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国際シンポジウム2024年度 「不確実性を高めるエネルギー安全保障と地球温暖化をめぐる国際情勢」
日時 | 2024年9月17日(火) 13:00~17:00 (受付開始 12:30) |
形態 | ハイブリッド開催 |
参加費 | 無料(要事前申込み。定員に達した場合受付を終了します) |
言語 | 日本語・英語(同時通訳あり) |
主催 | 東京大学公共政策大学院(GraSPP) |
共催 | (一財)日本エネルギー経済研究所(IEEJ) |
問い合わせ先 | contact-ieej(at-mark)tky.ieej.or.jp |
申込締切 | 9月13日(金)正午(定員に達した場合は、これより前に締め切ります) |
開催趣旨
中東情勢、ロシア・ウクライナ情勢等、地政学的リスクの増大により、国際エネルギー情勢の不確実性が高まっている。この結果、パリ協定以降、温暖化防止に大きく軸足を置いてきた各国のエネルギー政策においてエネルギー安全保障が最重要課題として再浮上している。他方、1.5℃安定化、2050年カーボンニュートラル目標から逆算したありうべきエネルギー転換の絵姿と現実とのギャップが拡大している。野心的なエネルギー転換はエネルギーコストの上昇を招き、政治・経済・社会的な持続可能性を難しくする可能性がある。加えて欧州議会選挙、米大統領選等がエネルギー、温暖化をめぐる国際環境にも及ぼす影響も不透明である。脱炭素化という大きな流れの中で、各国は自国の国情に応じ、エネルギー転換に伴うコストを最小化する形で「多様な道筋」を追求している状況にあり、日本でも第7次エネルギー基本計画の策定を巡る議論が開始された。本シンポジウムではエネルギー安全保障、1.5℃目標を中心とした脱炭素化をめぐる国際情勢を俯瞰し、日本のあるべきエネルギー戦略の方向性への示唆を得ることを目的とする。
プログラム(同時通訳付き)
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川口大司
東京大学公共政策大学院院長
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橘高公久
㈱INPEX特別参与 / ㈱INPEXソリューションズ専務取締役
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殿木久美子
東京大学リサーチ・アドミニストレーター
開催報告
2024年9月17日に、国際シンポジウム「不確実性を高めるエネルギー安全保障と地球温暖化をめぐる国際情勢」が、伊藤謝恩ホール(対面)とZoomウェビナーにてハイブリッド開催されました。
当日は、企業、行政関係者、教育・研究機関、メディア、学生をはじめとする300名を超える皆様のご参加をいただきました。
まず、本院川口大司院長及び株式会社INPEX特別参与/株式会社INPEXソリューションズ専務取締役の橘高公久様よりご挨拶をいただきました。


第1セッション 不確実性をます世界のエネルギー安全保障状況

エネルギー安全保障は依然として重要な課題であり、特にロシアのウクライナ侵攻後、世界的なエネルギー危機が顕在化していること、また、脱炭素化の進展も著しく、クリーンエネルギーへの投資が増加し、技術革新が進む一方で、石油やガスの使用量も増加していることが指摘されました。加えて、アメリカでは、インフレ抑制法がクリーンエネルギー推進の重要な施策となりつつも、今後の政権交代による影響への懸念が示されました。さらに、地政学的リスクとエネルギー移行の加速が今後の重要な課題であることを言及されました。

The Energy Security Scenario
[参考資料PDF (1.7MB)]
シェルのエネルギーシナリオ専門家でもある同氏からは、今後のエネルギー移行について「Sky 2050」と「Archipelagos」の2つのシナリオが紹介されました。「Sky 2050」では、2050年までにネットゼロを達成するため、太陽光や風力などのクリーンエネルギーを急速に導入する必要性が強調されている一方で、「Archipelagos」では、より緩やかな移行が想定され、また、化石燃料からの脱却と電動化の加速が今後の鍵となり、エネルギー安全保障と相互利益の視点が重要であると述べている旨紹介がありました。

分断深まる国際エネルギー市場と日本の立ち位置
[参考資料PDF (1.1MB)]
ウクライナ危機が国際エネルギー市場に与えた影響とアジアの課題についての解説があり、特に、中国や南アジアでのエネルギー供給不足や停電、石炭への回帰が問題視されていると指摘されました。また、脱炭素の推進が経済安全保障と産業競争力の基盤となることが強調され、技術革新やエネルギー資源の確保が不可欠であると述べられました。さらに、エネルギー転換が進んでもエネルギー安保の重要性は変わらないため、日本はエネルギー安全保障を重視した国際関係が重要である旨の指摘がありました。
パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、アメリカのシェール革命がエネルギー市場に与えた影響と今後の展望について議論がなされました。アメリカはLNGや石油の輸出でエネルギー安全保障に貢献していますが、今後は生産量のピークが近づく可能性が指摘されました。また、エネルギー安全保障には分散化・多様化が不可欠であり、グローバルなエネルギー市場の連携とバッファーが重要視されるとの指摘もありました。ヨーロッパでは、エネルギー転換に向けた高い目標が掲げられており、競争力とのバランスが課題であるとのお話もありました。日本については、再生可能エネルギーや原子力の活用が限界に達する中、LNGの安定供給が鍵となるとされ、政策的な介入の必要性が示されました。
その後、会場からは、石炭の脱炭素やシナリオプランニングをする上でのキードライバーとなるような要素、エネルギートランジションにおける大統領選の影響、理想と現実に乖離がある中でのCN目標への固執の是非等の質問がありました。
第2セッション 1.5℃目標の実現可能性

