事例研究(国際政治経済)

担当教員

樋渡 展洋

配当学期・曜日・時限

夏学期 月曜2限・木曜2限

内容・進め方・主要文献等

 この事例研究では、国際政治経済に関する政策分析の専門家として要求される、実証的政策ペーパーの執筆・完成に必要な予備知識や準備作業や調査や資料収集に伴う問題を体験、実践する。実証的な政策ペーパーを書く過程を(1)有意な問題設定、(2)先行研究サーベイ、(3)先行研究に基づく仮説とリサーチ・デザイン、(4)仮説に沿ったデータ・資料の収集、処理、整理、(5)ペーパーの執筆、とすると、この過程を各自またはグループが、お互いの助言や批判を受けながら体験することで、政策ペーパー執筆の技術を修得し、その効率を上げることをめざす。
 ところで、標準的な国際政治経済のペーパーの構成は(時系列的、記述的分析にせよ)普通、
国際経済政策・経済関係 = 政治的独立変数ベクトル + 経済的制御変数ベクトル
と表現できる。この場合、等式(モデル)の左辺は各自の問題意識に、右辺の各変数間の関係は先行研究に、そして各変数の有意度は事例の実証的検証に依拠せざるを得ない。これは検証が数量的であろうと記述的であろうと同じであるが、特に国際政治経済の場合、普通、政治的変数としては民主化の度合、民主化の類型、法制度化の度合などが考慮される。そこで、本事例研究では、以下の日程で
・週1   各自の暫定的テーマ申告と週2?5のリーディングス確定。
・週2?5 国際政治経済の先端実証分析の輪読/研究題目届(第5週)
・週6?9 モデル構築・検証に関する方法論の輪読/論文プロスペクタス提出(第9週)
・週10?  各自、各グループのデータ集、資料集、データ処理の進展報告
・夏休み中 ペーパーの執筆、完成
・9月半ば ペーパー(含むデータ集、資料集)提出と報告会(於、本郷キャンパス)
 つまり、目標とする政策ペーパーの実体を理解するため、まず、各自の問題関心と直接関連し、現在の国際政治経済の実証分析水準を担保している代表的論者の論文を数点読み、次いで、モデル構築・検証の留意点を説明した下記の教材を輪読する。この際、large-nの計量分析を念頭においたDesigning Social Inquiryを基本に、small-nの記述事例分析に有益なRethinking Social Inquiryの一部や関係論文も読む。平行して、各自、作業仮説とリサーチ・デザインを確定し、その後、毎週、順番にデータ・資料の収集、処理、整理について進展報告を行い、ペーパーを完成させる。このため、参加希望者は事前に、次の準備をしておく必要がある。即ち、国際政治経済のシラバスを<http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/~hiwatari/>からダウンロードし、そこから、または主要学術雑誌の最近の号の目次から、自分の問題関心に近い論文の見当をつけて、ダウロードして初回(週1)の会合に持参すること。これを踏まえ、最初の会合で前半の教材を相談・確定する。

 国際政治経済の受講は要件ではない。ペーパーも日本語または英語いずれでも良い。また、他演習のレポートやリサーチペーパー執筆の準備にこの事例研究を使うことは許容されるが、ペーパーのテーマは国際政治経済分野に限定される。

授業計画

詳しいシラバスは初回の授業で配布し、説明するが、全体の日程は以下の通り。

・週1  各自関心・暫定的なテーマを表明、関連するリサーチペーパー持参

暫定的テーマに関係する先行研究を国際政治経済のシラバス(<http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/~hiwatari/>からダウンロード)または主要雑誌の最近の目次を参照すること。主要雑誌としてはInternational Organization, World Politics, International Studies Quarterly, International Interaction, Journal of Conflict Resolutionなどがある。

・週2〜5 国際政治経済の先端実証分析の輪読

シラバスや主要雑誌に出てきて、現在の国際政治経済の研究水準を先導している研究者としてはMansfield-Milner(貿易)、Simmons(金融・投資)、Rodrick(開発)、Bernhard-Leblang(通貨)、Quinn(資本自由化)、 Jensen(投資)、Busch-Reinhardt(WTO)、Dreher-Vreeland (IMF)等がいる。

・週5   研究題目届

・ 週6〜9 モデル構築・検証に関する方法論の輪読

実証手法の方法論に関して、large-nを想定し、回帰分析を規準としたKing et al.の記述的・因果的推定の定式化を修得し、それを基礎に、small-nの記述分析、即ち、稀少事例や非変数事例、時系列記述の因果推定に適した方法をBrady-Collierを手掛かりに、やはり参加者の必要に合わせて、Ragin(分類比較)、Geortz- Brumoeller-Seawright(必要十分条件、 Boolean論理)、George-Bennett(事例内推移)、Cambell-Stanley(疑似実験)などに拠り敷衍・発展させる。

・ 週9   論文プロスペクタス提出

国際政治経済のペーパーの構造が以下のように要約できるとすると―

国際経済政策・経済関係 = 政治的独立変数ベクトル + 経済的制御変数ベクトル

 プロスペクタスでは、(1)具体的な従属変数・被説明概念はもとより、(2)それを説明する政治的独立変数ベクトル・政治的要因(それは往々にして民主制の度合、民主制の類型、法制度化の度合などであるが)、(3)それを説明する際に統制しなければならない経済的制御変数ベクトル・経済的背景要因、(4)先行研究に依拠した変数・要因間の関係に関する仮説、(5)各変数の値を確定するために引用・検討するデータや資料、(6)依拠先行研究の文献表などが明記されなければならない。

・週10〜  各自、各グループのデータ集、資料集、データ処理に関する進展報告

・ 夏休み中 ペーパーの執筆、完成

・ 9月半ば ペーパー(含むデータ集、資料集)提出と報告会(於、本郷キャンパス)

教材等

初回にシラバスを配布する。方法論の教材は以下の通りー
1. Gary King, Robert O. Keohane, and Sidney Verba, Designing Social Inquiry (Princeton U.P. 1994)
(『社会科学のリサーチ・デザイン』真渕勝監訳、勁草書房)
2. Henry E Brady and David Collier (eds.), Rethinking Social Inquiry (Rowman & Littlefield, 2004) 他

成績評価の方法

平常点と報告点、およびレポート評価点

関連項目