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東京大学公共政策大学院 | GraSPP / Graduate School of Public Policy | The university of Tokyo

新型コロナウィルスは日本の学校間の格差を越え未来のオンライン社会への橋渡しをする

By 鈴木 寛   

多くの人にとって、新型コロナウィルスが世界的に大流行した結果、時計が止まり日常の生活習慣も一時休止となったようだ。しかし、子供にとっては、教育面でも社会人への移行面でも、かけがえのない時期を過ごしているだけに、時計が止まったとか生活習慣が休止になったとかでは済まされない。コロナ流行により、学校と家庭を結ぶにはオンライン授業が必要であることが露呈し、同時に日本社会の格差も浮き彫りとなった。政府も、この問題に即座に気づき、小学生・中学生で必要な生徒には、コンピューターと高速無線ネットワークを使えるよう支援するという政策を加速させた。その結果、学校教育は進学準備を越える支援をする必要があるとの明確なメッセージをコロナ終息後の世界と未来へ向けて発信するところとなった。

論文「新型コロナ流行と日本の教育最前線―教育格差の原因と政府及び学校が取った対策」はタイトルの通り、日本の教育制度の歴史に加え、コロナ流行に伴う社会の動きを時系列で詳細に精査している。一方、政府は、感染拡大と学校閉鎖が進行中の2020年331日、児童生徒向けに1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワークを整備する趣旨のGIGAスクール構想を推進し、4ヶ年中期計画の終了する2021331日までに、パソコンあるいはタブレット端末を小中学生全員に提供するという計画を公表した。政府は、20204月、非常事態を宣言。これを受けて、日本の学校の大半は5月までの2か月間、一時閉鎖となった。非常事態宣言が解除されたのは525日だったが、多くの学校では授業時間の短縮措置が継続された。小・中・高等学校は概ね、2学期が開始する9月から、その終了する12月にかけて、正常な状態に復帰した。

一時的な学校閉鎖の結果、判明したのはオンライン教育を実施する能力という点で、学校間の格差が大きいという事実だった。大半の公立小中学校はオンライン授業の実施に至らず、また公立校と私立校との間の格差が大きかった。文部科学省の調査によると、オンライン授業の実施率は、閉鎖当初の5%から僅かに上昇し、小学校で8%、中学校で10%となった。これら実施率は、他の学校群の実施率とは対照的で、統合義務教育学校群では17%、高校では47%、統合中当教育学校群では70%だった。

論文では、学校間格差と日本の各学校群の歴史及び運営体制との関連を明示した。公立の小中学校は、主として地方自治体が管理し資金を提供している。これに対し、前期中等教育と後期中等教育を合わせた所謂「統合中等教育学校群」は、都道府県の資金により運営されることが多い。統合中等教育学校群は、潤沢な資金を得られるだけでなく、教育デジタル化など先駆的な計画を推進する点で私立校と競合する。さらに、小中学校レベルを統合した「統合義務教育学校群」は、既存の学校の併合によって設立されるケースが多く、校舎の改築やICT環境などで優遇措置を受ける可能性がある。

論文では、生徒の家族の社会経済的地位が及ぼす影響を重視している。統合中等教育学校群は、入試を行わない公立中学校とは異なり、選抜試験を行う必要がある。統合中等教育学校群や私立校には、社会経済的地位の高い家族の子弟が集まる。何故なら、これら家族はICT装置や高速ネットワークを使いこなしているからだ。したがって、統合中等教育学校群と統合義務教育学校群は、公立の小中学校の生徒にあるICTアクセス不十分という問題に対処する必要がないことになる。

また、都道府県間の格差が問題の要因であるとし、政府が地方自治体に対して、教育デジタル化支援のために支出した資金が、自治体ごとに同じように使われているわけではない。この主張は、オンライン授業に対する学生のアクセス率の格差に反映されている。アクセス率は、平均10.2%だったが、佐賀県では何と66.7%に達した。同県では、学生1人あたりのパソコン数も最多だったのだ。

前述のGIGAスクール構想は、政府がコロナ流行前に認めた学校間格差を埋めることを目的とした。構想は、コロナ危機に早急に対処すべく、政府の補助金を地方自治体に提供し、小中学生1人に1台のパソコンを割り当て、インターネットにアクセスできない家庭の子弟に対してモバイルWi-Fiルーターを貸し出すことを意図した。

文部科学省も、コロナ支援措置を追加設定し、これを迅速に実施し、経済的な困窮にあえぐ学生の支援、学習サポート、ICT装置と関連サービスの支払いに努めた。特に、コロナ影響に関する調査では、片親家庭の子供たちが不利な立場にあることが判明した。これらの子供たちのうち60.8%が経済的に苦しいと述べ、32%が高校退学を検討中としたのだ。

論文では、迅速な政策対応に加えて、コロナ流行に伴い社会の教育取り組みが変化したことに注目する。日本の学校教育は、教育者が不慣れなデジタルシステムを嫌い忌避することが多い。例えば、中学校教師のうちICTを頻繁に使用する者は、2018年時点で18%に過ぎなかった。この実施率は、一時学校閉鎖中に36%、再開後に58.9%まで上昇している。教師の多様化に加えICT環境の改善により、個々の生徒に対して、きめの細かい指導が可能になると主張し、これは1クラス当たりの生徒数が多い日本では非常に重要なポイントになる。さらに、親が子供とのコミュニケーションに費やす時間が増えれば、家庭における生徒の学習にも好影響を与えると指摘する。

日本の学校教育体制すら改善の余地がある。コロナ流行を契機として、教師は、生徒が仲間との相互支援を通じて精神的成長を遂げるよう導くのは、学校の重要な責務であるとの認識を深めた。次のステップは、学校と教育行政間の協力の形態、規模、方法の再考であり、人気ある通信性高校の成功は、実践的な現場経験とオンライン教育を融合させるという革新的なアイデアによるものである。全国カリキュラムガイドラインが最近改定されたが、その中でも積極的で探究型の学習が推奨されている。文部科学省は、ガイドラインの目標として、教育政策を形式的な平等主義から公正な個人学習へ転換することを掲げている。

ガイドラインは、新たなネットワークにより学校間を結び活力を強めることを想定している。オンライン授業を利用すれば、少子化の影響が強い遠隔地の高校でも、地域を越えた学校ネットワークに加わることができるようになるから、多様な学習プログラムを提供しながら学生数と教師数を確保できれば、都市部の高校に匹敵する教育を行うことができる。

コロナ危機の結果、学校間のオンライン授業の格差と脆弱性が露呈したことを受けて、政府は、ICT装置を普及させ、あらゆる経歴の学生がアクセスできるような政策措置を加速させた。多大な時間をかけて教育体制の及ぼす影響と学校間ネットワーク改革の可能性の究明を行う間に、教育の進化は止まることがないし、それは、学生が将来に向けて成長する機会を確保する唯一の道である。

(原文:英語)

鈴木 寛

鈴木 寛

東京大学・慶應義塾大学教授。1986年東京大学法学部卒業後、通商産業省に入省。慶應義塾大学SFC助教授を経て2001年参議院議員初当選。12年間の国会議員在任中、文部科学副大臣を2期務める。2014年10月より文部科学省参与、2015年2月より2018年10月まで文部科学大臣補佐官を四期務める。日本でいち早くアクティブ・ラーニングの導入を推進。2020年度から始まる次期学習指導要領の改訂、40年ぶりの大学入学制度改革に尽力。