院長メッセージ

3年目を迎えて

2006年4月

森田朗院長 東京大学公共政策大学院 院長 森田朗

東京大学公共政策大学院は、2006年3月初めての修了生78名を送り出しました。創設以来2年、教職員も初めての経験でとまどうことも多く、学生諸君の期待に応えられない点も多々ありましたが、教職員、学生諸君の努力と熱意によって、世界に誇れる修了生を送り出すことができたことは、大変うれしく思っております。

修了生の諸君は、将来の幹部国家公務員として、また研究職、ジャーナリスト等をめざして、国の各省、シンクタンク、マスメディア、民間企業等へ就職しました。さらに一部の諸君は、大学へ残り博士課程へ進学しました。彼らが、これから各界で当大学院で学んだ知識や能力を発揮することを期待しています。そして、将来、世界を舞台として活躍する人物の中に、彼らの名前を見いだすことを確信しております。

公共政策大学院の存在も、この2年間に社会にかなり知られるようになり、3年目に入り、一段とこの大学院の存在と教育内容に関心がもたれるようになってきたと感じています。

当大学院では、これまで、将来の社会の職業選択の在り方を考えて、幹部公務員の供給ではなく、むしろ広く各界で必要とされることが間違いない公共政策に関する知識・能力をもった人材の育成をめざしてきました。

しかし、社会では、最近では公務員、とりわけ国家公務員の人気が低下してきていることもあり、公共政策大学院は、国家公務員の養成に力を注ぐべきであるという声も聞かれます。このような声は、とくにこれまで国家を担う人材を排出してきた東京大学への期待として、私たちも真摯に受け止めていきたいと思います。しかし、国家公務員はかつてのような職業としての魅力を失ってきており、また現在の公務員試験制度の下では、修士の学位を得た者に対する処遇が充分なものとはいえません。国家公務員がもっと魅力ある職業となり、採用試験も当大学院が取り組んでいるような高度の教育を受けた者について適切な評価を行うものになることを強く要望したいと思います。

3年目を迎えて、公共政策大学院では、新たに103人の入学生を迎えました。それとともに、まず第1に、教授陣にも変更がありました。常勤専任実務家教員として、総務省から小西敦教授を迎えました。また、非常勤専任教員として、任期を終えた茂田宏客員教授の後任として、元外務審議官の田中均客員教授を、同様に橘幸信客員教授の後任として、内閣法制局の山本庸幸客員教授を迎えました。さらに、新たに設置した寄付講座の担当教員数名の採用を進めております。こうした教員の参加は、教育面における拡充であるとともに、公共政策大学院の研究機関としての機能強化になり、先端的な研究成果の教育への反映がますます進むものと期待しています。

第2に、一昨年来進めてまいりました海外の大学の公共政策大学院との提携です。本年3月にアメリカのコロンビア大学公共政策大学院(SIPA:School of International and Public Affairs)との協定が正式に成立し、今年度から学生交流を開始します。また、まもなく、シンガポール大学リー・クァン・ユー公共政策大学院(LKY-SPP: Lee Kuan Yew School of Public Policy)との交流も始め、同様に今年度から学生の交流を開始する予定です。

さらに複数の国の大学から、交流の打診や呼びかけをいただいており、今後、可能なかぎりで国際交流の拡充を図っていきたいと考えています。

第3に、実務界との提携の強化です。昨年度から、航空振興財団からの受託研究「国際交通政策研究ユニット」を立ち上げ、関係各界の有識者を集めて活発な研究活動を展開しておりますが、今年度はそれに加えて、4月より東芝、東京電力その他十数社からの寄付による寄付講座「エネルギーと地球環境の持続性確保に関する公共政策」をスタートさせました。近く本格的に研究、教育を開始し、この分野での公共政策に関するフォーラムとして展開していく予定です。また、本年10月からは、損保ジャパンからの寄付講座「リスク・マネジメント政策」の設置と共同研究「大規模自然災害リスク、環境リスク等に対するリスク・マネジメント」の開始が決定しています。これらは、まさに現代における重要な公共政策の課題であり、実務の世界の専門家の参加による研究を通して社会に政策を発信していくとともに、学生諸君に現実の課題に取り組む機会を提供することによって、高い教育効果が発揮されることを期待しています。

また、1年目から続けている「公共政策セミナー」等もさらに継続し、各界の第1人者を続々と講師としてお招きする予定です。

第4に、カリキュラムや教育体制の見直しです。昨年から、たとえば要望の多い職業人に対する1年コースの設置や英語の授業の拡充等を検討しています。今年度からの改革は限られたものですが、今後、社会のニーズや教育方法の工夫等によって、積極的に改善を図っていく所存です。

施設面の改善はなかなか進みませんが、それでも学習環境の改善にできるかぎりの努力は惜しまないつもりです。5月からは、これまで離れたところに置かれていた大学院係を第2本部棟の6階に移転します。学生諸君の勉学の便宜を図るとともに、よりきめ細かい大学院の運営をめざしていきたいと思っております。

最後に、これからは初めての修了生諸君が設立した同窓会を核として、世に出た修了生と在校生を結びつけるとともに、それに各界の人々にも参加してもらい、大きなネットワークを形成していきたいと考えています。

関連項目

Dean's Message