公開シンポジウム
「金融商品の販売とフィデューシャリー・デューティ」
開催報告

日時:2016年9月15日(木)15:00~18:00 (開場14:30~)
場所:福武ホール地下2階 福武ラーニングシアター
主催:東京大学公共政策大学院 寄付講座「資本市場と公共政策」

開催趣旨

 日本では1700兆円に上る家計金融資産のうち、その半数以上が現・預金という形で運用されぬまま眠っています。しかし、日本経済が成熟した今、個々人の資産形成と我が国の持続的成長を両立させるには、これらの資産を、日本を含めグローバルに分散投資し、新興国を始めとする世界経済の成長の果実を家計に取り込むとともに、国内での成長マネー供給を図っていくことが求められます。

 このため、個々人がそれぞれのライフサイクルを踏まえた適切な形で金融資本市場に参加するための環境が必要です。中でも、個人が金融商品を購入する際の窓口である金融機関の役割は小さくありません。

 こうした環境づくりに向け、金融機関はいかなるプリンシプルに則って行動すべきでしょうか。このプリンシプルとして、今、自らを信じ財産等を託す者に対して、その信認に応える義務―「フィデューシャリー・デューティ」―が注目をされています。そこで、金融商品の販売の場面におけるフィデューシャリー・デューティをいかに考えるべきか、各界の英知を集めて議論します。

プログラム

15:00-15:10 開会挨拶
飯塚敏晃 東京大学公共政策大学院 院長
15:10-15:40 基調講演Ⅰ
神作裕之 東京大学大学院法学政治学研究科教授
「金融商品の販売とフィデューシャリー・デユーティ:法的観点からの検討」 講演資料(PDF, 550KB)
15:40-16:10 基調講演Ⅱ
中島淳一 金融庁総務企画局審議官
「国民の安定的な資産形成とフィデューシャリー・デューティー」 講演資料(PDF, 1,092KB)
16:10-16:20 休憩
16:20-18:00 パネルディスカッション
パネリスト
・小野 傑  西村あさひ法律事務所 弁護士、
       東京大学大学院法学政治学研究科 客員教授
       資料(PDF, 831KB)
・神作裕之  東京大学大学院法学政治学研究科 教授
・楠 雄治  楽天証券株式会社 代表取締役社長
       資料(PDF, 516KB)
・幸田博人  みずほ証券株式会社 代表取締役副社長
        資料(PDF, 1,549KB)
・中島淳一  金融庁 総務企画局 審議官
・樋口範雄  東京大学大学院法学政治学研究科 教授
       資料(PDF, 1,181KB)
(五十音順)
(司会) ・今泉宣親 東京大学公共政策大学院 特任准教授

開催報告

 2016年9月15日(木)、福武ラーニングシアターにおいて、「金融商品の販売とフィデューシャリー・デューティ」と題するシンポジウムを開催しました。これは、みずほ証券株式会社の支援を得て2007年度より開講されている寄付講座「資本市場と公共政策」の一環として開催されたもので、天候の思わしくない中でしたが、160名を超える方々に参加いただきました。

 冒頭挨拶を行った飯塚敏晃 本院院長からは、「日本経済が成熟した現在、1700兆円に及ぶ家計金融資産を有効活用し、個々人の資産形成と経済の持続的発展に繋げていくことは重要であり、個人が資産形成のための金融商品を購入する窓口となる金融機関の役割は小さくない」として、本テーマを議論する意義を指摘しました。

 シンポジウムでは、まず本学の神作裕之教授が「金融商品の販売とフィデューシャリー・デューティ:法的観点からの検討」と題する基調講演を行い、金融商品の販売におけるフィデューシャリー・デューティは、法的規範の話と非法的規範の話の2つを区別しつつ、両者の関係に留意して議論していく必要があることなどが指摘されました。
 続いて、金融庁の中島淳一総務企画局審議官が「国民の安定的な資産形成とフィデューシャリー・デューティ」と題する基調講演を行い、フィデューシャリー・デューティを巡る金融行政の経緯や金融における顧客のベストインタレストに向けた行動のためのプリンシプルの定着の必要性についてお話しいただきました。

  シンポジウムの後半では、基調講演者(神作裕之教授、中島淳一審議官)のほか、本学の小野傑客員教授(西村あさひ法律事務所弁護士)、樋口範雄教授、楠雄治楽天証券株式会社代表取締役社長、幸田博人みずほ証券株式会社代表取締役副社長をパネリストに迎えて、本院の今泉宣親特任准教授による進行で、1時間半余りにわたりパネル・ディスカッションを行いました。

 パネルでは、まず、小野教授より実定法上のフィデューシャリーの議論の必要性、楠社長及び幸田副社長より楽天証券・みずほフィナンシャルグループそれぞれにおけるフィデューシャリー・デューティを意識した取組事例、樋口教授より英米におけるフィデューシャリー・デューティの議論の概観について、それぞれご紹介いただきました。
 その上で、最後に「金融機関が、真に顧客のために活動するための行動規律は何か。特に顧客とのチャンネルになる販売会社の行動規律の在り方とは何か」をテーマに議論を行いました。議論の中では、行政におけるエンフォースメントについての考え、金融業界における現状の問題分析、法律の専門家から見た今後の論点などについて、意見が出されました。

 今回の「金融商品の販売とフィデューシャリー・デューティ」というテーマは、今後も、日本の家計金融資産のあり方、ひいては少子高齢化社会の下にあって日本経済が今後どう持続的に成長していくのか、という大きな目標に向けて、法学・行政・金融実務の三者を中心に、議論が深められていくことと思います。その中で、本シンポジウムが一つの機会となり、金融機関のリテールビジネスの発展をはじめとして、金融資本市場のさらなる進化に向けた取組みが加速していくことを強く願う次第です。

神作裕之  東京大学大学院法学政治学研究科 教授

中島淳一 金融庁 総務企画局 審議官

小野傑 西村あさひ法律事務所弁護士

楠 雄治  楽天証券株式会社 代表取締役社長

幸田博人  みずほ証券株式会社 代表取締役副社長

樋口範雄  東京大学大学院法学政治学研究科 教授

パネルディスカッション

会場全体