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公共経済政策ワークショップ

2006年6月28日

『大阪・関西の今』

太田房江氏(大阪府知事)

1. 序

今日は地方税、交付税などの一般財源を活用して、地方が独自に創意工夫して行っている政策の例を話したい。

現在の日本は東京一極集中の時代だ。大阪は東京を望遠鏡で見ているが、東京は大阪や地方を見てもいない。大阪経済は大阪万博の開催された昭和45年をピークとしてずっと下がり続けてきた。しかし、これからの日本にとって重要なのは「多様性・ダイバーシティ」である。そういう社会を築き、それぞれの地域が持つポテンシャルを掘り起こすことが、これからの社会の発展にとって大事なことだと思う。地方分権改革が進められているが、それを第一に体現すべき役割を担っているのは、かつて東京とともに「二眼レフ」で高度成長を支えてきた大阪である。皆さんも東京の視点だけではなく、一度地方にどっぷり浸かって、地方の視点でどれだけの可能性・潜在力が秘められているか、それを最大限引き出すにはどうすれば良いか、考えてみてほしい。

2. 産業政策

大阪・関西経済は活力を取り戻している。日銀短観では、近畿は全国平均を上回る改善幅を示し(平成18年3月時点)、大阪の有効求人倍率は昨年7月以来、10ヶ月連続1倍を上回った(平成18年4月時点)。これを牽引したのはデジタル家電産業である。また大阪は産業構造の転換が遅れたと言われるが、近年の中国の好景気の波及効果で、かつての重厚長大型産業(現在では高度な素材型産業というべき)も大きく売り上げを伸ばしている。

大阪府は、創業の促進・オンリーワン企業の創出を目指して、一般財源も使って国とは異なる独自の税制・金融政策を実施してきた。ITを中心とした成長型産業に対する創業時の法人事業税の9割免除、中小企業向けの新たな金融商品の開発等である。これにより、法人設立登記件数は全国平均の4.5倍(平成16年)、中小企業向け融資額は5年前の4.6倍と大きく伸びている(平成12年度と平成17年度との比較)。

また、大阪の強みであるバイオ関連産業を伸ばすべく、産学連携による関西バイオクラスターの形成に力を入れている。府が、積極的に企業・研究機関を誘致し、バイオ情報ハイウェイで広域化する。このアイデアは民間から生まれたものである。

大阪のもう一つの強みはロボット産業である。ロボット産業は様々な技術を複合して成り立つ分野である。ロボットによるサッカー大会「ロボカップ」でチーム大阪は三連覇を達成。都市圏の自治体が地域産業政策に取り組めるようになったのは、国が平成14年に工場等制限法を、平成18年に工業再配置促進法を廃止したことも大きく影響している。それまでは「国土の均衡ある発展」というスローガンの下、企業誘致ができる自治体は限られていた。しかし現在は、知事のトップセールスや補助金の活用等により企業を誘致することができるようになり、新産業の創出、地域の雇用の維持、地域経済の発展を戦略的に考えられるようになった。府が整備した産業拠点の契約率は、平成12年の33%から平成18年には85%まで上昇している。

3. アジアの中の大阪をめざして

福岡県知事は経済産業省から転身して最初に知事になられた方である。福岡県ではアジアに目を向けた政策を行っている。アジアのパワーを呼び込むことが、地域発展へつながるという考え方が根本にある。現在、日本のアジアとの貿易量の4分の1を大阪・関西が担っている。これまでも大阪府が上海と提携しているように、友好提携というレベルの提携があった。しかしこれからはそうした提携を超えた投資や環境技術の支援を中国の自治体と行い、local to localのレベルで共生というものを目指していくべきだと考えている。自治体外交といった形で地域と地域が仲良くしていくことが大切であろう。

アジアとの交流・貢献・協働というのが今後の課題だが、そのゲートウェイになるのが関西空港であると考えている。自治体と経済界が7億円を拠出し、地域一丸となって、関西空港の集客、利用促進事業に積極的に取り組んでいる。今後人口減少時代に突入する上で、グローバリゼーションの中、日本がどうやって活力を維持していくかということを考えると、交流人口を増やすこと、すなわち行き交うヒト、モノ、カネを増やすことが大切だと思われる。アジア有数のハブ空港のあるシンガポールのリー元首相は、港のない地域は発展しないと以前述べていた。日本も成田、関空、中部国際空港で合計4本半しか滑走路がないのは残念なことである。観光については、コスト面だけでなく文化や歴史に配慮したルートの開発が必要だと考えている。関空連絡橋のワンコイン化や、国からお金をもらい行っている関空国際物流機能の競争力強化のための施策(社会実験の支援など)等、作ったものを最大限利用するという観点から事業を行なっている。東京を意識するのではなく、アジアの中の大阪を目指している。

