第77回公共政策セミナー

パネル討論 泉田裕彦氏(新潟県知事)・田中伸男(公共政策大学院教授)

『原子力を考える――グローバルな視点と地域の視点

福島第一原子力発電所事故以来原子力を巡る議論はともすれば感情に流れた議論になりやすい。 原子力問題とは短期的には停止中の原子力発電所の再稼働問題、中長期には核燃料サイクルを含め日本がどのような原子力政策を持つべきかということだが、答えは簡単には出ない。 地域の安全確保、日本の防災制度の欠陥、情報開示と責任、合意形成への壁、原発の経済コスト、科学技術と許容されるべきリスク、エネルギー安全保障など様々な視点からタブーを排したオープンな議論が必要である。このたび、地域の視点から柏崎刈羽原発再稼働に関して強い意見を持つ新潟県知事、泉田裕彦氏を公共政策セミナーに招き、グローバルな視点を代表する前国際エネルギー機関事務局長で当大学院教授の田中伸男とパネル討論を行う。

日時2014年1月10日(金)12:00-13:30
場所東京大学本郷キャンパス 小柴ホール MAP
言語日本語

概要報告

田中伸男 公共政策大学院教授(以下 田):日露エネルギーフォーラムにロシア大使が来たが、日露ガスパイプラインに触れたので驚いた。ロシアの高官が初めて日露間のガスパイプラインに言及したからだ。日本が輸入する天然ガス価格はアメリカの5倍、ヨーロッパの3倍。ガスプロムを日本で発電事業に参入させたらどうか。

泉田裕彦 新潟県知事(以下 泉):大使のみならずロスネフチ(石油会社)、ガスプロムとも直接話している。中国は2ドルで買うと言い、ロシアは8ドルと主張している。日本は15~6ドルで買っており、シェール革命で12 ドルまで下がるとして、9ドルを提示するならwin-winとなる。日本プロジェクト産業協議会で、オールジャパンでできないか検討中。ガスプロムが日本に発電所を建てるアイデアについては規模如何による。送電線問題もある。国家収入の6~7割を資源で賄うロシアが、どう日本から収益をとるか、付加価値を高めるかということの中での話になるだろう。

田:ロシアは電力を売りたいというのもある。

澤昭裕21世紀政策研究所研究主幹(以下 澤):J-Powerへの英国資本参加問題以来、安全保障は議論されていない。ロシア・韓国の電線には自分は否定的。英の原発に中国資本が5%参加する点について、背に腹は代えられないというのが英側の言い分だった。まさに考えるべき時期に来ている。

田:世界の中でベストミックスを考えるべき。中長期の原子力はどうか。

泉:無資源国日本の前提が崩れようとしている。メタンハイドレートは200年分ある。新潟沖にもある。ウラン235は数十年で枯渇する。もんじゅが動けば5000年もつというが、ナトリウム冷却の問題があり、水に触れると火を噴く。したがって安全性には懐疑的。高レベル最終処分もある。全体像なしに直感でものは言えない。

田:IFR(一体型高速炉)はナトリウム冷却で安全に止まる。アメリカのアルゴンヌ国立研究所で実験済。金属燃料でタンク型で、ループ型ではない。パッシブ・セーフティは十分可能。今春公開される『パンドラの約束』という映画では、環境派が意見を変えている。小泉(元首相)、泉田両氏はこの映画を見てから語ってもらいたい。廃棄物管理は10万年ではなく300年になる。中間・地層処分でなくてもよいかもしれない。さらに核不拡散性は高い。火が怖いならサルに戻るかという文明論もあるが、技術をきっちり評価しないといけない。エネルギー制約から解放される道としての原子力は捨てるべきでない。

澤:原子力は当面必要。メタンハイドレートなどの前提が崩れるタイミングと電力安定供給のバランスが重要。その意味で20~30%が適正。原発が全停止でもなんとかいけている。リプレイス・新設に関し、人材再生産プロセスをどう考えるかというところに来ている。自由化で今後資金調達は厳しくなるので、原子力は反対せずとも終わる可能性が高い。他のエネルギーがどれくらいのタイミングで、どのくらいの安定性で見つかるか。もんじゅは制度的補完性があるので、ここだけを中止しにくい。しかし、他のピースはあってもよい。原子力一般、東電、柏崎刈羽は分けて議論すべき。

田:泉田さんが(東電)広瀬社長を苛めているという報道があるが、真相はどうか。何が問題で再稼働に反対なのか。どうすればよいのか。フィルター付ベントなのか。

泉:中長期については知見がないし、議論すべきタイミングでもない。再稼働も議論できるタイミングでない。ベストミックスはどうか、コストはどうなのか。安全レベルに関する共通理解がないと原子力のコストは定まらない。福島の徹底検証がないとこれはできない。スペースシャトルのチャレンジャー号爆発は徹底検証された。Oリングが直接の問題だが、それだけでなく、ハードと意思決定と組織の検証をした。技術だけでなく、全点検して、そして進むべきかどうか決定した。それが文明国のやり方。今の日本は、世界最高水準だからやるというが、福島の徹底検証なしに、何故最高水準と言えるか。融資の口約束は安全とは関係ない既成事実。