[参考資料PDF (629KB)]
有馬教授より昨年のCOP28で行われたグローバル・ストックテイクで盛り込まれた1.5℃目標を達成するための厳しい条件が示されました。例えば、2025年には世界全体で排出量のピークアウトを目指し、2030年には43%、2035年には60%の排出削減が求めらること、この目標を達成するためには、再生可能エネルギーの大規模な導入やエネルギー効率の向上が必要だが、資金面でも年間4兆ドル以上が必要とされている等、ハードルが極めて高いことが強調されました。また、エネルギー安全保障やクリティカルミネラルの供給問題も重要な課題との指摘がなされました。

世界はどこに向かうのか
[参考資料PDF (1.2MB)]
本部客員研究員より2030年までに世界全体でCO2を48%削減する必要があるとされているが、その実現は非常に困難であることを示されました。また、各国はエネルギー政策や再生可能エネルギーの導入を進めているものの、エネルギー需要の増加が排出削減の努力を上回っており、今後の世界の方向性として1.5℃目標を維持するのか、現実的な目標に再設定するのか、気候変動対策と適応のバランスを取るのか等のシナリオを提示されました。特に、中国やインドなどの排出量が増大しており、主要排出国と途上国の協力が求められていることが示唆されました。

Simple Math Complicated Politics
[参考資料PDF (925KB)]
Pielke 教授からはKaya恒等式(緩和政策を理解するためのツール)を用い、脱炭素化のためには「人口」「GDP」「エネルギーの効率」「エネルギーの炭素集約度」という4つの要素が重要であり、特に経済成長と排出削減の両立が難題であることが示されました。加えて、データによれば、パリ協定後も世界の脱炭素化の加速は見られず、GDP成長に伴う排出削減の遅れが課題となっていると言及されました。さらに、バイデン政権において政策的に風力・太陽光の導入が進められているが、シェールオイル、ガス生産はトランプ政権時を上回っており、政治よりも経済や地政学的要因の影響の方が大きいと結論付けられました。

Keeping Global Temperature to 1.5℃
[参考資料PDF (502KB)]
Bose 氏より、1.5℃目標の達成に向けた課題について、グローバルサウスの視点が提示されました。その中で、IPCCが掲げる43%削減目標について、公平性が考慮されていないことが指摘されるとともに、途上国にとっての負担が大きいこと、先進国と途上国の間で排出削減の責任が均衡を失していること、具体例として、途上国には再生可能エネルギーの導入や適応策の進展が求められているものの、資源や土地の制約が大きい現状を示されるとともに、こうした不均衡を是正し、気候変動対策を公正に進めることが重要である旨が指摘されました。
パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、2030年までに温室効果ガスを43%削減する目標をめぐり、先進国と途上国の視点から多角的な議論が展開されました。グローバルサウスの視点から1.5℃目標の達成に向け、先進国がより早期にカーボンニュートラルを実現するべきだとの指摘がありました。また、現実的な気候変動対策には、排出削減だけでなく、適応策や新たな資金フローの必要性が指摘され、途上国支援の重要性も議論されました。一方で、気候目標を達成するには、特に自国優先の政策が採られる可能性がある中、政治的意思が不可欠であるとの意見も示されました。終盤には、先進国と途上国の間で公平な負担分担を行う難しさや、グローバルサウスへの影響に焦点を当てた今後の気候政策の方向性について活発な意見交換が行われました。
これに対して、会場からは、排出削減に関する他の視点、IEAのシナリオで示される7つの技術(省エネ、行動変容、電化、水素、バイオエネルギー、再エネ、CCUS)の中で最も困難な技術の特定、各国の脱炭素のモメンタムやNDCの野心的な目標についての質問が寄せられ、パネリストがそれぞれの立場から回答しました。
ラップアップ: 不確実性の下で日本が目指すべきエネルギー戦略




本日の2つのセッションでのプレゼンテーションやパネルディスカッションを踏まえ、エネルギー政策の改定に向けた提言と現状認識が議論されました。小山先生からは、エネルギー安全保障と脱炭素の両立を図る重要性を指摘し、特に原子力発電の再活用や、変動型再エネの導入を前提とした電力システムの最適化が必要である旨指摘されるとともに、国際情勢の不確実性を踏まえた戦略的なプランBの検討を推奨されました。有馬先生からは、日本のエネルギーコストが高く、国際競争力への影響への懸念が示されることから、エネルギー温暖化戦略の策定にあたってアジア太平洋諸国とエネルギーコストを比較し、脱炭素化の進展とともにエネルギーコストの抑制が重要である旨述べられました。さらに、次期首相(注:当日は本年9月17日)には、岸田政権下で進められた原発再稼働や新増設の継続が求められるとともに、エネルギー政策の推進とその実行力の強化が期待されるとのまとめがありました。
(文責:殿木久美子)