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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

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シンガポールで感じた多様性

Shogo Marukawa (from Japan)

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シンガポールに来て最も驚いたことは、人種、言語、宗教、さまざまな分野での多様性です。同居しているパキスタン人たちは、敬虔なイスラム教徒で一日に五回も体を清めて礼拝、ラマダンに入ると朝の5時から夜の7時まで飲まず食わず。つばを飲むことさえ嫌います。その他にも様々な人たちとの出会いの連続です。大学院に来ている学生の殆どは職業経験者で、東アジア、東南アジア各国は勿論のこと、パプアニューギニア、ブータンなどちょっと珍しい国からきている方もいます。

授業の中でも先生が喋るのはほんの少しの間。あとは学生の質問や意見の応酬で3時間という授業時間が過ぎていきます。授業は授業時間だけで終わるものではありません。Integrated Virtual Learning Environmentという、科目ごとに設置されたWEB総合掲示板のようなところで学生同士が意見を交換します。授業中、上手く言えなかったこともきちんと整理して書くことができるので、このような場を活用できることはとても助かります。(因みにここでのコメントが平常点に加算されたりするのです・・・)。

多様性が存在するがゆえに、国際問題への興味関心も非常に高いといえます。九月末のタイの政変の時には「その日」の午後にフォーラムが設けられました。タイの外交官やタイの研究者をパネルとして、多くの意見が飛び出します。なぜ今クーデターを起こさなければいけなかったのか、これがASEAN全体にどのような影響を及ぼすのか、これからのタイの展望・・・。その対応の速さに驚くばかりでした。十月上旬にはヘイズ(HAZE)という現象が起きました。インドネシアでの野焼きが原因で大気中に小さな塵が巻き起こり、それが国境を越えてシンガポールやマレーシアにやってくるのです。一日中、視界が悪くなり、健康にも被害を及ぼします。被害国の政府は毎年のようにインドネシア政府に抗議しているようですが、一向に改善される見込みが無いそうです。野焼きをしている材木業者や椰子プランテーションとインドネシア政府の利害関係、それによって被害を受ける国の利害のバランスはどうやったら取れるのか。閉め切った部屋から真っ白な外を眺めながら考えました。

学生生活最後の学期ということもあり、悠々自適にエンジョイしようかと当初は思っていましたが、それは幻想でした。こちらの学生は「遊ぶ」という言葉を知らないようです。金曜の夜でも図書館は一杯です。ラップトップの電源を争奪するのが日課です。彼らの必死に勉強している姿を見ていると、日本の将来に危機感を抱かずにはいられません。日本人としての意見を求められる機会も多く、そのたびにもっと勉強しなければと思い知らされる毎日です。

 

「留学にトライしてみよう!」ということになると、もちろんいろいろと準備をしなければなりませんが、これだけはやっておいたほうが良いだろうということがあります。それは「日本について良く知っておく」です。留学というと語学の面ばかりが強調されがちですが(あながち間違いだとはいえませんが)、語学にある程度自信があったとしても何を言っているか判らないものは判らないのです。特に最初の頃は授業の形式に慣れるのだけでも相当大変だと思います。しかし、生活をするうちに、どうにかこうにか環境に適合しようとするうちに、言葉の問題が占めるウェイトは小さくなってきます。

その一方で次第に日本人として何を皆に提供できるかが大事になってきます。リー・クァンユー公共政策大学院には東南アジア各国の公務員がひしめいており、日本の政策に対する関心度は、(中国インドのそれに押されつつあるものの)、なお高いと言えるでしょう。興味関心のある政策分野はもちろんのこと、もう少し広いところまである程度知っておくと、議論のときにその場に居る意味を発揮しやすいと思います。流暢にしゃべれればそれに越したことはありませんが、そうでなくても聞かれたことに対して真摯に答えようとする姿勢をまず身につけることが大事でしょう。

留学しようと思うと何もかも完璧でなければならないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。私もそのような人間の一人でしたが、留学生活は予想もしなかった経験の連続でした(例えば、ルームメイトと電気料金をどういう割合で折半するかというような些細なところから困ったりもしました)。どんなに準備をしたところで不具合はあると思います。その不具合を何とかしようという過程の中で身についていくことのほうがむしろ多いのです。

機会に恵まれて貴重な留学経験をさせて頂きましたが、これが将来にどのように役立つか考えてみました。実は、今すぐに役に立つかどうかと問われると自信を持って「はい」と答えることは難しいかもしれません。いまはまだ大変だったという記憶しかありません。大満足かと問われても「はい」とは答えられません。いま思えばああしておけば良かったということもたくさんあります。それでもなお、この留学は有意義でした。楽しいこともつらいことも全てひっくるめて自分の糧となりました。さらに、たくさんの友達が出来ました。東南アジアをはじめ、アメリカのコロンビアの友人やスイスの友人も出来ました。彼らと食事をしたり、バーに出かけてみたり、皆で握り寿司を作ってみたり、そんな経験の一つひとつがかけがえのない思い出です。

いろいろとやることもある大学院の貴重な時間を使っての留学は「賭け」と呼べなくもないですが、この「賭け」が無ければ得られなかったであろうことが本当にたくさんあります。全力で勉強にコミュニケーションに打ち込む覚悟をもって、必死で駆け抜ける時間が学生生活の中にあるというのはきっと素敵なことでしょう。留学してみたいという気持ちがあれば、とにかくトライしてみてはどうでしょう?

最後になりましたが、この留学を支えてくださった全ての方々に感謝の気持ちで一杯です。この経験を糧にして社会に羽ばたきたいと思います。本当に有難うございました。