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公共経済政策ワークショップ

2005年11月14日

実践的税制改革

森信 茂樹(財務省財務総研所長)

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1.講義概要

税制改革の決定メカニズムにおいて、表面的には自民党税制調査会・財務省主税局による密室の協議で決まるといわれているが、実際は、与野党の折衝が衆議院の議会の場で与野党を巻き込み、税制改革の中心は国会の場で行われて、国民に示された形で行われている。たとえば消費税の引き上げは、細川・村山・橋本と政権交代をまたいで行われたが、法律の附則が規範となった。大きな税制改革は密室の協議で決められるものではなく与野党の協議で決まっている。

 日本における税制の理念とは「公平・中立・簡素」である。かつて「中立」か「効率」かという議論があったが、国民にとってわかりづらい。アメリカではレーガン政権においては「経済成長」であり、わかりやすい。ブッシュ政権では「簡素・公平・経済成長」であり、税制改革によっていかに税制が簡素・公平・経済成長に資するか分かり易くし滅してある。

 平成7年の税制改革においては、まず「減税ありき」であり、税制改革の概念が曖昧になってしまった。税制改革とは社会における負担を変える構造改革である。

 マスコミによる消費税の逆進性の誇張と安易な損得論の横行があった。多くの人にとって税制改革は負担が増え、損になるという議論が多数であった。

 wsmorinobu02財務省は当時の基本的なライフスタイルをモデルとして租税負担率を計算した。60歳からの消費税の負担率は、所得の減少により消費税負担が増えることにより微増する。つまり消費税の逆進性が認められるが、その増分は僅かである。個人所得税の負担率の増減は、扶養控除の変化によるものである。(減少(増加)は扶養家族の増加(減少))。65歳における定年によって、税負担は消費税のみになり「劇的な」変化となる。消費税はライフスタイルを通じて平準化されているが、65歳を分岐点とした負担の劇的な変化は、制度的に世代間でひずみが出る可能性がある。ではどうすればよいのか。消費税の増税や積み立て時に非課税の年金への課税、利子所得への課税などが考えられる。経済成長を勘案して増減税を考慮して計算すると、2つの世代のみが負担の微増であり、他の世代は負担の減少であった。しかしマスコミは、負担の部分ばかり強調し、貧しい人はどうするのだというプロパガンダに偏りがちである。

 アメリカは、消費税のもつ経済成長に与えるプラスの効果を考えている。日本では、逆進性の問題などが先行するが、それらの問題と経済へのインパクトの問題は別に議論されるべきであり、日本でもアメリカのような税制改革によるマクロ経済的な議論も日本においても行われるべきだ。

 消費税のもとでは貯蓄に課税されないので、貯蓄インセンティブを高める。間接金融が有利(借入金利子控除制度)であるという現在の税制の持つ問題を無くし、間接金融と直接金融を中立的にし、投資の促進効果もある。

 wsmorinobu03アメリカでは法人が「租税回避」を行っており、タックスシェルター(金融商品に代表される)を介し、税務上は利益は小さくみえるが、株主・従業員にとっては利益は小さく見える金融商品を売りつけたりしている。これはアメリカの企業会計と税務会計は別であることに起因している。日本においてその2つは比較的密接であり、実効税率と法律上の税率の乖離はあまり見られない。

これからの税制議論において、まず「あるべき税制」の議論があるべきだが、それと「政府の規模」に関する議論は峻別するべきだ。理念も「中立」といったあいまいなものではなくアメリカのように「経済成長」という明確かつ大胆な理念を掲げてもいいのではないか。なぜならば、経済の規模と税制のリンクは、これからの高齢化の進展する上で不可欠な要素であるからである。また、税制と社会保障の一体化は重要な課題といえる。

<質疑応答>

Q1 所得税の逆進性とは何か? 世間ではなぜ逆進的といわれるのか?

A1 世間では一時的な所得に対して逆進的と言われている。しかし、ライフサイクルで考えれば、所得と消費は等しく、逆進性はないともいえる。

Q2 平成7年の消費税率引き上げのせいで景気が悪くなったというイメージが世間に定着していると考えられるが、今後の税制改革においてこれをどのようにすべきか?

wsmorinobu04A2 その年の12月の新聞の一面に「国民負担9兆円増」と出たが、そのうち2兆は医療費の国民負担増であった。しかし、医療費はそれまで5〜6%増加してきたが、翌年の増加は1%台になった。すなわち、むだな医療費が減って、トータルの国民医療費は減った。このように、一時的な負担だけで考えるべきではなく、国民負担とは何かの見極めが必要。景気への悪影響は、消費税を上げる場合と上げない場合を比較するものではない。消費税と所得税のどちらをあげるかとの比較、又は財政赤字を放置した場合との比較といった広いレンジで議論すべき。

Q3 米の税制改革スローガンとして、経済効率を高めるとあるが、これはどういう意味か? タックス・シェルターを少なくすることによって経済効率が高まるのか?

A3 加速度償却は、タックス・シェルターではあるが、政策的に行っている面もある。それよりは配当に対する二重課税の問題である。付加価値税制度の下では、配当課税は1回になり、投資が加速される結果、所得税体系に比べて消費税体系のほうが経済効率が高まる。なお、タックス・シェルターの問題はむしろ公平性の問題である。

Q4 レーガン政権とブッシュ政権は経済成長を掲げていたため、税制改革は減税型であった。しかしこれからのわが国では増税が必要となるのではないか?

A4 あるべき税制の姿をまず議論すべきである。そして、これとは別に政府の借金をどうやって負担するかという問題を順番に議論すべきである。