2025年度研究テーマ 「トランプ政権誕生と世界のエネルギー温暖化政策動向」 第5回 G7/G8サミットの歴史とエネルギー温暖化問題
G7サミットとエネルギー・気候変動の50年 ― 石油危機から脱炭素まで ―
(有馬 純 特命参与・東京大学公共政策大学院 客員教授)
1.はじめに:世界が共有する課題
G7サミット(主要7か国首脳会議)は、1975年の第1回会合以来、世界経済、環境、安全保障などの国際的課題を話し合う場として続いてきました。1998年からロシアを加えG8に。「エネルギー」と「気候変動」は常に中心的なテーマでした。
G7の50年を振り返ると、次の流れが見えてきます。
2.1970〜80年代:石油危機とエネルギー安全保障
1973年の石油危機をきっかけに、G7各国は石油への依存を減らし、省エネや原子力・石炭の利用拡大を進めました。「どうすれば安定してエネルギーを確保できるか」が最大の関心事でした。


3.1990年代:「環境が主、エネルギーが従」の時代へ
冷戦終結後、世界の焦点は地球温暖化問題に移りました。
1992年のリオ地球サミットを契機に、省エネや再生可能エネルギーが「環境保護の文脈」で語られるようになります。
こうして、エネルギー政策が環境政策に従属する「環主エネ従」の時代が始まりました。

4.2000年代:新興国の台頭と国際協調の広がり
2000年代に入ると、中国・インドなどの新興国でCO₂排出が急増しました。
G7だけでは地球温暖化に対応できず、G20などの新しい枠組みへ議論が拡大。
この時期に京都議定書(1997)やパリ協定(2015)といった国際的な枠組みが生まれました。

5.2010年代:脱炭素とエネルギー安全保障の狭間で
G7は2050年カーボンニュートラルを掲げ、脱炭素社会の実現を目指しています。
他方、化石燃料を急にやめると、エネルギー供給の安定が損なわれるおそれがあります。
その中で、2017〜2020年は米国の方針転換やコロナ禍で、G7の脱炭素議論が停滞しました。

6.2020年代:G7の脱炭素サミット化とG20との乖離
2021年以降、米国と英国の主導で1.5℃目標や石炭火力廃止などが進展しましたが、新興国との立場の違いが際立ち、国際協調の難しさが浮き彫りになりました。
2022年からのロシア・ウクライナ戦争以降は、脱炭素とエネルギー安全保障の両立が大きな課題となっています。


7.重要鉱物とエネルギーのトリレンマ
再生可能エネルギーや電気自動車の普及には、リチウム・ニッケル・レアアースなどの重要鉱物が欠かせません。しかし、その多くを中国に依存しており、脱炭素・安全保障・経済安定の三立は難しい状況です。
G7は、2025年に「重要鉱物行動計画」を採択しました。
8.50年の教訓:理念と現実のバランス
持続可能な未来には、理念(脱炭素)と現実(安定供給)の両立が不可欠です。
G7の50年は、理想と現実の間で揺れ動くエネルギー政策の歴史です。
議論を重ねる中で見えてきたのは、『多様な道筋があっても、目指す目標はひとつ』という真実です。
世界のエネルギー消費、CO2 排出に占める G7のシェアは 30%、25%に低下しました。世界のエネルギー、温暖化問題を考えるには G7、BRICS、G20 の複層的な視点がますます重要になると考えてます。
有馬 純 特命参与(JOGMEC)講演資料「サミット50年とエネルギー・温暖化」
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本ページの内容は、JOGMEC特命参与 有馬純氏(東京大学公共政策大学院客員教授)のプレゼン資料に基づいています。
※本ページの概要は、有馬 純 特命参与(JOGMEC/東京大学公共政策大学院客員教授)のご講演内容をもとに筆者が要約したものです。
(文責:東京大学リサーチ・アドミニストレーター 殿木久美子)