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公共経済政策ワークショップ

2006年5月24日

『ベンチャー融資と事業再生』

市江 正彦 (日本政策投資銀行経営戦略部長)

1. ベンチャー業務や再生事業を立ち上げるまでの経緯

日本政策投資銀行(DBJ)で、12年前にベンチャー業務の立ち上げ、6年前に事業再生業務の立ち上げに携わった。本日は、こうした新業務の立ち上げのプロセスとそれぞれの業務の内容についてお話ししたい。

新しいことを始める際には、事前の調査が重要である。DBJは政府系金融機関であるため、政策面での新業務の企画と計画立案後の執行が一体となっているのが特徴で、そこに企画中心の官庁と違った良さもある。まずは、こういう分野が重要になるのではないかというマクロトレンドを感知する情報収集アンテナが大切であるが、実際の新業務立ち上げにあたっては、業界、実態の十分な調査が極めて重要になる。潜在的需要があることが必要で、思い込みを排し、実際の事業、フィールドと接していくことが重要である。

次に、調査結果をプランに練り上げる際のキーパーソンが必要である。プロデューサーが企画をし、シナリオライターが調査の上実際のプランを策定し、ディレクターがそれを執行し、検証していく。各々がその役割を果たし、調査、企画、執行、検証を行う。また、事業再生を始める時は、国内外のキーパーソンをお呼びし数百名が参加するフォーラムを開催したが、このような広報活動を行い、広く世間の人に知ってもらうことも大切である。

金融というのは、情報産業であり、お金だけでなく、情報やネットワークを持ち、うまくプラットホームを作れるかがとても重要である。

2. ベンチャー投融資

(1)新規事業創出の必要性

まず、ベンチャー投融資についてであるが、90年代前半にこの取組を始める際に、欧米の多くのベンチャー企業、ベンチャーキャピタル、大学に話を聞いた。その際、新規事業の創出の促進には、資金だけでなく、基盤となる環境や制度など、起業家支援インフラが重要で、それが米国のベンチャー創出を支えていると実感した。事業の成功には、様々な専門家の支援など、事業遂行のノウハウを周囲から集めることが重要で、米国ではこれがうまくシステム化されている。このような支援は無作為に得られるものではなく、様々な支援要因をネットワークできる者の存在が重要である。米国では、エンゼル(個人投資家)や、ベンチャーキャピタル(VC)が、単なる資金供給者ではなく、企業に必要な要素を幅広く求め、アイデアを現実の事業に仕立て上げる役割を果たしている。

具体的に、起業家育成の諸要因を見ると、(1)起業家が生まれやすい社会的環境(起業家志向、人材の流動性と職能社会など)と、(2)事業シーズと実業への結びつけ、(3)実業化における幅広い起業家支援セクター(シーズ創出、資金供給、施設や教育の支援などの各セクター)が必要とされ、新規事業創出には、これらを、総体としてシステム化し、ネットワーク化することが重要である。

(2)「新規事業育成」→「新産業創出・活性化プログラム」の展開

こうして調査したことをベースに実際にベンチャー業務を開始することとし、平成7年に初めて専門部署を設置した。1年目は、新規事業部を作り、知的財産権担保融資を始めた。新しいことを始める会社は資産が少なく、担保がない場合が多いので、年間何十というリスク枠を作り、知的財産権を担保に取った。結果的に、事業のコアである知的財産権を担保に取ることで、この事業を成功させるしかないとのインセンティブをもたらすという効果もあった。

平成8年には融資だけでなく、投資を行うベンチャーキャピタル業務も開始。平成9年には産学連携・新規事業支援センターを設置した。以降、平成10年から12年にかけて、ワラント債引受や外部の有望な人材に投資案件の発掘や資金運営を行ってもらうファンド出資を開始した。平成16年には技術事業化センターを設置した。ここでは、ベンチャーの技術が、ただ技術があるだけでなく、それを事業化できて、お金になる素地があるかどうかという、主に中堅企業からの相談を受けている。

このような展開で12年間ほど、この世界の仕事をしている。結局、ベンチャー企業の何を見るかというと、第一にこの事業が伸びるか、この会社自体に素地があるかどうかを見ていくが、最後は人、というのが一番大きいというのが実感である。

3. 事業再生

(1)事業再生の経済的・政策的背景

なぜ、このような取組みを始めたのか。

第一に、金融面・産業面では、不良債権問題の早期解決による金融システムに対する信頼回復を図り、金融機関活動を再活性化させることが必要だった。他方、不良債権処理が自己目的化してしまうと、価値のある事業までもが消失してしまう可能性があり、清算すべき事業以外の価値ある事業を維持、発展させるシステムが必要となった。しかし、日本ではDIP融資、投資などの再生金融市場が不十分であったため、先導的な取組みにより、日本にも市場を創出しようと考えた。

第二に、始めるにあたっては、DBJ内部で蓄積されたノウハウが役立った。ベンチャー投資の経験から、LoanとInvestmentの相違、リスク・リターンの関係の認識などが蓄積されていた。また、Structured Finance(仕組み金融)の経験に伴い、様々なStake Holderを渾然一体と考えていた会社に関する概念を分け、経営責任・株主責任と事業・雇用の保全を分離する考え方が醸成されていた。新たな担保や資金管理の仕組みのノウハウも蓄積されていた。

