第50回公共政策セミナー

「経済危機の中のオバマ外交」

パネリスト:
「経済危機とオバマのアジア外交」マイケル・マスタンドゥーノ(ダートマス大学教授)
「ドル体制は維持できるのか?」田所昌幸(慶應義塾大学教授)
「経済危機とオバマ政権の経済外交」飯田敬輔(東京大学教授)

司会/コメンテーター:久保文明(東京大学教授)

日 時 :7月29日(水) 15時30分〜17時30分
場 所 :東京大学本郷キャンパス 法学部4号館 8F 会議室
主 催 :東京大学大学院法学政治学研究科
協 力 :財団法人渋沢栄一記念財団
(第2回ヘボン=渋沢記念講座シンポジウム)

写真左より、マスタンドゥーノ教授、飯田敬輔教授、田所昌幸教授、久保文明教授

写真左より、マスタンドゥーノ教授、飯田敬輔教授、田所昌幸教授、久保文明教授

概要

7月29日、大学院法学政治学研究科主催、公共政策大学院共催の『第2回ヘボン=渋沢記念講座シンポジウム:経済危機の中のオバマ外交』が開催されました。昨年に引き続き財団法人渋沢栄一記念財団のご支援により開かれたこのシンポジウムは、司会に本学の久保文明教授、パネリストに米国ダートマス大学のマイケル・マスタンドゥーノ教授、慶応義塾大学の田所昌幸教授、本学の飯田敬輔教授をお迎えして、経済危機とオバマ政権の対応、その国際政治経済への含意について活発な意見交換がなされました。会場には財団の理事長である渋沢雅英氏をはじめ多くの参加者が訪れ、この問題への関心の高さがうかがえました。

マスタンドゥーノ教授は主にオバマ大統領が置かれている状況に着目して、新政権が抱える問題、特に東アジアに対する今後の外交の展開に関する予測を述べられました。オバマ政権はブッシュ外交を否定する形で誕生し、外交交渉重視、多国間主義にそれぞれ外交の軸足をシフトしている。しかし、現政権は、アフガニスタンで大きな政治的困難をかかえる可能性があり、また未曽有の経済危機の中にかかわらず政権は多くの野心的な国内政治のアジェンダを通そうとしているという意味でまるでジョンソン政権が60年代後半に直面していた状況に似ていると教授は指摘されました。その上での財政支出は、ドル通貨を基軸にする国際金融システムからの資金調達に依存せざるをえず、可能性としてはやはりジョンソンから続くニクソン政権が直面したドル危機に入る可能性もある。アメリカの東アジア政策は当面は多国間を重視するポーズをみせつつも、2国間関係を重視し、現状を維持する方向で進むが、中国と日本の間でバランスを取るようにするだろうと分析されていました。

田所教授は、今回の経済危機の政治的な含意を、大きな歴史的な文脈にのせつつ、主に米中関係から今後の展望について話されました。まず、各種の経済統計をもとに、今回の危機が緩やかな経済力のバランスのシフトをもたらす可能性があること、そしてアメリカ政府の対応の特質は積極的な財政出動にあることを振り返り、その上で米国を中心にした国際通貨体制の仕組みがどれぐらい動揺を受けるのかという問題設定をされました。教授はそのカギはやはり米中関係にあるとのべ、米中関係はこの体制に不満はあるが、これを維持するインセンティブを両方持っているという意味で金融の相互確証破壊のようなシステムの中にあると述べられました。中国はいまのところドルを基軸にした体制に挑戦する意思はもっていないようにみえるが、米中関係の戦略的な複雑さも含めて、今後の対応を考えていかざるをえないと指摘されました。

飯田教授は、経済危機とブッシュ政権、オバマ政権の対応を振り返り、おもにその継続性を強調されました。今回の経済危機に対する直後のブッシュ政権の対応は、減税、失業対策、財政出動、不良債権回収、金融規制の強化、オバマ政権はそれを大規模に拡大したが、政策の中身はブッシュ政権とそれほど変わっていない。また、外交面では、オバマ政権は財政出動の国際収支への影響、米国債を積極的に売るなどの行動をG20などの多国間の枠組みを重視していく解決していくのではないかとの認識をのべられました。

講演後は質疑応答が活発になされました。議論は日英同時通訳を挟みながら行われ、シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。

関連項目