2025年度研究テーマ 「トランプ政権誕生と世界のエネルギー温暖化政策動向」 第9回 米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直し
日 時:1月27日(火) 16時~18時
講演者:上野 貴弘 電力中央研究所社会経済研究所 上席研究員
米国第2次トランプ政権によるエネルギー・環境政策の劇的転換:発足1年の総括
2025年1月20日に発足した共和党の第2次トランプ政権は、民主党のバイデン政権が進めてきた脱炭素化中心のエネルギー・環境政策を根本から覆し、劇的な転換を図っています。今回の研究会では、政権発足からの1年間で起きた具体的な変化について、国内政策と対外政策の両面から概要が解説されました。その概要は、以下のとおりです。
「エネルギードミナンス」の追求と国内規制の撤回
トランプ政権は、石油や天然ガス、石炭といった国産エネルギー資源の開発を加速させ、世界的な影響力を強める「エネルギードミナンス(エネルギー支配)」を政策の主軸に据えています。
国内政策では、バイデン政権が既存法の権限を用いて策定した火力発電所や新車販売に対する温室効果ガス排出規制について、その撤回が進められています。さらに、規制の根拠となっていた「温室効果ガスの危険性認定」(※1)そのものの見直しや、企業の排出報告義務の全廃も提案されており、環境規制の前提を揺るがす動きが見られます。
また、バイデン政権の目玉政策であったインフレ抑制法(IRA)(※2)は、2025年7月に成立した「1つの大きく美しい法(OBBBA)」(※3)によって見直されました。これにより、電気自動車(EV)への減税措置が早期終了し、再生可能エネルギーへの支援も大幅に縮小された一方、原子力発電やCCUS(炭素の回収・利用・貯留)、クリーン燃料への支援は維持または拡大されています。
(※1)温室効果ガスの危険性認定(Endangerment Finding):2009年に米環境保護局(EPA)が、CO2やメタンなどの温室効果ガスが人の健康や福祉に悪影響を及ぼすと科学的に結論付けた規制の法的根拠
(※2)インフレ抑制法(IRA:Inflation Reduction Act):2022年8月に米国のバイデン政権が成立させた、気候変動対策とエネルギー安全保障に約3,900億ドル(約57兆円)を投じる歴史的な法律
(※3)OBBBA(One Big Beautiful Bill Act、「一つの大きく美しい法」):2025年7月にトランプ米政権下で成立した包括的な税制・歳出法。
国家エネルギー緊急事態と化石燃料の増産
トランプ大統領は就任初日に「国家エネルギー緊急事態」を宣言しました。これは、エネルギー生産の不足を経済や安全保障上の重大な脅威とみなし、大統領の緊急権限によって国産エネルギーの生産・輸送・発電を劇的に増加させることを目的としています。
具体的には、連邦公有地における石炭採掘のリース再開や、認可プロセスの効率化を通じた石油・天然ガスの増産が進められています。また、電力系統の信頼性確保を理由に、石炭火力発電所の閉鎖を阻止する緊急命令も発出されています。
国際枠組みからの離脱とエネルギー外交の展開
対外政策においても、従来の国際協調路線から大きく舵を切っています。トランプ大統領は就任日の大統領令でパリ協定からの再脱退を表明し、2026年1月27日に脱退が完了しました。さらに、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退も表明し、国際的な気候変動対策の枠組みから距離を置いています。
一方で、エネルギーを外交上の強力な交渉材料(ディール)として活用しています。バイデン政権が一時停止していた液化天然ガス(LNG)輸出の新規認可を再開し、EUや日本との二国間合意において、米国産エネルギーの大量購入の約束を取り付けています。
今後の展望と影響
こうした政策転換の結果、米国の温室効果ガス排出削減のペースは大幅に鈍化すると予測されています。バイデン政権が掲げた2030年の削減目標達成は極めて困難となり、2050年のネットゼロ排出という国際的な目標と、米国の現実との乖離が広がることは避けられない情勢です。
(注記)本講演終了後、2026年2月12日(現地時間)に温室効果ガスの危険性認定撤回の最終決定が公表され、同年2月27日(現地時間)には米国政府が国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退を国連に通告しました。
上野 貴弘 電力中央研究所社会経済研究所 上席研究員:
講演資料「米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直し」
(文責:東京大学リサーチ・アドミニストレーター 殿木久美子)