第三に、民事再生法の制定など、制度的なインフラの整備が始まり、仕事がしやすい環境作りも始まったからである。

(2)DBJの事業再生・事業再構築のファイナンス

DBJの事業再生の取組みについては、融資と出資の2種類がある。

まず第一に、融資(DIPファイナンス)から説明する。DIPファイナンスとは、再建型倒産において事業を継続している債務者に対する新規融資の総称(広義)であり、2001年4月から開始した。会社が倒産した後、再建計画策定までに、企業が実態以上の信用を失い、仕入先、経営資源が離散すると、再建できる企業も頓挫してしまう。倒産直後の信用劣化の防止やリストラ資金需要に対応している。

第二に、出資(事業再生ファンド)について説明する。

2001年10月に再生事業へのリスクマネーの供給を始めた。また、専門家による事業再生(ターンアラウンドスペシャリスト)も始めた。個別企業毎の出資や、民間のPrivate Equity Fund(外部の専門家)の活用を行っている。DBJが事業再生に取組み始めて4、5年が経つ。取組みの内容については、企業と共に、公開している。

(3)事業再生の中でのDBJの役割

過剰債務企業では資産より負債の方が多くなっている。DBJは過剰債務企業の中で、続けられる事業があると判断すると、(1)弁護士や公認会計士などを活用し、再生計画策定サポートをして、資産を時価で見直し、資産に合うように負債を再構築する。倒産直後には前述の(2)DIPファイナンスをする。他に、(3)リファイナンス、(4)事業再生ファンドへの出資、以上の4点が主な役割である。

(4)事業再生のポイント

まず、考え方の原則は、清算すべき事業は清算し、価値ある事業を維持・最大化することである。しかし、それだけではうまくいかず、柔軟性が大事である。単独では無価値に見える事業も、他の事業との関係で価値がある場合もあるし、再生が速やかにできず、二段階の場合もある。

手順は、まず始めに、事業潜在力を評価する。大事なのは売り上げを増やすことにより、キャッシュフローを増やすことだが、一番難しい。人材や技術、ネットワークなどの無形経営資源がとても大事である。次に、事業戦略と経営陣次第で、実際の事業の価値は変化する。ここまでの手順でポテンシャルを高めた上で、最後に、財務再構築をする。悪い部分の切り出しや前向きの投資はお金がかかるので、余裕をもった計画と、資金は重要である。

早期に、一連の流れを見ながら手を打つこと、情報とネットワークが重要である。

(5)事業再生の今後の課題

第一に、財務戦略、コストカットだけでなく、収入増に貢献できるような投資会社が求められる。第二に、中央はだいぶ進んだが、地方はまだ残っており、情報開示が的確かつタイムリーに提供される慣行を作ることが大切である。第三に、再建専門家(ターンアラウンドスペシャリスト)の活用、第四に、不良債権には上がっていないが、再生予備軍の会社が多くあり、これをどのように再建できるかが今後の課題であり、早期の事業再生、事業モデル改革の着手やバックアップをしていきたいと考えている。

質疑応答

Q1 知り合いのベンチャー会社がDBJから融資を受けた際、担保がウェブサイトで、とても面白いと思った。ウェブサイトを担保にすることは、今後も広がっていくのか。

A1 ウェブサイトを担保にすることは色々出てくる。ウェブサイトに限らず、家などを保証にはしないが、ビジネスのベースのコアになるところをおさえている。

Q2 投資判断をする時に、民間の金融機関と違いが出てくるような、最も顕著な場面はどこか。

A2 投資の中で言うと、色々な投資ファンドがあるが、欧米のインベストメントバンクは、大きいものを扱い、リターンの高いもので収益を上げるという傾向がある。メガバンク系統は、リターンはあまり求めはしないが、自分の取引するところに投資するので、債権者としての回収か、投資でリターンを多く取るか迷いが出てくる。よって、銀行が作ったファンドは会社から独立して、役割分担をしている。DBJの違いは、資本が厚いので、比較的リスクを取れる立場にあるところだ。普通の銀行やファンドだと、色々制約があり、できないこともあるのに対して、自分の独特のポジションが出せるという点がある。半歩一歩先をやるというスタンスで、マーケットもだいぶ出来てきたので、プレイヤーも増えた。

Q3 海外のITのベンチャー企業の中で、あまり広告もせず、収益も上がっていないのに、高い値段で買われたり、VCから巨額の出資を得たりするケースがあり、会社ができて、どの位のレベルの企業に、いつどの位お金を出すのかという意思決定のポイントは何か疑問に思った。

A3 事業がある程度にいくまで、いきなり最初からVCがお金を出すことはあまりない。最初は比較的、自己資金とエンゼルで、業界をよく知っている人でビジネスをいいと判断してくれた人に会えれば、助けてくれることもある。順序があり、個人、エンゼル、次にVCに行くケースが多い。実績が上がっているのが一番分かりやすく、出資を得やすい。

Q4 事業再生について、財務再構築に成功したとしても、経営陣が同じ過ちを繰り返すこともある。お金を出すだけでなく、経営手法の伝授や、人を出すようなコンサルティングのようなサービスもしているのか。

A4 我々自身でできることはやっているが、リソースの限界もあるので、人を探してきてお願いすることもある。また、ターンアラウンド会社のように、会社の中に入ってもらってプランを作ったり、銀行と交渉するところまで、やってもらうケースもある。