中越沖地震の頃は、東電はまだ地元の意見を聞いてくれた。この地震で柏崎刈羽原発のトランス火災事故があった。地震と原発災害が重なると動けず、緊急自動車が行くのに3時間かかった。この後、初めて消防車が配備された。原災法(原子力災害対策特別措置法)を消防庁と共管にすべしと主張したが無視された。消防庁から室長クラスを出向させるということで妥協した。火災事故時に、県庁・柏崎刈羽原発のホットラインが通じなかった。部屋が地震でゆがんで入れなかったからだ。このため東電本社経由で連絡をとった。結局、免震重要棟を作ってもらった。福島第一原発で完成したのは震災の8か月前。私があのとき譲歩していたら免震重要棟はなかった。東京に人が住めなくなったかもしれない。事故に学んで対策をとるという最低限のことをしてほしい。それは文明国ならば当然のはず。しかし、電事連(電気事業連合会)からの圧力がかかる。直接ではなく周囲に圧力がかかる。日経や産経は社説で嘘の報道をする。外国やBSのメディアは来るが、地上波からはインタビューに来ない。こうしたことが政策を捻じ曲げている。

田:日経、産経の嘘とは。

泉:フィルターベントで条件をつけた件。中越沖地震では配管部の基礎が沈下し、配管がずれ、トランスが火事になったので一体化した。当初、東電はフィルターベントを7メートル離れたところに設置するというので、一体型にしてくれと言った。他の原発では建物の中か、地下に一体に設置されている。東電はそれを無視して安全協定を破って申請したいと言ってきた。また、新規制基準では敷地境界の上限線量を外している。今の規制委員会は放出の基準を100テラベクレルとしているが、出るところだけ規制しており、住民の安全を守る基準になっていない。適合審査しかやらないということ。安全を守るのは政治判断と言われている。

欧州では原発にコアキャッチャーがついている。線香花火をバケツの上でやるように。メルトダウンが起きる前提で対応している。日本にはない。アメリカは、脇にバケツを用意している(州兵が資材を届ける体制をとっている)。コアキャッチャーは、日本がトルコに輸出する原発にも、中国のフランス製原発にもついている。自衛隊は実はやる気はあるが、核になかなか関われない。早いと2時間でメルトダウンしてしまうのに非常時対応ができない。

ちなみに、福島の事故は地震によるものでも、津波によるものでも、全電源喪失によるものでもなく、冷却材喪失事故だ。アメリカの原子力空母や潜水艦は、被弾して動かなくなった時は海に沈めて冷やす。海軍はアメリカ原子力規制委員会に人を多数送っていた。2003年にb5b規定を制定した。危急時にはとにかく冷やす。日本では、命を懸けて守る人がいないので、足の上で線香花火をしているようなものだ。事故が起こる確率は1万年に1回という話もあるが、460基あれば25年に一度。スリーマイル島、チェルノブイリ、福島を見ていると、確かにそうかもしれない。東電はメルトダウンを2か月も隠していた。敷地境界線量と人口密度の基準を外してアメリカからもってきた。技術だけでなく、人材、組織管理が必要。今までどおりの基準で「安全審査」と言って騙すなということだ。

田:確かに原子力は潜水艦技術が起源。海の中で使うには軽水炉ということだった。危急時には沈めればよい。陸の上ではリスクがある。IFRは地上で安全にという異なるパラダイム。だからIFRに行くべき。b5b導入を薦められた保安院は、日本ではテロはない、全電源喪失もないと言って断った。これは人災。規制当局のミス。非常事態にはアメリカの緊急事態管理庁のような対応が必要なのに、できていないのは確かに問題。しかし、福島第二、女川では事故にならなかった。東海第2(原子力)発電所は直前に防波壁の穴を塞いだ。人災の福島第一と違いはある。総括すべきというのはそのとおりだが、違いがある。

澤:原子力学会誌に泉田知事が書いていたが、技術、組織、人材、ガバナンスが欠けていた。原子力船むつのトラブルがセンシティビティを欠いた原点。東電は反省していて、他電力の考えが変わっていないほうが危険。安全基準は最低限で、改善は事業者によるというが、これまではお墨付きをもらうためにやっていて、慣れになっていた。東電の二度の報告書やベントの努力もある。原子炉規制法を変える主張をどうするかは論点だと思う。

田:原子力規制委員会の委員長は会ってくれなのか。

泉:相変わらずだ。質問は出してあるのに答えられないのか、会わないの一点張り。東電の検証というが、彼らは何もしていない。メルトダウンは、3月11日17時の時点で数時間と予測が出ている。8時間空焚きをした。こんなことは明白なのに、きちんと説明していない。東電には運転する資格がない。