4. 安全なまちづくり

その他、治安対策、特に子供をどうやって守るかについても一般財源を使って真剣に取り組んでいる。平成13年6月に池田小学校事件が発生し、平成17年2月に寝屋川市立中央小学校事件が発生した。国では予算をとり国会に通すため、どんなに早くても対策に1年はかかってしまい機動的には動けない。池田小学校の事件でショックを受け、その後どうやったら子供たちを守っていけるかを一晩寝ずに考えた。各小学校にインターホンを設置し、校門も閉めることにした。それでも寝屋川市立中央小学校事件は起きてしまった。やはり人の目で見守ることが大事だと考え、教育長とも議論して、各学校に警備員を配置した。このため、補正予算を1週間で議会を通してもらった。具体的な施策としては、「子どもの安全見まもり隊」活動の立ち上がり支援や、自治会等に対する青色回転灯の提供、「動く子ども110番」のステッカーを貼った車両の15万台を目標とした拡大を行っている。こうした施策の結果、治安は回復傾向を示している。ハコモノにかかる「投資的経費」と「安全なまちづくり事業費」の変化を比較すると、平成14年度を100とすると今年度は前者70.1、後者は125.9である。施策も選択と集中が大事である。

5. 行財政改革

大阪府では行財政改革にも真剣に取り組んでいる。一般行政部門職員数は平成7年度の約1万7千人から平成17年度は約1万4千人に減っている。またラスパイレス指数でみた給与水準も、国の水準を100とすると、平成10年度の105.2から平成17年度は97.9にまで下がっている。また、第3セクター等の不採算事業の整理や大学、病院等の独立行政法人化、PPP改革(Public Private Partnership)すなわち民間活力誘導型手法をつかった改革としてアウトソーシングや府民協働、パスポートセンター内の企業ポスターの掲示、チラシ設置といった広告事業を行なっている。こうした取組みを経て、平成8年から18年の間に1兆円の歳出削減・歳入増加効果があった。このように各地方自治体で一般財源を使い創意工夫をしている。

<質疑応答>

Q 大阪府として融資に力を入れているという話であったが、民間融資の圧迫(クラウディング・アウト)になる恐れはないか?

A 府が力を入れているのはrelationship banking。資金需要に対して、民間だけでは融資し切れない環境にあるので、府がリスクを一部負うことで、民間の融資意欲を補おうとしている。金融機関の意思決定を適切にするには、市場のシグナルを府が補完する必要があると考えている。

Q 大阪府では、新規企業の誘致に力を入れているというお話だったが、日本全体から見れば、単なる地域間の企業の取り合いに過ぎないのではないか?

A 府が企業を強引に引っ張ってくるというのではなく、企業にとっての立地コストの利点と府の利益とが引き合う形で実現しているものと考えている。ただし、府知事として、企業には府の熱意を買って来てもらえればとも思っている。

Q 新規企業のための税優遇を行っているという点に関して、一定産業だけへの優遇は税の中立性を害するのではないか?

A その原則は理解しているが、同時に日本にはITやベンチャー企業の立ち上がりの際にコストがかかるという特徴がある。この日本の市場の特徴に鑑みて、新規産業の優遇は妥当なものと考えている。

Q 関西、首都圏が貿易の利益を得る一方、貿易のない地域ではどう利益を確保するのか? これを含めて、地域再編のあり方をどう考えているか?

A 地域格差は現在、問題であるが、今後の産業の競争力を考える上では都市対都市でなく、都市圏、地方圏ごとの競争として捉えるべきと考えており、この点で道州制の議論には賛成である。地方圏ごとの競争に加え、基礎的自治体で福祉や教育などを担っていくべきではないか。

Q 関西において、大阪がリーダーシップを取るために府知事として心がけていることはあるか?

A 地域の中で、リーダーが地域のために議論し合うのは良いが、同時にどこかがリーダーシップを取ることも大事であり、それは大阪だと考えている。ただ、単に自分がリーダーだと言っているだけではダメで、タイミングが大事である。経済圏は県の区域を越えるので、経済界とも足並みを揃えていくことがリーダーシップにつながると考えている。