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公共経済政策ワークショップ

2006年5月17日

『PFIの現状と課題-PFIは何をもたらしたのか-』

野田由美子氏 (PwCアドバイザリー株式会社)

1. 講演概要

(1) PFIと他手法との比較
PFIは、良質の公共サービスをより少ない税金で提供することを目的とした公共事業の新しい手法である。主たる特徴は、公共部門(官)と民間部門の役割分担の見直しにある。従来型の直営公共事業では官がサービス供給の最終責任・サービス水準の設定、施設提供、サービス提供というすべての活動を行う。一方PFIでは、官が行うサービス供給の最終責任・サービス水準の設定の下で、民間事業者が施設提供からサービス提供までの一連のプロセスを遂行する。全てのプロセスを民間事業者に委ねる民営化、サービス提供のみを民間事業者に委ねる業務委託とも区別される。これらの手法を選択するに当たっては、どのようなデザインのもとで行うことが最適なのかを適切に考え、ふさわしい部分を民間に委ねるという視点が必要とされる。

(2) PFIとPPP(Public Private Partnership)
PPPとは、公共サービスの提供において何らかの形で民間が参画する手法を幅広く捉えた概念で、PFI手法の他に、部分民営化やアウトソーシング、指定管理者制度などの手法が含まれ、収益性の高低・公共セクターの関与の必要性の強弱という2つの軸で分類される。PFIは主として新規の施設整備や既存施設の修繕・改修など、資本投資が必要となる事業に対して主に用いられる手法である。PPPは投資の有無に関わらず幅広く官民が協同で事業を行う形態を総称したものである。

PFI導入以前にも英国等ではBOT(Build Operate Transfer)と呼ばれる、民間事業者が自らの資金で公共施設を建設し、運営して投資を回収した後に官に施設を返還する、という民活手法が活用されてきた。しかし、公共事業の多くは採算性が高くないので、こうした手法を適用できる事業は限られる。一方PFIは、独立採算では成立しない低採算または無収入の事業について、従来よりもできるだけ少ない税金で実施することを目指した手法であるため、汎用性が高いのが特徴である。

(3) PFIの目的
PFIの理念を最も適切に表す言葉は「Value For Money(バリューフォーマネー・VFM)」である。VFMとは、「納税者に対する『価値』」を表す概念で、PFIはVFMの最大化、すなわち納税者にとっての価値の最大化を目的とするものである。その目的のために、民間セクターの経営ノウハウ・リスク管理能力・技術力・運営ノウハウ・資金調達能力等を最大限活用して、公共事業の効率性を高め、公共サービスの質の向上を図ることが目指されている。コストの縮減はもちろんのこと、それのみならずサービスの質も同時に重視されているのが注目すべき点である。

(4) 日本と英国の民活について(官民の視点からの比較)
英国では、79年に登場したサッチャー首相のもと、「民にできるものはすべて民に」という考えのもと、国営企業・公営企業の大規模な民営化が実施された。また、経済的・政治的な理由で民営化が不適切と判断された事業についても効率性を高めるため、エージェンシー制、アウトソーシングの手法が急速に取り入れられた。こうした流れをうけ、92年にPFIが導入された。94年にユニバーサルテスティング(すべての公共事業は原則としてPFIの適用可能性を検討しなければならず、検討しない案件には予算がつかない)と呼ばれる施策が導入されたこと等がPFIの発展に寄与した。97年に発足したブレア政権のもとでは、それまでのPFIの課題の改善に加え、PPPという呼称を用いてPFIを発展させる試みを行っている。

日本では、主として80年代後半のバブル期に官主導の民活として第三セクター方式が多く採用されていたが、バブル崩壊後に多くの事業が破綻した。官民の責任分担が不明確で双方にモラルハザードが発生したこと等がその理由である。日本でPFIが導入されたのは99年にPFI推進法が成立した後である。PFI以外にも、独立行政法人、アウトソーシング、民営化が導入され、最近では市場化テスト、指定管理者制度も議論されている。課題として、これらの民活手法導入には、どの場合にどの手法が最適かという観点から効果をきちんと精査することが不可欠だが、公共側にそのノウハウがないことが多いことがある。この視点を欠くと、単に形式的なものに留まってしまうため、注意が必要である。

