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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

伊藤隆敏教授のご逝去に際して:川口院長よりメッセージ 2025年09月26日(金)

院長メッセージ

本学名誉教授である伊藤隆敏先生がご逝去されたとの知らせを受け、東京大学公共政策大学院の教職員、教えを受けた修了生一同、深い悲しみに暮れております。ご家族の皆様には心よりお悔やみ申し上げます。

伊藤先生は2002年から2014年にかけて、本学の教授を務められ、そのうち2004年からは公共政策大学院の教授としてご活躍されました。更に2012年から2014年にかけては同大学院の院長を務められました。伊藤先生は2004年の公共政策大学院の設立にも深く関わられ、ご自身の国際的経験とネットワークを生かして、特に公共政策大学院の国際化に対して格段の貢献をなされました。現在、公共政策大学院はGlobal Public Policy Networkに加盟し、世界のトップレベルの公共政策大学院と深い関係を持ち、学生の交換留学やダブルディグリープログラムを推進していますが、これらの関係を伊藤先生のご貢献なくして作り上げることは極めて難しかったものと思います。さらに狭隘なスペースに悩んでいた公共政策大学院が現在の国際学術総合研究棟に入居するきっかけを作ってくださったのも伊藤先生だと伺っています。

 伊藤先生は本学の入試が中止になった1969年に一橋大学に入学され、大学院に進学したのちに、ハーバード大学に留学されPh.D.の学位を取得されます(余談ではありますが、私自身は1969年の東大入試の中止を題材に労働経済学の論文を執筆したことがあり、伊藤先生からは個人的な経験に基づく詳細なコメントをいただきました)。その後、ミネソタ大学で助教授の職に就かれ、不均衡の分析で世界的な業績を上げられます。その後、研究分野を国際金融の分野に移していかれますが、ここでも国際的に高い水準の成果をあげられます。その後は母校の一橋大学で助教授を経て教授となると同時に、IMF調査局や財務省の副財務官を務められるなど、経済学の知見を活かして政策担当者としても活躍されます。また、日本の金融政策についても活発な発言を続け、インフレ目標の導入など、日本の金融政策に影響を与えたといえます。さらに2011年の東日本大震災が日本を襲うと、経済学者の有志を募って提言を発表されるなど、経済学の知見を現実の政策の改善に生かし、人々の生活水準の向上に務めようとする姿勢が極めて明確な方でした。東京経済研究センターや日本経済学会といった学術団体の運営にも積極的に参加をされ、地道に汗をかいて寄付金を集めたり、内部のルール整備をされたりといった形で運営に貢献されました。このことを私たち後輩は彼が残した多くの基金、制度やルールから間接的に知ることになります。このように、ハイレベルなことから日常業務に至ることまでを力を抜かずに的確に取り組んで来られたことが、伊藤先生が周囲の人々から深く信頼され愛された理由ではないかと思います。また様々な側面で実務的な手腕を発揮される一方で、次世代の研究者とともに学術論文を執筆し続けられたことも、伊藤先生の並外れた才能を示すものであったと思います。最近でも、財務省を通じて学術利用ができるようになった通関データを用いて、貿易決済通貨の決定を極めて解像度の高いデータを用いながら明らかにしておられました。

 古巣の公共政策大学院にもしばしば訪れてくださり、ホームカミングデーにもニューヨークからオンライン参加してくださり、伊藤先生から直接の教えを受けた修了生が感激するといったこともありました。また、現在、東京大学創立150周年記念事業の一環として公共政策大学院の20年の歴史を振り返る本を編集しているところですが、伊藤先生には強い励ましをいただくことができました。御執筆いただく予定だった公共政策大学院の国際化に関する原稿を受け取る前にご逝去されたことが大変に残念です。さらに夏にご帰国の折にはご連絡をいただき、ランチをご一緒しながら公共政策大学院の運営についてご意見をいただいたことなどもありました。私にとっては、2024年の夏に医学部高層階のイタリアンレストランでランチをご一緒し、瑞宝中綬章のお祝いを申し上げたのが最後にお目にかかる機会となってしまいました。その際には、公共政策大学院における授業の質の管理に関することから国際卓越大学の話まで、様々なアドバイスをいただくことができました。伊藤先生は細かなマネジメントから国際経済までを、経済学のレンズを通じて地続きにご覧になっていらっしゃったのではないかと思われ、どのようなレベルの話をしているときにも知的刺激を与えてくださる素晴らしいエコノミストでした。この後、伊藤先生にお目にかかる機会がないかと思うと心より残念です。

 公共政策大学院の教職員及び修了生一同、伊藤先生のご逝去に深い哀悼の意を表するとともに、伊藤先生が私たちに遺してくださった知的遺産と公共政策大学院への深い愛情に、心から感謝の気持ちを捧げます。

 伊藤先生のご冥福を、深くお祈り申し上げます。 

2025926

東京大学公共政策大学院

院長 川口大司