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公共経済政策ワークショップ

2005年6月22日

年金改革の行政・政治プロセス

宮島洋(早稲田大学教授、社会保障審議会年金部会長)

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今日の内容には三つのポイントがある。まず審議会というものをどう考えるのか。内閣と国会との関係が政策形成にどのような意味を持つのか。そして制度設計をする際に重要となったのはフィージビリティであったのかということである。

 

2000年の中央省庁等改革のなかで、審議会についても大きな改革があり集約が行われた。しかし部会のような形で実質的な数が維持されており、また統廃合の基準も分かりにくい。そもそもの改革の前提は、最終的政策決定を行うのは内閣の政治責任であって、審議会ではないということであったが、実際には審議会のほうが自ら決めるという認識を多くの委員がなお持ち続けている。また懇談会といった、更にインフォーマルな場所で基本方針が決まっていることもある。

 

厚生労働省の審議会において驚いたのは、審議会に参加する利害関係者の当事者意識である。有識者としてではなく自らの団体、例えば、経団連・連合・医師会などの利害を代表しているのである。よって組織決定を経てくる彼らが審議の過程で意見を修正するということはほとんどない。主務官庁が当事者を重視しているのは、経団連なら傘下の企業、連合なら労働組合への説得を期待しているからである。年金制度改革にしても経済界や労働組合は基礎年金の税方式化を望んでいるため、それ以外にもいろいろな方式が考えられるにも関わらず表立っては議論には登場しない。企業側が自らの積立方式の厚生年金基金を解散しつつあるためでもある。

 

憲法によれば、予算の編成と国会への提出は内閣の専権事項であるが、実際には予算編成の過程から与党が大きく関与している。議院内閣制では与党が予算を否決することは内閣不信任と同じであり、行政過程と政治過程はほとんど一体化している。このことは政策が行政的にも政治的にもフィージブルでなければならないということを意味する。しかもそのフィージビリティの幅は学者・研究者にとって納得できないほど狭い。例えば第三号被保険者に関して研究者サイドでは別途負担を求める考え方が有力であったのに対して、組織代表委員の中には家族や夫婦の一体性とは何かと言い立てる人もおり、政治的なフィージビリティを得るのはまだ時間がかかりそうである。短時間労働者が自営業と同じような扱いを受けている問題も同様で、被用者年金の適用には、人件費節減を重視する経済界の断固たる反対がある。少子高齢化の進展や経済状況の低迷下では、給付水準を下げながらも、負担が増えるという形にならざるを得ず、それを如何に説明していけるかが問題になる。

 

wsmiyajima02ところで年金制度改革の実際の焦点は、制度設計ではなく国民年金の保険料の徴収問題であった。実は全員が年金に加入する皆年金制度を採用している国は、OECD加盟国で人口一億人以上では日本だけである。もう一カ国、1億人を超えるアメリカでは自営業者は皆年金ではない。ドイツ、フランスは多くの年金制度が分立していてその中で拠出金を用いてならす制度である。注意するべきことは、税金を納めなくてもよいひとはいても保険料は全員納めなくてはならないということである。国民年金の保険料徴収は従来、地方への機関委任事務であったが、地方分権化により社会保険庁が直接やることになった。このときに徴収率が劇的に、特に地方で落ちた。徴収ノウハウの引き継ぎが不十分であったためである。制度自体の問題というより徴収体制というレベルのフィージビリティが重要になる。制度があっても徴収事務の問題が解決できなければどうしようもない。この問題は、税源委譲される地方住民税にも当てはまる。国の申告を待って一年遅れで徴収することから分かるように地方には徴収能力が乏しい。徴収行政が問題である。

 

Q.1 徴収システムが最終的な問題になっているという話だったが、どういう方向でこの点を改善すべきなのか。

A.1 住民基本台帳が使えるのかどうかは大きな論点になっている。実際には歩留まり行政の世界でどこまで徴収努力を行うかはコスト・ベネフィットの問題である。ただ皆保険制度の下ではコスト・ベネフィットの考え方は受け入れられていない。申告所得税の徴収率80パーセントぐらいが指標になるが、それを達成するには、社会保険庁は公権力を発動する必要がある。

Q.2 年金と保険料水準についてうまく見せるために出生率や経済見通しなどはどうやって決めているか。

A.2 人口推計は超長期の政府公式予測を用いるが、人口変動は比較的ブレが小さい。経済推計はせいぜい数年で、長期的にはブレが大きい。ただ経済推計については、担当の内閣府と擦り合わせがあり、各省庁が同じものを使うということになっている。一番困るのは各省庁が都合のよいように異なる経済推計を使うことである。意外なことかも知れないが、経済財政諮問会議は積立金の取り崩し、つまり、純粋賦課方式に移れというような指針を出していた。これに応じた有限均衡方式が給付・負担推計においてある種のマジックになっていた。95年も後の出来事であることもある。

 

Q.3 補足率が低いことに対して経済界は税方式で解決できるといっているがどうか。

wsmiyajima03A.3 厚生労働省は財源方式の所管が変わることを嫌っている感がある。アメリカは社会保障税として集めているが、これは年金制度の発足時に、社会保険を連邦政府が行うことに違憲判決の恐れがでていたためである。今日まで財務省が税として徴収を行っている。

消費税は29.5%を地方交付税が占めており、またこれから税財源が必要なのは医療の分野である。現在、基礎年金、医療保険、介護保険の国庫負担分が消費税の使途とされているが、それらの国庫負担分を全て消費税で賄うならば、医療費を大幅に抑制した上で、なお12%程度の税率が必要とされている。また財政再建のことも考慮する必要があり、その場合は17%程度の税率が必要となる。よって公的年金の税方式化を導入するにはそれらのことをふまえた一体的な見直しが必要であり、税方式化論は楽観的すぎるきらいがある。

 

Q.4 社会保険庁への徴収事務のノウハウ委譲はどうだったか。

A.4 会計検査院によれば、自治体は個人情報保護のためとして加入者の電話番号を社会保険庁に引き継がなかったというようなケースがあったという。また自治体には保険料を集める自主組織もあったが、社会保険庁はその組織がフォーマルなものでないとして引き継がなかったという。