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公共経済政策ワークショップ

2005年10月17日

原子力政策の政策分析

龍崎 孝嗣(経済産業省 資源エネルギー庁原子力政策課 課長候補)

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<エネルギー政策における原子力発電>

今後の経済成長により、発展途上国の一人当たりエネルギー消費量は、先進国の水準に近づいていく。世界全体のエネルギーの総消費量は大幅に拡大し、2100年には現在の3倍以上、発展途上国では6倍以上になる。
エネルギー政策における原子力の位置付けとしては、エネルギー政策基本法という法律が存在し、その政策目標として、
(1)安定供給の確保
(2)環境への適合
(3)上記2点の政策目的を十分考慮して、市場原理を活用とされている。
さらに、エネルギー基本計画では、原子力発電は準国産エネルギーとして位置付けられるエネルギーで、発電過程でCO2を排出することがなく地球温暖化防止に貢献している。原子力発電については、安全確保を大前提として、今後とも基幹電源として位置付け、引き続き推進していく。
次に石油の現状と見通しであるが、世界的にも輸入量も輸入依存度も高まる見込みである。特に中国、インドなどのアジア地域の発展途上国では、輸入依存度が2030年には現在の倍の8割近くに達すると見込まれる。一方、石油の供給面では、40年間新規油田発見は低下し続け、ここ20年間、発見資源量は生産量を下回る状態にあるなど、資源量が頭打ちの懸念もある。さらに、石油はその6割以上が中東に埋蔵されており、今後一層中東依存が高まることが予想される。
次に天然ガスの現状と見通しであるが、先進国の天然ガスシフトにより、発展途上国の需要も急拡大の見込みであり、我が国の天然ガスの輸入形態であるLNGについても、需給がタイトとなる可能性もある。
wsryuzaki02我が国の現状では、エネルギーの需要は、高度経済成長期に急増し、現在、自国のエネルギーの5割弱を石油に依存している状況である。さらに、石油に関しては、約87%が中東に依存しており、世界的にも突出している。我が国のエネルギー自給率は最も低く、わずか4%である。
このような状況の中、新エネルギーの導入が浮かび上がってくる。新エネルギーとして、太陽光発電や風力発電があり、政府としては、これを積極的に推進していこうとしているが、現状では、経済性や技術面などに課題があることも事実であり、今後のブレークスルーが必要。
原子力は、原料のウラン資源が先進国を含め広く分布するなど、供給安定性に優れており、さらに、一度使った燃料をリサイクルして使う核燃料サイクルの確立や、エネルギーを取り出しつつ燃料となるプルトニウムを増やすことができる高速増殖炉の実用化により、その供給安定性を更に高めることができる。
また、発電過程において二酸化炭素を排出しないことから、地球温暖化対策としても有効。2100年までの我が国の需給を見通し、需要面では徹底的に省エネルギーを進め、供給面では大胆に新エネルギーの導入を見込んだ上で、原子力が現在の割合程度(発電電力量の3割〜4割)の役割を果たしたとしても、2100年時点において、先進国として我が国に求められるであろう二酸化炭素の排出削減は実現できそうにない状況。
したがって、我が国が今後の方向として、エネルギー政策で目指すべき方向は、「原子力か新エネルギーか」という二者択一ではなく、「原子力にも新エネルギーにも」、ということになる。
こうしたことから、原子力発電についての政府の方針は、「エネルギーの安定供給及び地球環境問題への対応を考えると、2030年以後も、発電電力量の3割〜4割という現在の水準程度か、それ以上を期待」と整理されている。

wsryuzaki03今後の政策課題としては、電力自由化の中で、事業者には効率的な経営が求められる一方で、我が国として、エネルギー安全保障、地球温暖化防止の観点から必要な原子力発電を将来にわたり一定規模確保していくために、事業者には原子力発電への投資を求めていく必要があり、こうした二つの要請がうまく両立し得るよう、所要の環境整備を行っていくことが求められる。

質疑応答
Q1:
国内の原子力発電所の建設は、国内の原子力産業で、とする理由は何か?また、原子力産業の輸出において、政府が担うことのできる役割は存在するのか?

A1:
海外に頼らず、国産の原子力発電所にこだわることには政策的な議論の余地はある。突き詰めると、日本のエネルギー安全保障を実現するために、どこまで何をしなければいけないか、いう話。全て自前で、というのは合理的でなく、やろうと思えばすぐできるような領域については、平時には海外に依存していてもよい。ただし、原子炉の設計・製造技術は、簡単に獲得できるようなものではなく、これは製造能力を失ってしまった現在の米国を見ても明らか。燃料をいくら確保しても、そこからエネルギーを取り出す手段をいざというときに自前で確保できなければ意味はない。原子炉回りの技術の獲得・維持には長年の蓄積が必要である以上、基本的には平時から国産で、と考えざるを得ない。
原子力産業の輸出は、単に技術力、経済性の問題ではない。フランスやロシアなどが、積極的な売り込みの首脳外交を展開しているように、政治的な判断が働く分野でもある。中国は、急増する国内のエネルギー需要をまかなうため、原子力発電所の建設を急ピッチで進めており、先に4基の国際入札を行ったが、その際には、国内事業者の入札に呼応して、経済産業大臣のサポートレターを発出したところ。今後も、政府としてできる限りの支援を行っていく。

Q2:
高速増殖炉「もんじゅ」の事故以降、長期にわたって運転が停止していた理由は?また、再開の見通しは立っていないと思うが、現状は?

wsryuzaki04A2:
「もんじゅ」の長期の運転停止は、いくつかの要因が重なった結果。純粋に技術的に見れば早期の再開も可能であったかもしれないが、動燃の事後的な処理、特に事故直後の情報公開に問題が多く、地元をはじめとした関係者との信頼関係が壊れ、動燃改革となり、その後も信頼関係の修復に長い時間が必要であったこと、その間に国の「もんじゅ」の設置許可に関する判決が出され、高等裁判所で設置許可無効とされたこと(その最高裁判所では、国が全面勝訴)などが挙げられる。
再開の見通しについては、本年2月に、地元から再開に向けた改造工事に入ってよいとの了解が得られたため、3月から、改造工事に向けた準備に入っているところ。今後2年程度をかけて、再開を目指していく予定。
教訓としては、良いことも悪いことも、原子力については徹底した情報公開が必要だということ。また、原子力に携わる、我々国をはじめとする関係者が、難しいこと、技術的なことでも分かりやすく説明し、正しく国民の理解を得るよう努力を行うこと。幾ら良い施策・事業を行うことができたとしても、それが正しく伝わり、理解をされなければ、世の中との関係では、存在しないも同じだということを、肝に銘じる必要がある。
その上で、マスコミにも、自らが世論に与える影響力の大きさを自覚してもらい、事故時における報道だけでなく、意味のある、前向きな取組についても積極的に取り上げるなどのバランス感覚を期待したい。