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インタビューINTERVIEWS

公共のために「中から変える」──学園紛争世代の原点と政策現場の鍛錬

インタビュー概要

本インタビューでは、数ある進路の中から経済産業省(当時・通商産業省)を選ばれた経緯と、入省後の3年間にわたる濃密なご経験についてお話しいただきました。
学生時代に育まれた「公のために働く」という志が、まずは、入省から数年間に関わった消費者行政、情報化推進、そして石油危機対応という現場でどのように形となっていったのかを振り返ります。

学生時代──「公」への志と「権力」への問いが原点に

──なぜ「公のために働く」という志は、学生時代に芽生えたのでしょうか。
京都大学法学部教授であった父の影響は大きかったといえます。家庭では政策や法制審議会の話題が日常的に交わされ、法律とは単なる理論ではなく、「社会の紛争を処理し、誘導するための道具」であると教えられました。一方、ベトナム反戦運動や学園紛争が盛んな時代でもあり、「公共の利益のために働きたい」という思いと、「国家権力は暴走しうる」という警戒心が同時に芽生えました。また、「外から批判するのではなく、中に入って変えよう」という思いは、この時期に形づくられました。

消費経済課──「目の前の困りごと」を制度に昇華させる

──若き日の政策現場で、何を学び、何を成し遂げたのでしょうか。
入省2年目、消費者問題が噴出する消費経済課に配属されました。高額商品の強引な販売や解約トラブルに直面し、行政指導による個別対応だけでなく、制度そのもののを設計する機会に出会いました。訪問販売や割賦販売に対するクーリングオフ制度の導入など、法改正を通じた仕組みづくりに奔走しました。審議会、国会対応、業界との調整、他省庁との折衝――限られた人数故に任される範囲も大きく濃密な日々の中、「目の前の困りごと」を「社会全体の制度」に昇華させる経験を重ねます。ここで得たのは、逃げずに公共の利益を“制度として形にする”という確かな手応えでした。

※筆者注:この消費経済課での経験は、本研究プロジェクトにおいて開講された科目「消費者政策の現代的展開」(2019~2025年)にも通じる問題意識として位置づけられています。

情報管理課──行政を合理化する「発想」と「マネジメント」

──行政をより合理的にするために、何ができると考えたのでしょうか。
次に携わったのは、省内コンピュータセンターの整備と運営でした。急速に進化する情報技術を、いかに科学的な行政につなげるかが課題でした。ここでは技術にふれるとともに、「組織をどう動かすか」が試されました。総括的な立場で100人規模の職員を束ね、役割分担や連絡体制を設計し、組織全体の生産性を高める。公共の利益を実現するには、政策だけでなく、それを支える行政組織の運営そのものを整える必要がある――情報技術と組織運営の学びは、その後のキャリアの基礎になっていきます。

臨時石油対策本部──国家を揺るがす危機の現場で「判断」し、「実行」する

──国家的危機のただ中で、どのように判断し、行動したのでしょうか。
石油危機という未曾有の事態の中、省内に急遽立ち上げられた臨時石油対策本部へ異動しました。十分な情報も前例も経験もない状況で、各業界の需給を把握し、使用量の目安を示す「業種別節約基準」を考案し取りまとめの責任者になってしまいました。混乱の中相談できる人もなく、実績の過大申告や政治的圧力が交錯する中で、現実的かつ実行可能な判断を下すことが求められました。
危機対応は、完全な答えが見えない中で決断する連続です。政策は国内だけで完結せず、国際情勢や政治判断とも密接に結びついています。ここで学んだのは、常に全体像を把握する重要性、Priorityをつけるということ、たいていのことは何とかなるということでした。そして、公共の利益の追求とは、現場で責任を全知全霊を傾けて果たす覚悟そのものでした。

  • 林良造先生

(企画・取材・構成・執筆=殿木久美子、東京大学リサーチ・アドミニストレーター)