GraSPP 東京大学公共政策大学院 - Graduate School of Public Policy THE UNIVERSITY OF TOKYO

INPEX CORPORATION

エネルギーセキュリティーと環境|株式会社INPEX寄付講座

Events & Outreach

ゲストスピーカーセミナー 「グローバルエネルギー市場に挑む INPEXの戦略と未来」

日時

2025年10月28日(火) 12:30-14:00

講師

上田 隆之 株式会社INPEX 代表取締役社長

場所

大和ハウス石橋信夫記念ホール(3階)

言語

日本語・英語

開催趣旨

日本はエネルギー資源に乏しく、その多くを海外からの輸入に依存しています。
エネルギー資源確保のため、日本企業および日本政府による様々な取り組みが求められております。
その問題意識の下、公共政策大学院では、INPEX株式会社 代表取締役社長 上田隆之氏から同社の取組についてお話を伺います。

開催報告

INPEXは、日本最大級の総合エネルギー企業として、国内外で石油・天然ガスの開発を行い、日本企業として初めて大規模LNGプロジェクトを主体的に操業する「イクシスLNGプロジェクト」を推進しています。さらに、風力、地熱、水素、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)等、クリーンエネルギーの開発にも積極的に取り組んでいます。INPEXは日本が直面するエネルギー面の課題の最前線に立つ企業であり、不確実性を増すグローバルエネルギー市場におけるINPEXの取組は、エネルギーと地球環境の未来を考える上で非常に重要です。

10月28日に、このINPEXを率いる上田隆之代表取締役社長から「グローバルエネルギー市場に挑む INPEXの戦略と未来」というテーマで、エネルギー業界の現状や今後の課題、そしてINPEXが目指す未来について、具体的な事例を交えながら分かりやすくお話しいただきました。

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世界で活躍する日本発のエネルギー企業

上田社長はまず、INPEXが事業の約9割を海外で展開している「グローバル企業」であることをご説明されました。社員の約4割が外国籍であり、多様な人材が世界各地で活躍しています。オーストラリアの「イクシスLNGプロジェクト」はその代表例で、日本のLNG需要の約14%をまかなう大規模なLNG開発事業として紹介されました。INPEXの技術力や運営力の高さを示す象徴的なプロジェクトです。

新しいエネルギーへの挑戦

従来の石油・天然ガスの開発に加え、INPEXが進める低炭素エネルギーへの取組が紹介されました。新潟県柏崎市で建設が進む「柏崎水素パーク」では、国産の天然ガスから水素・アンモニアを製造し、製造過程で発生した二酸化炭素を回収・貯留(CCS)します。本プロジェクトは、環境負荷の少ない「ブルー水素」や「ブルーアンモニア」の製造から利用までを一貫して実施する日本で初めての実証施設です。さらに、地熱発電や太陽光発電、蓄電池事業など、再生可能エネルギーにも積極的に取り組んでおり、従来の石油・天然ガス開発とクリーンエネルギー開発の「二刀流」を進めていると説明されました。

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「エネルギートリレンマ」を乗り越える ─ 未来に向けたVision

上田社長は、世界が直面している「エネルギートリレンマ」についても言及されました。これは、「安定供給(Security)」「経済性(Affordability)」「持続可能性(Sustainability)」という3つの要素のバランスを取る難しさを意味する言葉です。ウクライナ情勢以降、世界各国がエネルギー政策をより現実的な方向へと大きく転換しており、天然ガスは「移行期のエネルギー」ではなく、「長期的に使われるエネルギー」になるとの見方がエネルギー業界における共通認識となった点を示されました。INPEXは「Responsible Energy Transition(責任あるエネルギー転換)」を掲げ、こうした三要素の調和を図りながら、現実的かつ責任ある形でエネルギー転換の実現に貢献していくと強調されました。INPEXが掲げる中長期目標「Vision 2035」では、今後需要の増加が見込まれる天然ガス開発も含めた形で2035年までに事業規模を60%拡大し、同時に炭素強度を60%削減する「60/60ターゲット」の達成を目指しているとのことです。

社長としての役割と国際発信

最後に、上田社長は、CEOとして、現地視察を通じて国内外の従業員との対話重視していること、CERA WEEK(ヒューストン)(※1)やGastech(ミラノ)(※2)など、世界有数の国際会議において積極的に意見を発信していること、アルバニージ豪首相やアブダビ皇太子含めた事業展開先の政府・地域関係者らとの対話を通じて、関係の強化にも力を注いでいることが紹介されました。

(※1)米国のエネルギーコンサルティング会社S&P Globalが主催する、エネルギー業界の国際会議。
(※2)世界最大級の天然ガス・LNG(液化天然ガス)に関する国際会議

上田社長は、「多様な人材の力を結集し、現実的な視点で持続可能なエネルギー社会の実現に向けて貢献していきたい」と語り、講演を締めくくられました。
本講演後、参加者から次々と質問が寄せられ、予定時間を延長するほど活発な議論が交わされました。グローバルな視点でエネルギーの未来を考える貴重な機会となりました。

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※本ページの概要は、上田 隆之 株式会社INPEX 代表取締役社長のご講演内容をもとに筆者が要約したものです。
(文責:東京大学リサーチ・アドミニストレーター 殿木久美子)