国境でメルトダウンする人権保障?-執行共助の刑事と税務

担当教員

石黒 一憲

単位数 / 使用言語 / 配当学期

2単位 / 日本語 / 冬学期

授業の目標・概要

一国内では担保されている人権保障が「国境」でメルトダウンするという不可思議な現象が、刑事法・租税法の分野で「国際的な執行共助」の名において、条約を通して制度化され、加速している。具体的には、日米・日EUの刑事共助条約、OECDモデル租税条約をベースとする日本が締結した二国間租税条約によって、である。
本演習では、「2009年3月13日」にG20やOECD等の政治的圧力に屈して、いわゆる「双方可罰性要件」(課税と刑事、そして情報交換と執行共助の双方につき、それがクリアされる場合にのみ自国内での強制措置が可能となるとの、スイスの従来の一貫した立場)を放棄したスイスが、従来米国との「IRS vs. UBS事件」等で直面していた問題を検討しつつ、なぜ日本が、米国(及びEU)の圧力に屈して、「双方可罰性要件」を、上記の刑事共助条約で相対化させねばならなかったのかを、更に検討する。後者の点は、現状でも国際捜査共助法上の「双方可罰性要件」が原則維持されている事との関係での、最近の関税法改正(内外税関当局間の情報交換と当該情報の刑事訴追用の使用)等と対比した上での検討となる。
こうした「国境でのメルトダウン現象」をこれまで先導してきたのは、実は、OECDモデル租税条約26条と、それについてのOECD租税委員会による『コメンタリー』である、と言える。あくまで被規制者(納税者、被疑者)の側に立ちつつ、一連の問題を一個の人間をしてどう捉えるべきかが、鋭く問われる内容の演習である。

授業のキーワード

OECDモデル租税条約,租税条約上の情報交換,IRS vs, UBS事件,双方可罰性要件,国際捜査共助法,税の徴収共助

授業計画

貿易と関税2011年3月号から2013年12月号までの、本演習と深くかかわる石黒の論文の骨子を、1、2回かけて説明し、問題の全体イメージを鮮明にしたのち、特に問題となる検討課題を、参加者の要望をも踏まえて決定する。その後は、参加者の個別報告を積み重ねてゆく。なお、正確な文献引用の仕方や、脚注の活用方法等、ペーパーの書き方の基本を訓練することも、本演習の重要な要素となる。

授業の方法

演習

成績評価方法

平常点及びペーパー提出による。

教科書

貿易と関税(日本関税協会)2011年3月号から2013年12月号までの石黒の連載論文をベースとするが、個別には指示する。

関連項目

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