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公共経済政策ワークショップ

2006年10月5日

『三位一体改革はどうして進んだか』

岡本全勝氏 (内閣府大臣官房審議官)

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 今回は内閣府大臣官房審議官の岡本全勝氏に、三位一体改革について政治学的観点からお話をいただいた。氏は旧自治省出身で、省庁再編後の総務省で自治財政局交付税課長としてこの課題に関わってこられた。今回の講義はその経験を踏まえた、聞き応えのある内容だった。

 まず氏は、地方分権には3本の柱があるとする。それは事務の分権、財政の分権、規制の分権である。一つ目に関しては国と地方の役割を明確化すること、二つ目は地方団体が財源を国に依存しないようにすること、三つ目は国から地方に対する中央集権的な規制を緩和することである。

 三位一体改革は二つ目の財政の分権化にかかわるものであり、補助金改革、地方団体に対する税源移譲、交付税改革を同時に進めていくものである。国と地方の税源配分は約6対4であるが、一方歳出は4対6であり、その差は国から地方団体に対して補助金という使途の決められた形での財源などで与えられている。ここで補助金を廃止し、税源移譲という形ではじめから地方団体に財源を配分することで、財政的にも自立させようとする。

 2002年の骨太の方針では三位一体改革の方針が掲げられ、2003年には小泉首相(当時)の指示で4兆円の補助金廃止目標を決定した。2004年には1兆円の補助金が廃止されたが税源移譲は0.5兆円でしかなく、一方で2.9兆円も地方交付税などが削減された。これに対し、地方団体から大きな反発が起きた。ここで国は地方団体に対する税源移譲目標を3兆円とし、一方で補助金の削減内容は自治体に自ら考えさせる案を打ち出した。地方団体に補助金の削減を考えさせることは、小泉首相と麻生総務大臣(当時)の地方団体の反発をかわす意図であったが、これが改革を進めたポイントであったと氏は語る。その後の協議を経て、4.7兆円の補助金改革、3兆円の税源移譲、5.1兆円の交付税削減がなされた。

ws.okamoto02 しかしながら、この改革はうまくいかなかった部分もあると指摘する。地方団体が提案した補助金削減案は12%しか認められなかった。各省庁は補助金削減に抵抗し、権益確保のために補助制度は残し、補助率を引き下げた。中央官庁が三位一体改革の最も強い抵抗勢力であり、改革がうまく進まなかった主な原因であったと語る。

 一方で改革が進んだ理由としては、小泉首相を中心とする政治主導による方針決定と実行、地方の不満と団結、時代の閉塞感などが大きな原因であるとした。特に全国知事会に関しては、各都道府県が各々の意見を主張し補助金削減案についてもまとまらなかったが、最後は統一見解を出すという使命の下に団結したと語った。

 氏は、中央官庁の指示の下での地方団体への事務の配分と補助金の交付は、日本が近代国家になるうえで優秀なシステムであったとしながらも、その中央集権体制が時代の要請にあわなくなってきたことを指摘する。これらを踏まえ、三位一体改革とは官僚による中央集権体制に対する挑戦だったと位置づけた。これには二つの側面があり、ひとつは官に対し地方が主張して地方行政を自立的に行っていく段階に進みつつあること、もうひとつは国民を代表する政治家の主導によって政策を決定していく政治過程がうまれたことを意味すると語った。

ws.okamoto03*質問と回答

Q1:なぜ官僚は、補助金削減に反発するのか。

A1:自分たちの仕事と権限がなくなると考えているから。

地方団体の場合は行政分野間の人事異動・配置転換が存在するが、中央省庁の場合はない。仕事が無くなることは、職場が無くなることと考えられている。

 もうひとつは補助金を配分するという仕事がなくなると、官庁の権限が縮小すると考えられている。これまで省庁は法律の本数、職員の数、補助金の額といった「入力」で評価されており、クライアントである国民の生活の改善といった「出力」で評価してこなかった。これが減らされることは、担当職員、局、省の評価にとってマイナスと考えられている。これからは省庁も「入力」より「出力」で評価するべき。

Q2:総務省の地方自治分野は、分権化が進んでいった場合、仕事がなくなるのではないか。また、官僚が地方団体に移ることはないか。

A2:自治分野の事務範囲は少なくなっていくだろうが、国と地方をつなぐインターフェイスとしての役割はこれからも必要である。道州制が進んだ場合には、中央官庁の職員が各州政府に振り分けられ、州政府職員に配置転換されるだろう。

Q3:セクショナリズムを排除するためには、官僚を一括採用するシステムがよいのではないか。

A3:官僚にも緩やかな専門性が求められる。一括採用は合理的ではない。むしろトップレベルの各省庁の課長をそれぞれの出身官庁から籍ごと引き抜き、内閣に忠誠を誓う国家官僚として育成すべき。これらの選ばれた官僚を、行政全体の立場から判断が行える各省庁のトップとして位置づけていく。そのようなシステムができればよい。

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Q4:総務省は地方分権を進めるならば、各自治体の市民が豊かに生活できるようにもっとサポートするべきではないか。分権による団体間の能力格差に、どう対応するのか。

A4:どんな自治体も事務を問題なく行っており、能力はある。国は行政のミニマムの水準を設定しこれを地方団体に遵守させるところまでが仕事である。各地方団体によって、パフォーマンスの差は当然生じる。もしその自治体のパフォーマンスが悪いのなら、それはその首長を選んだ市民の責任である。それが地方自治である。

Q5:(近代国家を築く際に官僚が活躍してきたというコメントを受けて)
日本の官僚の役割は終わったのか。

A5:近代国家を築いていく上での官僚の役割が終わったという意味である。官僚の役割はなくならない。国家官僚は次々に起こる国内全体の問題や、世界との関係における日本の課題を解決していかなければならない。新しい問題は次々に起こる。これらをひろいあげ、解決する方策を考えるのは官僚の仕事である。