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公共経済政策ワークショップ

2006年5月31日

『農協改革』

奥原正明氏(農林水産省秘書課長)

1. 会社法制と協同組合法制

農協法を含めた協同組合法制と会社法制は、民間団体に法人格を付与するという点では共通であるが、いくつか異なる点がある。まず一つ目に挙げられるのは議決権についてであり、会社では一株式に対し一議決権付与されるが、農協では農家の規模に関わらず組合員一人に対し一票が付与される。二つ目は、農協は営利目的ではなく非営利団体であるという点である。組合員は出資配当を目的として組合に参加するのではなく、共同販売・共同購入等の農協が行う事業を利用することによるメリットを享受するために参加している。したがって、農協事業の利用者は基本的に組合員であるため、事業範囲もおのずから限定されることになる。一言でいえば、会社は資本結合体であるのに対し、農協は人的結合体である。

2. 農協の組織

農協組織は、末端である単位農協、それらを統合する県レベル、その上にある全国レベルという3つの段階から成り立っている。末端の単位農協は農産物販売、銀行業務、保険業務、組合員の意思集約という農協の事業全てを同じ組織で運営している。県レベルではそれらの事業ごとに連合会組織が存在しており、全国レベルはその県レベルの事業別連合会組織の全国組織となっている。

昭和30年代には12000ほどあった単位農協も現在では1000以下となったことで単位農協の規模が大きくなり、農協と組合員との距離が広がっている。

3. これまでの農協と行政の関係

戦後の食料不足時代には、食糧管理制度の下で行政が農協を集荷ルートとして活用し、農業者が生産した米を国が一定の価格で買い入れて、公平に分配していた。

昭和40年代後半からは次第に状況が変わり、食料不足から生産過剰の状態へと移行する。しかし食糧管理制度はしばらく続いていたため米価は毎年行政が決定していたが、この米価を抑制しようとする行政と米価引き上げを求める農協の間での対立が激しくなった。

平成7年に食糧管理制度が廃止となったあとでも、米の生産流通への市場原理の貫徹、国の関与の縮小を目指す行政の考え方と農協の考え方は必ずしも一致していない。

4. 住専問題とペイオフ

バブル経済の崩壊がもたらした金融システムの瓦解は農協にも影響を与えた。銀行の子会社である住専は、バブル崩壊による土地担保価値の減少によって不動産業者への融資がこげつき破綻するという事態が起きた。農協は住専が銀行の子会社であるということを信用して住専に対して巨額の融資を行っていたため、財務体力が弱っていた銀行本体と負担をめぐるトラブルが生じた。平成8年にこの問題は最終的に国費を投入して処理されたが、国会等からは農協に対してもこのような事態を二度と起こさぬよう農協改革が要請された。

平成14年のペイオフ解禁も農協改革に強く関わっている。ペイオフ解禁は消費者が健全性により金融機関を選ぶ時代が到来することを意味する。これまでの農協サイドの金融のやり方のままではペイオフに対処できないのではないかという危機感が農協改革を進める大きな契機となった。

5. 農協の何が問題か

まず、農協法を制定した昭和22年当時から農業をめぐる状況は大きく変化している。昭和22年当時は農地改革の直後で、小規模均質な農業者が大勢を占めていたが、現在は農家も階層分化し多様な農業者によって構成されるようになっている。また、戦後は食糧不足であったが現在では供給過剰となっており、生産すれば必ず販売できるという状況ではない。また、高度成長期が終わり農協の業務も必ず儲かるという時代は終わり、競争力のない事業分野は赤字になっている。

農協が時代の変化に十分対応できていない背景には、農協組織の肥大化・硬直化があると考えられる。その結果「組合員のための組織」というより「組織のための組織」という側面を強めている農協も各地にみられる。

農協に求められる役割は、何よりも農業者へのサービスであるが、これが十分機能しているとは言えず、農協の存在理由そのものが問われるに至っている。

6. 農協改革の基本方向

農協は民間組織であるため、基本的に自らが改革すべきものである。

ただ、金融については、預金という公共性から銀行・信金と同様に法的な強制力をもつことが可能であるため、これを農協全体の改革の契機として利用してきている。

平成13年には、14年からのペイオフに向けた対策としての法改正を行い、農林中金の指導の下で全国の農協組織の金融業務を一体的かつ健全に運営する仕組みを作った。金融能力の乏しい農協の信用事業を限定したりやめさせたりする農協組織全体としてのルールを作り、また、行政が徹底的に個別指導することで、ペイオフにも対処できるような体制を確立した。この法制度の整備の結果として、農林中金に対する格付け機関(ムーディーズ)の格付けも上昇した。

こうした金融の改革を契機に、同時並行で農協の事業・組織全体の改革を推進している。

7. 改革のポイント

改革を成功させるには、まず改革を図ろうとする組織全体に危機感を共有させることが重要である。そして内部の改革勢力と行政が連携を図り、改革しようとする人々がやりやすい環境をつくることも必要である。また、改革意思が長期的に持続するようにしていくことも大切である。

8. 今後の農協改革のポイント

農協は、農業者にとって意味あるサービスを提供しなければならない。そのためには自らが「農業者のための組織」であることを常に自覚しながら業務を執行し、肥大化した組織や旧来の経営方法を改めていかなければならない。

農産物の販売についていえば、これまでのように農家から農作物を預かって出荷するという、農協にとってリスクのない委託販売方式だけではなく、農協がリスクをとって販売することも考えていく必要がある。リスクがあれば、真剣に販路開拓の努力をすることになり、収益も増大する可能性が生じることになる。

9. 協同組合の将来

これらの農協の問題点と今後求められる姿というのは、協同組合一般の問題でもある。

協同組合は「非営利」であるから利益を出す必要はないという誤解(非営利とは、出資に応じて配当することを目的とする組織ではないというだけのことである)から脱却し、メンバーのメリットを最大にするように努力しなければならない。今回の抜本的な会社法改正も踏まえ、会社と協同組合の異同、協同組合法制の将来のあり方についても、よく検討していく必要がある。