LKY-GraSPP Day 2011

Conference Report

藤井直幸

2011年2月21日に行われたLKY-GraSPP Dayにおいては、 田中均教授のゲストスピーチと4人のLKYの学生によるプレゼンテーションが行われ、 それぞれ活発な質疑応答がみられた。

まず、田中教授は、東アジアの国際関係について講義を行った。 教授が説明したICBMという武器は、intelligence、conviction、big picture、mightであり、 外交をするための4つの重要要素を示したものであった。 教授は、中国の台頭には、確かに軍事費の増大などの脅威があるが、 周りの国々が中国を地域のフレームワークに取り込むことで、 既存のルールを守らせていくことが重要である旨述べていた。

LKY側プレゼンテーションの一人目は、CherylというMTI(Ministry of Trade and Industry) in Singaporeに勤務されている方であった。 彼女は、開発における政府の役割や戦略のあり方についてのプレゼンテーションをした。 シンガポールにおいて、政府の役割とは、市場が基本的には機能することを前提に、 市場が失敗したときにのみ、サポートするというものである。 市場の失敗とは、一つにコーディネーション、いま一つに外部性の問題から発生することが指摘された。 シンガポール政府は、イデオロギー性がなく、プラグマティズムに基づき、 役に立つものは何でも採用するという姿勢である。

二人目は、ChewというMinistry of Education in Singaporeに勤務し、 実際に教師として働いている方であった。 まず、第一に彼は、シンガポールでは省庁間のつながりが強いことを指摘した。 例えばMTIが新しい貿易政策を打ち出せば、 教育を担当する省はそのための人材育成プログラムを作成するのである。 第二に、教師の研修制度が充実していることを指摘した。 彼のように、教師が現場を離れ、マスターをとる機会が用意されているのである。

三人目は、Michelleという方で、医療行政についてのプレゼンテーションであった。 彼女によれば、医療行政には、Quality、Access、Affordabilityという三つのトレードオフがある。 また、シンガポールにおける多層的な医療行政サービス(補助金、 ヘルスケア貯金メディ・シールド)についての説明がなされた。

四人目は、浅野さんという日本の経済産業省に勤務されている方であった。 彼からは、カンボジア、バングラデシュ、インドで行ったフィールドワークについて、 写真を交えた説明があった。 強調されていたのは、他国の農業に日本政府はもっと着目すべきで、 ODAを分配するべきだということであった。

プレゼンテーションのあと、前述の4人とフロアとのインタラクションがあった。 活発な議論がなされたが、いくつか印象に残る発言があった。 まず、一つは、シンガポールにとっての脅威はなにかという質問に対して、 Cherylが社会保障だと述べたことである。 彼女によれば、都市国家は経済発展の停滞によって崩壊したことはなく、 社会の不安定化によって崩壊するのである。 二つは、浅野さんが、このままでは日本の農業政策は中国に遅れをとってしまうという指摘に対して、 フロアの木越さんがライバルは中国ではなく、農林水産省だと述べたことである。 これには、日本の縦割り行政の難しさを知る、フロアの大部分から苦笑が漏れた。

パネルディスカッションの後は、イタリアンレストランに移動し、 レセプションパーティが行われた。 GraSPPの学生に比べると、LKYの学生は、勤務経験があり、バックグラウンドも多様で、 非常に勉強熱心であるとの印象を受けた。 食事をしながらも、日本の行政や、先ほどのプレゼンテーションについての質疑応答がなされていたのである。

今回のイベントは、GraSPPの学生にとっても大変良い刺激になった。 シンガポールの優れた産業、教育、医療行政を知り、 多くの学生は日本の将来に危機感を覚えたようである。 これからもLKYを含め、他校との交流イベントがあればいいと思う。(了)

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