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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

中国のゼロコロナ政策の思わぬ終焉

By 金 貝   

新型コロナウィルス感染症に対する世界の対応が変わりつつある。中国でも、昨年12月8日より3年ほど維持されてきた厳格な感染症対策が一気に解禁された。経済復活への期待が膨らんだ一方、感染爆発の試練が待ち受けていた。

中国疾病予防コントロールセンターによると、昨年12月から今年1月上旬にかけて全国の感染者数および死亡者数(病院の報告に基づく)がピークを迎え、それぞれ1日あたり690万、4,200人を上回ったようである。把握されないケースも考えられることから、当時の深刻な実態が想像に難くない。それに加え、旧暦のお正月を控え、20億人以上の移動がさらなる感染爆発も懸念された。しかし、幸いなことに、感染率の上昇が確認されなかった。むしろ、各地は大勢の観光客が訪れ、賑わいを見せたのである。

しかしながら、今回の感染症政策の変更をめぐって、いくつかの疑問が解明されないまま残されている。例えば、なぜこのタイミングでゼロコロナ政策の全面解除が決定されたか。その1ヶ月前の出来事を踏まえて、仮に緩和せざるを得ないとしても、なぜ旧暦のお正月の前に全面解除に踏み込んだか。解禁後の感染率の上昇が見込まれる中で、未成年者や高齢者の重症化を避けるためにどのような準備がされていたか。さらには、ワクチンの接種率から一定の免疫を期待できたか、医療従事者や病床などの医療資源は感染ピークに対応できたか、感染者等が医薬品や医療サービスにアクセスできたかなど、多くの質問を抱える市民は少なくない。

さらに遡って考えると、オミクロン株の重症化率および致死率の低下が明らかになりつつあるにもかかわらず、なぜ従来の感染症対策を維持することにしたのだろうか。重症化率、致死率、医療資源の逼迫、医療的・心理的・経済的な二次被害、政策実施のコストなどをめぐって、ゼロコロナ政策と他の政策オプションはそれぞれいかなるパフォーマンスや潜在的問題が予測されていたのか。それらの問いに対するアカウンタビリティーと情報の透明性の不足は、市民の不満と不信を招きかねない。また、感染者数や死亡者数など感染の実態をなるべく正確に把握し、迅速に伝えることの重要性はいうまでもないが、それが市民の肌感覚からかけ離れる場合は修正を余儀なくされることも明らかになった。市民が合理的思考・判断するための情報が欠けると、問題発生時にその不満は政策決定者にとって深刻な挑戦となりうる。多角的な視点の不在も、柔軟な政策調整を阻む抑止力を強化する恐れがある。

今年1月中旬に、中国国家衛生健康委員会は今回の感染爆発のピークが過ぎたとの認識を示した。感染から回復した多くの人々にとって、それがもはや過去の出来事のように思えるかもしれない。しかし、大切な家族を失った人々の心に残された傷も忘れてはいけない。今回の教訓を活かし、今後の感染症対応の改善につながることを願ってやまない。