田:官邸の問題もあるのではないか。

泉:東電は説明用にペレットを積み上げた絵を描いた。嘘。誰かが指示したのだろうが、そういう究明がなされていない。また、専門家がヨウ素を服用しているのに、一般市民にすでに配布したヨウ素剤を回収しようとした。数万人レベルだと副作用が出るからだ。薬事法の問題で副作用への補償対応ができない。自分は三条委員会とすることを主張してきた。規制委員会のミッションは「安全」に関すること。しかし、今の規制委は原子炉等規制法しか審査しないと言っている。事業者規制だけ。情報提供や、地域の議論への参加や説明もしない。断層班と設備班だけだが、健康影響等を考えずに規制など考えられない。現状では安全の確保をしてくれない。東電にしても自分の組織がなぜ間違ったかという総括がない。福島第一原発では、現場から原子力保安検査官が真っ先に撤退した。それは組織が認めたということ。その反省がない。

田:知事にも権限があるだろう。双葉町の病院で老人が置き去りにされて多数亡くなったが、そうならないよう病院立地を指導できたのではないか。

泉:行政は法律上の要件に合ったらやらないといけない。建築基準法に適合したら認めないといけない。また、県から市町村長の権限に下りているものもある。法体系がバラバラで統合的に避難等ができる仕組みになっていない。原災法は、災対法(災害対策基本法)と別立てになっている。避難指示は、災害では市町村長が出すが、原子力は官邸が出す。山古志村で全村避難を指示した経験があるが、単に避難せよということではなく、受け入れ先を確保し、そこに運ぶ。福島第一原発事故では5ヶ所、6ヶ所も転々としてきた人がいる。津波・地震で指示されて、その後、さらに原発事故で行くあてもなく追い出された。山古志村では、ボランティアや民間の支援の受け入れも避難初日からできた。法律が二重だと国家としてうまく避難ができない。民主党政権はリアリティを感じていたが、古屋大臣には言っても実感がないのだろう。受け止めてくれない。事務方にも原因がある。たぶん共管法にしたくないのだろう。自分たちだけでやりたいということ。しかし原子力は実際は複合災害だ。アメリカでは一元管理されている。

田:原子力がないことでも災害が起こる。イラン危機が発生すれば原油もガスも来なくなる。非常時には、逆に再稼働を早く進める必要がある。原子力を動かさないリスクも大きい。動かせという指示が来ても、それでも反対するか。

泉:リスクバランスだと思う。仮定の話はやっても仕方がない。

田:想定外を作らないのは重要なこと。

泉:北朝鮮は、H2は日本のミサイル実験、原発はプルトニウム製造所と言っている。ノドンは必中半径5キロなので当たらないかもしれないが、尖閣衝突では正確にミサイルが飛んでくる。

質疑応答

Q1:新潟県で再生エネルギー、自給自足をすべき。波力、風力、洋上、休耕田での太陽光など。

泉:商用太陽光発電は新潟県が最初だし、バイナリー地熱発電も松之山温泉で日本初。対馬暖流の活用ができないか、スマートコミュニティ構想とあわせて粟島で取り組んでいる。バイオマスは間伐材では限界があるが、10年で成長する木を全伐採すれば投資回収も可能。再生可能エネルギーを自給する。新潟県自体は夏ピーク時に300万キロワット。それ以上の電源を擁しているが、再生可能エネルギーでももっとステップアップしたい。

Q2:経済性、リスクが議論の中心だったが、倫理的観点はどうか。地域格差や、高レベルなど将来世代との格差がある。

田:日本全体の責任として考えるべき。

澤:ドイツではしっかり議論しているが、日本では感情論に終始している。議論してみたらよい。政治的重要性も議論していない。かつては原発はあるのが前提だった。50年代の日本では、核兵器は反対だが、平和利用は被爆国日本がむしろやるべきという論調だった。しかし、それが風化したのが福島で露呈した。

泉:地域合意ができるのかという話を省いてしまった。県内アンケートでは廃止8割。立地地域では5割。地元自治体の危機感は強い。再稼働反対決議をした自治体もある。福島の補償は減価償却後。責任をとった人が誰もいない。苦労するのは地元住民だけ。母親の関心はあくまでも子供の将来であり、その人たちに経常赤字といっても説得力がない。5ミリシーベルトになると18歳未満は立入禁止の管理区域となる。20ミリシーベルトでも戻すのか? 国は説明しない。政府への信頼は30%程度だろうか。電力会社への信頼は10%程度。最終処分場はというと、六ヶ所村は仮に預かるだけ、新潟に戻せという議論が起こるかもしれない。しかし電気を使ったのは都民。複雑な地域間対立が生じる。柏崎刈羽原発が最終処分場になるかもしれないという懸念が地元にはある。整合性のある政策を出さないといけない。

澤:マクロ経済に誰が責任を負うのか。国全体を考えるという立場も必要。知事は地域からの意見。他方、知事に再稼働の責任判断を押し付けてはいけない。

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