(5) PFIの基本原理
VFMを生み出すためにPFIが持つ要素として4点が挙げられる。なお、主として(i)・(ii)は良質なサービスの担保、(iii)・(iv)は最小の税金の実現を目的としている。

(i)性能発注
事業のライフサイクルを一括して民間事業者に委ね、ハードではなくサービスの内容や水準を指標として明示し、その達成手段については民間に自由に提案させるもの。これにより、要求されるサービス提供のためのソリューションの競争を促し、よりよいサービスの実現につなげることが目的とされる。

(ii)成果主義
公共側が契約期間中に要求通りのサービスが提供されているか否かを監視し、その業績に応じて対価として支払うべきサービス料を変化させる仕組み。民間事業者の自己責任を明確にすることで、民間事業者を規律付けてモラルハザードを回避することが目的とされている。

(iii)リスクの最適配分
あらかじめ想定されるリスクの種類・発生確率・経済的影響などを厳密に分析・把握したうえで、官民双方のリスク負担能力に応じて個々のリスクを最適に配分し、契約による担保のもと個々の主体が責任を持ってリスク管理を行う仕組み。

リスク配分に際して、民間にリスクを移転すればするほどVFMが上昇するわけではないことに留意が必要である。民間が管理できないリスク(例えば地震など災害に関するリスク)まで民間に委ねてしまうと、膨大なリスクプレミアムがサービス料として必要となり、それが公共の財政負担に跳ね返ることとなる。また、最悪の場合民間事業者の破綻によって事業が中断してサービスが供給されなくなるなど、結果的にVFMが低減してしまうおそれがある。したがって、官民双方の管理能力に応じた最適な形でのリスク分担が肝要である。

(iv)競争原理
公募・情報公開を徹底することで、民間事業者の募集および選定において競争を担保する。選定においては価格面のみではなくサービスの質なども総合的に評価される。したがって、民間は最も効果的かつ効率的な手法を提案すべく知恵・ノウハウを競い合うこととなり、その切磋琢磨がVFMを生み出すことにつながっていく。

(6) PFIにおける官民の役割分担
従来型公共事業においては、公共部門は事業計画策定・設計・建設・運営・維持というすべての段階で主体的に業務を実施し、民間事業者は各段階で個別に業務を受託するという主と従の関係だった。一方PFI事業では、公共部門が事業計画を立案するが、設計・建設・運営・維持という業務の執行については民間に一括して委ねられる。

公共部門の役割は、アウトカムの設定、アウトプットの規定、要求するアウトプットを最も効率的かつ確実に提供できる民間事業者の選定、民間事業者の業績を監視し業績に応じて支払、に大別される。

民間事業者の役割は「DBFO」という言葉で整理される。施設の設計(Design)、施設の建設(Build)、資金調達(Finance)、維持管理および運営(Operate)の頭文字をとったもので、事業をライフサイクルで一括して管理して最適化をはかることを意味したものである。

(7) PFI事業の基本スキーム
まず民間事業者は事業を実施する主体となるSPCを設立する。入札段階ではグループ(コンソーシアム)を形成し、中核となる代表企業を決めて参加する形をとっている。次に、SPCは、発注者である公共部門とPFI事業計画を締結し、事業に着手する。まずは施設の整備のために設計・建設会社などに業務を発注する。整備に必要な資金は金融機関などから調達し、設計・建設会社に支払う。施設が完成したらSPCは公共部門に対してサービスの提供を行うが、維持管理や運営業務等の個別業務については、それぞれの専門会社に委託される形となる。SPCが提供するサービスが要求水準通りのアウトプットであれば、公共部門から対価としてサービス料が支払われる。このサービス料から維持管理・運営会社への支払いを行い、次に金融機関に元利金を支払い、残りを出資者への配当に充当する。なお、こうした事業の組成にあたっては、公共と民間双方にアドバイザーがつき、財務・技術・法律面などについてのアドバイスを提供している。

