経済物理学
Econophysics

担当教員 / Instructors

和泉 潔/高安 秀樹/高安 美佐子/伊藤 隆敏/水田 孝信

配当学期 / 使用言語 / 単位数 / Term / Language / Credits

S1S2 / 日本語 / 2

授業の目標・概要 / Objectives

「経済物理学」の分野の概要を紹介するとともに、その応用例として、株式市場のデータ、外国為替市場のデータの利用した研究を紹介する。経済物理の特徴は、高頻度で観察されるデータの規則性、特徴を取り出すことにより、その市場の特性を物理学的アプローチ、経済学的アプローチにより分析することである。観察頻度は秒もしくは、それよりも細かい単位である。

授業のキーワード / Keywords

高頻度データ,べき分布,ビッド,アスク,指値注文,成り行き注文,高速トレード,アルゴリズミック・トレード,フラッシュ・クラッシュ,人工市場

High-frequency data, Pareto distribution, bid, ask, limit order, market order, high-speed trading, algorithmic trading, flash crash, artificial market

授業計画 / Schedule

*講義の順序は授業の開始までに予告なく変更になることがある。

1. 経済物理学とはなにか、イントロダクション (伊藤隆敏・山田健太)
経済物理学の発祥と発展、経済物理学の物理学的アプローチ、経済物理学の経済学的アプローチの紹介。

2. 外国為替市場への応用 I 為替市場の構造とEBSデータ(伊藤隆敏)
外国為替市場の構造(参加者、取引システム)の解説。取引システムのデータの解説。外国為替市場における変動性、取引量に関する24時間季節性。

3. 外国為替市場への応用II 機械 対 人間 (伊藤隆敏)
取引実行システム(コンピューター)に取引注文を出すコンピューターが直接接続することで、高速・高頻度トレードが可能になった。このマイクロ・ストラクチャーの変化による流動性、価格変動性への影響の研究を紹介する。

4. 外国為替市場への応用 III 裁定機会の出現と消滅 (伊藤隆敏・山田健太)
外国為替市場の取引システムでは、売指値が買指値を下回るというようなリスクなしの裁定利潤機会が出現することがある。さらに、三通貨を利用した裁定取引でも裁定利潤機会が発生することがある。このような市場の効率性に反する裁定利潤機会の発生頻度、発生から消滅までの継続時間が市場のマイクロ・ストラクチャーの変遷とともにどのように変わってきたかの研究を紹介する。

5. 金融ビッグデータと人工知能技術I 金融データマイニング(和泉潔)
本講義では、最新の人工知能技術を金融市場の分析に利用する事例を紹介する。経済ニュースや板情報等の大規模データを自動的に分析するデータマイニングで、どのような種類のデータをどのように処理し、金融市場の現場に適用しているかを解説する

6. 金融ビッグデータと人工知能技術II 人工市場入門(和泉潔)
人工市場とは、計算機上に人工的に作り出された架空の市場である。人工市場シミュレーションの基本的な考え方やモデル構築の要点を解説し、市場の急激な変動等の現象を分析した事例を紹介する。

7. 金融ビッグデータと人工知能技術III人工市場による市場制度の設計(水田孝信・和泉潔)
ティックサイズの設定や市場制度のテストを人工市場シミュレーションで事前評価した事例を紹介する。さらに市場現象にシミュレーション技術を用いる際の可能性と限界についても議論を行う。

8. ベキ分布とそのモデル(高安秀樹・高安美佐子)
ベキ分布が生じる仕組みとその特性に焦点を絞り、ランダム乗算過程や自己組織臨界現象などの数理を学ぶ。市場変動で特徴的に観測されるベキ分布に関して、平均値や標準偏差がサンプル依存する性質などのデータ解析上の留意点を確認する。また、聖ペテルスブルグのパラドックスなど、ベキ分布と関連した経済学的な応用事例を紹介する。

9. 金融市場データ解析(高安秀樹・高安美佐子)
定常性検定、連検定、変化点検出などの時系列解析の基盤的な視点から市場変動時系列データを解析し、市場の統計的性質が時々刻々変化する特性を持つことを確認する。分布関数や相関関数、拡散解析などにより単純なランダムウォークとは異なる市場変動の特徴を抽出した事例を紹介する。

10. 金融市場の数理モデルI(高安秀樹・高安美佐子)
ありのままの金融市場を記述するための数理モデルを学ぶ。市場参加者の立場からモデルを構成するディーラーモデル、市場提供者の立場からモデルを構成する板モデル、そして、市場価格変動のデータからモデルを構築する時系列モデルの3つの立場のモデルを紹介し、比較する。

11. 金融市場の数理モデルII(高安秀樹・高安美佐子)
市場変動の様々な特性を再現できるPUCKモデルに関して、時間を連続化した極限では物理学でコロイド粒子の運動を記述するランジュバン方程式と一致し、くりこみよるマクロスケールの極限ではマクロ経済学におけるインフレの方程式を導出し、また、価格変動の方向性の相関を無視した極限では金融工学におけるGARCHモデルと一致することを示す。

12. 企業ネットワークと口コミの数理(高安秀樹・高安美佐子)
金融市場以外の経済物理学の研究に関する話題を紹介する。国内約100万社の企業間の取引ネットワークの構造とその上でのお金の流れを記述する拡張重力型方程式、そして、ブログの書き込み記事解析による社会の関心事の変動に関するデータ解析と数理モデルを学ぶ。

13. まとめ、(高安秀樹・高安美佐子)
経済物理学の応用として構想されている市場変動観測所に関して述べる。時系列解析、ビッグデータ分析や数理モデルに基づくシミュレーションをリアルタイムで実施するシステムを構築することで、金融市場の異常な変動を早期に検出し、金融危機を未然に回避するための施策を探る。経済物理学の今後の展開について議論する。

授業の方法 / Teaching Methods

講義形式

成績評価方法 / Grading

授業参加態度とレポートによる

レポート。つぎの課題のうちひとつを選んで、A4(通常のマージン設定)、10枚をメドにリサーチ・レポートを作成のこと。
締め切り、未定
提出先:  izumi-sec@socsim.org

レポート課題は後日知らせる。

教科書 / Required Textbook

なし

参考書 / Reference Books

岩波講座、計算科学6、「計算と社会」第2章(高安美佐子著)、第3章(和泉潔著)
高安秀樹、高安美佐子著、エコノフィジックス−市場に潜む物理法則
    [日本経済新聞社(2001)]
高安秀樹著、経済物理学の発見[光文社新書(2004)]
その他、論文(授業開始時に指定)

関連項目 / Related Resources