ヨーロッパ統合と法1

担当教員

伊藤 洋一

単位数 / 使用言語 / 配当学期

2単位 / 日本語 / 夏学期

授業の目標・概要

ヨーロッパ諸国法の「ヨーロッパ法化」現象がとみに指摘されるようになってきている.その原因としてEU法の影響が最も重要であることは言うまでもないが,ヨーロッパ人権条約の影響をも無視することはできない.また,ヨーロッパ人権条約は,組織的には全く別個の存在であるにもかかわらず,EUにとっても重要な意義を持っており,両者の関係は,EU自体のヨーロッパ人権条約加盟が既に政治日程に上ってきていることにも示されるように,近年極めて複雑な様相を呈している.したがって,ヨーロッパ人権法の研究は,狭義のヨーロッパ法(EU法)研究にとっても,今や極めて重要な研究課題となっている.
例えば,EUにおける人の自由移動については,EU法の条約・立法・判例の適用があることは言うまでもないが,特に未成年の子を含む家族が移動する場合には,更にヨーロッパ人権条約による人権保障が問題となることも少なくない.しかし,人手不足が深刻な経済成長期と異なり,近年のような経済危機の時代には移民労働者や難民の受入は,加盟国における政治的にも社会的にも困難な問題を生じる.このような困難な時代にしわ寄せを受けるのは常に社会における弱者であり,特に問題となるのは移民の子供達である.また,ヨーロッパ統合の時代にあっても,出入国管理は,加盟国の主権が最も強力に現れる領域であり,「不法移民」,難民達は極めて法的に弱い立場に立たされる.
他方,EU加盟国は,全てヨーロッパ人権条約の加盟国でもあり,同人権条約による人権保障義務を負っている.また事案の性質上,これら事案で第一線に立つのは,国内裁判所であり,二つのヨーロッパ法および国内法が相互に絡み合うことになる.
今年度は,複数の法秩序が密接に絡み合う具体的事例である,法的に弱い立場にある移民の子供達のヨーロッパ人権条約による保護とその限界を扱うフランス語論文を講読する.

授業のキーワード

ヨーロッパ法,ヨーロッパ人権裁判所,移民,EU裁判所,国際人権法

European Law, European Court of Human Rights, Immigration, ECJ, International Human Rights Law

授業計画

本演習では,上記フランス語文献を,特に参加者の分担を事前に決めることなく,講読する予定.

授業の方法

演習.

成績評価方法

平常点による.

教科書

本演習では,下記の文献を講読する予定(但し,開講までに更に新しい適当な文献が現れた場合には変更の可能性あり).

Valette, Marie-Francoise, La vulnerabilite de l'enfant au gres des migrations, Rev. trim. dr. h. 2012, no 89, pp. 103-123.

履修上の注意

上記文献は,その内容上,ヨーロッパ法に関する一応の知識(法源,裁判制度等)を前提して書かれているので,できればヨーロッパ法の授業に出席するか,適当な概説書を予め読んだ上で,本演習に出席することが望ましい.
なお,フランス語文献読解の訓練も,本演習の重要な目的の一つである.本格的なヨーロッパ法研究には,英語だけでは到底十分とは言えないからである.フランス語を読む意欲のある者の参加を希望する.

関連項目

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