(8) 日本におけるPFIの実績
99年7月にPFI推進法が成立し、初めは地方公共団体にて導入が進んだ。国レベルでも2002年から導入が始まり、05年では国・地方公共団体あわせて230件が実施された。事業分野は、庁舎、公務員宿舎、議員宿舎、自治体病院、大学、小学校、美術館、図書館、駐輪場、余熱利用施設、ゴミ処理施設、コンテナターミナルなど多岐にわたっている。

(9) 課題
PFIの導入が進みつつある状況ではあるが、PFIが実施されるのはハコモノ事業が主流であり、コア業務は引き続き公共セクターの業務である。コア業務も民間に委ねれば効率的かつ効果的に実施できる可能性を秘めているが、規制の壁、意識の壁(民間に任せることに対しての公共側の抵抗感)、ヒトの問題(雇用面など)、受け手の欠如、というように解決すべき点が多く存在している。提案評価のあり方についても、客観性と専門性を兼ね備えた評価者の不在、アウトプット評価の困難さ、会計法・地方自治法にもとづく入札制度の硬直性、が課題とされる。また、公共と民間のイコールフッティングの問題や、“サービスの購入”ではなく“施設の購入”に留まってしまっている側面があることも今後改善が望まれる。

(10) PFIがもたらしたもの
上述のような課題はありつつも、これらが実現されたことがPFIの功績であると考えられる。
・VFMの実現(約30%近いライフサイクルコストの削減)
・透明性と公正さ(オープンな競争、第三者の評価・公表、異業種間のコンソーシアム)
・利用者・顧客の視点(アウトプットベースの発注・業績管理・支払い方法)
・リスクマネジメント(リスクの最適配分プロセスを通じた事前リスク管理)
・公共セクターの役割・優位性の再認識(民間に対しての強みや、役割を果たすべき分野についての明確化)

2. 質疑応答

Q 貧しい自治体でもPFIは財源などの面で実施可能なのか?

A 貧しい自治体でもニーズが高ければモノを作る必要がある場合はある。そういう選択をした場合、PFIで民間に委ねれば安くできる可能性がある。一般に貧しいかどうかに関わらずPFIが最適な手法であればPFIを選択すべきである。初期に自らが建設コストを負担せずに済むので、貧しい自治体のほうがPFIを活用するインセンティブは高い。

Q 公共側はアドバイザーをどのように選定するのか?

A 公共側にはPFIアドバイザーにどのようなノウハウを求めるのかについての認識が曖昧であり、費用の安さや従来からのリレーションシップに基づいて選定することが多い。また、日系企業には、初めの入札時に安い金額で落札して後に随意契約の形で取り戻すという商売をするところもあるが、外資系であるPwCには難しい。なお、地元のコンサルが担当すると地元業者を主に採用するお手盛り型となり、PFIの本旨からずれてしまうというリスクも危惧される。

Q PFIに取り組む企業は収益をあげているのか?

A 公共事業ゆえの長期的安定性、大きなリスクはないことがPFIの特徴である。一般に、出資者にとってはリターンは高くない。出資者としてのリターンは低くても、事業(たとえば建設工事)でリターンがあがっていればいい、という考え方がとられている。いわば「低リスク・低リターン」である。ただし、公共側からの支払いは契約で固定化されるので、コストの見通し等に甘さがあれば、赤字が出ることはありうる。また、採算性よりも事業獲得が優先される事例も見られるので、そのような事例では後に問題が発生する可能性も否定できない。そもそもPFIは国民・住民に資するためのスキームであるため、民間事業者にとっては構造的に厳しいものである。その意味で、PFIによるwinnerは納税者(国民)、loserは経営能力に劣る民間事業者である。

Q 公共側・民間事業者側のアドバイザーは違うのか?

A 公共・民間事業者双方ともに自らが負担するリスクを低くしたいという利益相反が発生するので、完全に別々である。

Q PwCがPFIプロジェクトに取り組むチームの規模や期間はどのようなものか?

A プロジェクトにより大小さまざまである。例えば、大規模なプロジェクトでは4〜5人体制で半年以上取り組むものもあれば、小規模なものでは2人体制で進めることも多い。また、案件全体を統括・担当する立場の人間は長期間コミットするが、たとえばキャッシュフローの策定やリスク分析など専門分野を担当する人間は必要な時期にだけ関与するケースもある。