ整備の支援をしていきます。