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公共経済政策ワークショップ

2004年12月17日

京都議定書ー政治外交ゲームの裏側

澤 昭裕(先端科学技術研究センター教授、元経済産業省環境政策課長)

 

京都議定書の概要

京都議定書とは、温室効果ガス削減を目的として、1997年に京都で合意された条約のことである。温室効果ガスの排出量の削減目標について各国が合意し、1990年の数値を基準として、先進国全体で2008〜2012年の5ヶ年での目標数値を定めた。また、削減目標を達成するために、JI(共同実施)・CDM(クリーン開発メカニズム)・排出権取引などの京都メカニズム、さらに森林の吸収量の増大も排出の削減に算入するというシンクという考え方を導入した。なお、削減目標は先進国のみに課せられるもので、途上国は削減義務を負わない。

 

主要各国の削減率

多国間の利害関係が対立するなか、各国とも自国に有利な条件を勝ち取るべく、議論の過程において様々な方法でしたたかな外交を展開してきた。結果として、日本:−6% 米国:−7% EU:−8% ロシア:0% という削減率目標の数値設定がなされ、京都メカニズムなどの主要ルールが合意された(なお、その後アメリカは「途上国に義務がかかっていない、産業界への影響が大きい」などの理由から撤退した)。

wssawa2当初、日本の削減率は−2.5%が限界と考えられていたが、日本は京都会議の開催国として条約を取りまとめる責任があったこと、また外交・交渉能力においては先進各国と比較しても非常に未熟な状態にあったことなどから、結局は−6%という提案を飲まざるを得なかった。こうした合意に至るまでの経緯においては、NPOなど世論の影響も大きかったとされる。

 

世論の重要性

役人は、外交の場においても世論が重要なアクターであることを認識している。政策を有効に進めていくためには世論に訴えることが必要であり、世論の反対があると進まない。世論に無関心でいると信頼を失い、また、政策を確実に実行することで世論の信頼を得ることが必要であることを認識している。世論に訴える手段としては、テレビ、新聞記事、アナリストの発言などがあり、こうした場に対して影響力を養っていくことも役人にとって重要なことであるといえる。

 

京都議定書発効に向けての今後の進め方

国内的には、(1)京都メカニズムを活用して、目標達成が実現できるように努力していくこと、(2)世論・マスコミなどに対してライフスタイルの変更を積極的に訴えていくことが重要である。また国際的には、アメリカや中国、インドなどの途上国の参加も得て、地球温暖化対策に挑むべきである。

 

以下は後半で行われた質疑応答の一部である:

 

Q1:EUの交渉能力が高いとされるのはなぜか。

A1:EUの意見として出される前に、EU内部でも交渉が行われている。歴史と経験の積み重ねからきているところも大きいと考えられる。

sawa3Q2:日本が交渉能力を高めるためにはどうすればいいのか。

A2:国のほうからいうと、責任と権限を明確にする必要がある。例えば、一国対一国の経済に関する協議でも、外務省・経済産業省・農林水産省など、各省担当者がそれぞれ責任を負っているため、総合的な面からの駆け引きができない。また個人の面からみると、イマジネーション・文書作成能力などの能力を高めていくこと、中でもやはりネイティブに近い英語力を養うことが重要であろう。

Q3:メディアへの働きかけを行う上で、どういったやり方が有効だといえるか。

A3:異論を積極的に発信することである。